外伝白雨side三話『それで君は? 誰なのかな?』
「くそっ。学園で何が起きていると言うんだ……?内戦か?」
あの場から去った白雨は、レンガの街並みを進みながら独り言を漏らしていた。
そして俯いて考え込んでいた白雨が、今度は自身が誰かに衝突してしまう。
「あ、すまない」
ぽよん。と白雨の頭頂部を受け止めたのは、白雨と同じくらいの背丈の少女……の小さな小さな胸だった。
そこで白雨は、貧乳でも柔らかいんだな。と失礼な感想を胸にしつつも、大袈裟に頭を下げて言った。
「すまない!! わざとじゃ無いんだ!!」
「女の子同士でそんなにうろたえなくても……」
茶色の長い前髪で顔が見えない少女が首を傾げる。きっと微笑んでいるのだろう。それは雰囲気でなんとなく伝わる。
しかし自身が女の体に入っている事をすっかり忘れていた白雨は、すぐに誤魔化すように笑って言った。
「だ、だよねー」
「それで君は? 誰なのかな?」
「……?」
少女の質問の意図が読み取れない白雨。
なぜぶつかっただけの相手に名乗らなければいけないのか。もしかして、これが運命の出会いとでも思っている悲しい思想の持ち主なのか。
学園には変人しか居ないのだな……。と白雨はくたびれ気味の感想を抱いて答えた。
「誰だって良いだろう。ぶつかった事は謝る。俺は先を急いでいるんだ」
早くも帰りたくなってきた白雨は、思わずリニアモータートレーンの駅へと向かって歩いていく。
そんな白雨の手首を握って少女は言った。
「あーうー……だ、駄目だよ。だって君の魔法陣……すごく乱れているんだよ?」
「……なに?」
そこで白雨は怪訝そうな表情を浮かべて振り返る。
まさか、こいつは特殊な機器を使わずとも魔法陣から情報が読み取れると言うのか。だとすれば、それは正しく化け物。魔人に準ずる力。
魔人が作り出した技術を人間が、専用の機器を使わずして扱えるはずも無いと、白雨は疑いの視線を少女へ向ける。
しかし少女は笑って言った。
「二人の名前が示されてるんだけど、君は白雨ちゃん? それとも琥珀ちゃん?」
それを聞いて白雨は、払うように手を引き離す。
目前で微笑む少女は、正真正銘の化け物だった。
「お前……なんなんだよ……」
少女は白雨を下から上へ一瞥すると、問いに無視するように続ける。
「え! 女の子だと思ったけど、男の子とも示されてるよ!? だからさっきはあんな反応をしたの?!」
そこで白雨は少女に背を向けて駆け出した。
この少女とこれ以上関わってはいけない。そう感じたからだ。
対して少女は、白雨の背に指先を向けると呟くように言った。
「ごめんね。真相を確かめるまでは逃がしてあげれないの。ミュー『slepton』」
そして魔法を詠唱した瞬間、白雨は麻酔銃に打たれたかのように倒れ込んだ。
そして気を失う白雨の肩に触れて呟く。
「魔法陣の改竄は学園では認められないんだよ」
そうして二人は、まるで滲んだ絵の具のように周囲に馴染むように、その場から姿を消した。