外伝白雨side五話『大魔法使い』
「学園副理事長兼学長。駅で君を逃がそうとしていた人も、副理事長の方だよ。……君を逃そうとしていたから、私も私で君を更正させようとしたんだけど……。うん……仕方ない……よね」
今度は少女の表情が曇っていく。
そしてそこへ、少女の物でも白雨の物でも無い新たな声がこの小さな部屋に響き渡った。
「こんにちは」
その声は解放された枠から響き渡った。そしてすぐに見慣れた人物がそこから姿を現す。
「お、お前は……!」
そう言ったのは白雨だった。
そして唐突にこの場に現れたのは、グリムソウルだった。
グリムソウルは少女をジロジロと眺めながらも、白雨に手を差し出す。
「俺の助け……必要なんでしょ?」
「あぁ……利用させて貰おうか」
白雨が手を伸ばし、グリムソウルは掴まれた白雨の手を引っ張り上げる。
そして尋ねたのは白雨だった。
「勝てるのか? 学園の副理事長らしいぞ」
「無理だね」
「はぁ……?」
「彼女はそれだけに止まらない。遥か大昔、魔人との戦争に終止符を打った者に、こう名乗った者が居る。……そう、大魔法使いと」
「大……魔法使いだと?」
「あぁ。その文化は今でも残り、学園で偉大なる功績をあげた者を新たな大魔法使いに任命する。現在大魔法使いは……六名。彼女はその内の一人……すなわち学園副理事長兼学長兼大魔法使い。と言う事になる……ややこしい役職名だねぇ」
「そんな事はどうでも良い! 勝てないのであれば、どうしてここに来たと言うのだ!」
「慌てない慌てない。逃げる分には困らないからさ。それに、追い掛ける気も無いみたいだよ、彼女」
白雨は恐る恐る少女へと視線を移す。
少女はただ表現を曇らせて、白雨を見つめていた。
そうしている内にグリムソウルの背後に穴のような黒い闇が現れる。
「さ、行こうか。旦那」
「あ、あぁ……」
二人が闇の中に消え、その場に残されたのは少女だけだった。
「……ごめんね。私には救えなかった。でもこれが彼への罰なんだよね……。裁かれている事に気付く事も出来ず――」