十五話『……分かったよ。今行くね……!』
ファフニールアルファ領は既にハイドラの手中だった。
故に時雨はそちらには寄らず、アクア領の近辺の宿へと足を運んでいた。
そして宿の一室で、大きなソファに腰掛ける時雨は、ベッドで横になるエルを見て言う。
「ごめんね。同じ部屋で……。エルちゃんの様子を見ないと……また暴れたら困るし……」
「ん。分かってるよ」
琥珀も茫然とエルを眺める。
そして恐る恐ると言った様子で続けた。
「時雨君とエルさん……って……その……どんな関係だったの?」
「うーん。説明が難しいなぁ……。恩人……かな?」
「恩人……」
「度々助けてくれたり……?」
「仲は良かったの?」
「……悪くは無いよ。知り合いくらいの関係かな?」
「そっかそっか」
何度も頷く琥珀。
時雨が首を傾げていると、不意にエルが起き上がった。
「うーん……。ボ、ボクは……」
「え!? 男の子!?」
エルに向けての琥珀の第一声はそれだった。
慌てて時雨がフォローに入る。
「違う違う! エルちゃんは女の子!」
「そうなの? 可愛い見かけしてる時雨君が僕って言ってるから、てっきり男なんじゃないかと……。女の子なのにボクって言ってるのがおかしいのか、男の子なのに可愛いのがおかしいのか……」
「まぁまぁ、そこは個性って事で」
それはそうと……と時雨はエルに視線を戻して尋ねた。
「体調大丈夫?」
「うん……大丈夫」
「何があったか覚えてる?」
「グリムソウルさんに君達を迎えに行くように言われて……。そうか……力が暴走してしまって……」
順に思い出していくように答えるエルに、時雨は頭の上に疑問符を並べて尋ねる。
「力が暴走? グリムソウルさんが迎えに……?」
「うん……ボクね、昔に体の魔法陣を弄られててね。実験台にされてるんだ。まぁ、その後遺症みたいなものかな」
うつ向くエル。
そんなエルに歩み寄って返したのは琥珀だった。
「酷い話ね……」
「けど引き替えに強大な力を手に入れられたんだけどね。そのおかげでボクは友達の力になる事が出来てるんだけど……」
時雨もエルに歩み寄って尋ねる。
「友達……。ねぇ、エルちゃんはどうしてグリムソウルさんと一緒に居るの?」
「それは……友達の為……。魂に詳しい人を探していたんだ。まぁまぁ、ボクの話はこの辺にしといて、グリムソウルさんに君達を転送するように言われて来たんだ」
「どこに??」
「ハイドラ城の前! そこにグリムソウルさんが既に待ってる。君達が拒否しなければ送り届けるけど……」
「もちろん向かうよ。ハイドラ領に……ってのが気になるけどね。けどそんな力使って、体調大丈夫なの?」
「魔法陣が改竄されてから、体力の回復も早いんだ!」
エルは両腕でガッツポーズして答える。
そうしてエルの出現させたワープホールによって、時雨と琥珀はハイドラ城の前に転送された。
その場に残されたエルは、ベッドから立ち上がり呟く。
「魂の呪いの解き方……分かったよ。今行くね……!」