十四話『あ、あの。それで私からも、きちんと言わないといけない事があるなと思って……!』
次に少女が目を覚ますと、最近やっと見慣れてきた自室だった。
柔らかいベットの上で少女は呆然と天井を眺めながら気を失うまでの事を思い出す。
ふと気が付けば、額にはまだ湿っている濡れタオルが乗っていた。
誰かが看病してくれていたのが分かる。
まさか少年では無いだろう。と上半身を起こして周囲を見渡すと、案の定と言うか、やはりそこに居たのは少年では無かった。
「目が覚めた?」
そう言ってシーツの上に落ちた濡れタオルを拾い、金属のバケツの中で水に浸らせたのは、メイド長だった。
「看病……。ありがとうごさいます」
ひとまずはお礼をする。
だが何も上の立場であるメイド長が、わざわざ看病をする事も無いだろうに。と少女は思った。
そんなメイド長の表情は曇っていた。浮かれない……何かを気にしている表情。
そこで少女は察する。
「体……痛くない?」
メイド長をそこまで動かしていたのは罪悪感だった。
自分が侵入者の撃退を任せてしまったばかりに、少女に大怪我を負わせてしまった。
その後ろめたい気持ちこそが、今ここにメイド長が居るに至る証拠。
そんなメイド長の問いに少女は、虐めておいて心配はするんだと心の中で冷たく思ってしまう。
そしてそれは態度にも現れる。
「痛くないです」
誰が見ても不貞腐れた可愛いげの無い返事だった。少女自身もそう思う。
実際の所は、身体中のあちこちが痛かった。
しかしそれをメイド長に案じて欲しいなどとは思わない。
「そっ……か。なら良かった」
メイド長の態度にどこか違和感を覚えた。
横目でメイド長を確認すると、まるで自分の行動を阻害されるたかのような戸惑い方をしている。
胸の前で腕を縮こませ、怯えているのではなく、おどおどとしていた。
「あ、あの。それで私からも、きちんと言わないといけない事があるなと思って……!」
そして勇気を振り絞るように言う。
そこから立て続けにメイド長は続けた。
「あの……まず侵入者の捜索に当たってくれて……ありがとう……。あなたが居てくれて……助かったわ……。そ、それと……! 今まであなたにきつい当たりをして……その、ごめんなさい!」
メイド長はそこで深く頭を下げた。
少女は衝撃を受けて硬直してしまう。
「き、気にしてませんから……。私の方こそ乱暴な事をしてすみません……」
メイド長の予想外の言動に、少女は掛ける言葉が見つからなかった。
これでは自分の方が子供みたいじゃないかと、被害者であるはずの自分を責めてしまう。
そして純粋に嬉しく思う自分がこっぱずかしかった。
「それで明日から……洗い物と洗濯から任せたいと思うのだけど……」
少女は自分が単純な人間だなと思いつつも、満足げな表情を隠すように頷いた。
「仕事であれば、なんなりと」