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外伝白雨side二話『面倒事はごめんなんだ。』

「そうか。ご苦労様」

そう言って白雨は、スタスタと歩いていく。

すると囚われの少女がとんでもない事を叫び出した。

「何してるの! 早く逃げて!!」

そう叫ぶ少女は確かに白雨を見つめていた。

スコラミーレス達がざわざわと騒ぎ始める。

「はは……。あの娘、気でも狂ったんでしょうな……はは」

白雨からはひきつった苦笑いしか出なかった。

ここで逃げれば怪しまれる。しかし逃げなくとも怪しまれる。

どちらにせよ事情を話せば無関係である事は証明できるが、それは教祖と何らかの関係を持っていた事が調べられてしまう可能性もある。

別に教祖を直接手に掛けた訳でも無いが、近くに弟の時雨が居た事や、そもそも教祖を殺したのは従者である琥珀の仕業である事や、もっと言えば、今、白雨はその体の持ち主である事を考えれば、何がなんでも事情聴取される訳にはいかなかった。

「では、俺はもう行くとしよう」

そう言って歩みを再開する白雨の肩に、男が手を置く。

「大変恐縮ではごさいますが、あらぬ疑いを晴らす為にも、ご同行をお願い致します」

「お、俺は忙しいのだ」

「ご協力……お願いします」

「こ、断る……」

「……ここであなた様を逃した所で、我々はあなた様の事を調べ尽くすでしょう。邪な事が無いのでしたら、ご協力お願いできませんか?」

諭すような男の声。

いっその事、ここに居る全てのスコラミーレスを全滅させて逃れようか、と白雨が熟考していると不意にスコラミーレスのものだと思われる叫び声が響き渡った。

「今度はなんなんだ!」

面倒事に面倒事が重なる事に白雨がうんざりしていると、スコラミーレスの集団が散らされるように宙を舞っていた。

そしてどこから現れたのか、少女の周囲を駆け巡る電撃を素手で弾き飛ばす黒いコートの人物が一人。

男が叫ぶ。

「くそっ! 奴に気付かれたか!? 仕方ない! 重罪人以外は殺してもいい! 近代魔法『イナジマリーソード』」

そして男は手に持つ杖から刃を出現させ、白雨に突き刺した。

「……あぁ?」

腹部から溢れ出す血液に触れて白雨は呟く。

そして男は白雨を払うように杖を抜き取り、コート姿の人物に駆け出した。が、その歩みはすぐに停止する事になる。……なぜなら笑みを浮かべる白雨が、 男の肩を強く掴んでいたからだ。

「これで正当な理由が出来たわけだ」

そう言って白雨は男の腕を掴み、一思いに引きちぎる。

そして奇声を上げる男の脳天へちぎり取った腕を突き刺した。

男がその場に倒れ込むの機に、他のスコラミーレス達が白雨目掛けて駆け出す。

「奴も仲間だ!! やれ!」

俯く白雨。腹部の傷が一気に癒えていく。

そしてスコラミーレスの握る魔法の剣が白雨に今、正に迫ろうとした時、その剣を止めたのは、間に割って入る黒いコートの人物だった。

傷を完治させた白雨がその人物を睨む。

あろう事か、その人物はその剣を片手で握って受け止めていた。

そしてお菓子を割るように、剣を容易く砕いて言う。

「面倒事はごめんなんだ。さっさと逃げてくんない?」

男性の声だった。

「……それは俺の台詞だ」

「あっそう。じゃあ、無駄口叩いて居ないでさっさと逃げな。……ハイドラの君主さんよ」

「貴様……! なぜそれを……!」

コートの人物の接近により、怯んでいたスコラミーレス達がまたもや一斉に駆け出す。

コートの人物は気だるそうに首を回すと、腕を高く上げ、それを面倒臭そうに降り下ろす。

すると強烈な黒い風が発生し、たったそれだけの事で、スコラミーレス達が成す術も無く地面に叩き付けられた。

「魔法も詠唱せず……ただの魔力だけでこれだけの事を……」

目を丸くする白雨が周囲を見渡して呟く。

スコラミーレス達は、苦しげな表情をして浮かべて立ち上がろうとするが、誰も動けずに居た。

コートの人物はさも当然かのように言う。

「学園を甘く見るな。上層部はお前の事などとっくに認知している。……その上で泳がせているんだがな。お前なんぞ問題として取り上げるまでもねぇってこった」

「言ってくれるでは無いか……」

「まぁ、そう言うこった。どうでも良いからさっさと行ってくれ。無闇な殺生はしないように言われてるんでな」

そこでコートの人物は少女の方角へ歩いていく。

そして背を向けたまま続けた。

「学園観光するのは勝手だが、あまり長居しない方が良いと思うぜ。泳がされてるとは言っても良い印象は抱いてないからな。……一応、俺は警告したからな? じゃあな」

「なに……? ちょっと待て」

コートの人物が少女の肩に触れる。

白雨は叫ぶように尋ねた。

「お前はどこの人間なんだ!?」

「うるさいな……。俺は学園の人間だよ」

コートの人物がそう答えた途端、背後の空間が割れた。

そして、まるでガラスのように砕け散っていく空間の先には闇が広がっていた。

白雨がその事にまたも目を丸くしていると、少女とコートの人物は闇の中へと消えていく。

そうして闇は綺麗に消え去り、その場に残ったのは、立ち尽くす白雨と踞ったままのスコラミーレスだった。

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