十一話『……契約の魔法使い同士でテレパシー送れたりとか!』
「ハイドラに遺伝魔法を与えた魔人なんだけどね……どうやらグリムソウルって名前の魔人らしいよ?」
天井に備え付けられているエアコンから強い風が吹く。
それは時雨と琥珀の髪を揺らすと同時に、開かれている本のページを勝手に捲っていった。
「え……じゃあ、僕の叔父である驟雨さんが、なんでグリムソウルだなんて名乗っているんだろう……。って言うかあの人の目的も良く分からないし……」
「うーん……それは私にも分からない……。けど、私からすれば恩人なのには変わりないよ」
「そう言われれば、僕もそうなるんだけど……。あの人、度々(たびたび)姿を現すけど、こちらから接触する方法ないからなぁ……聞きたい事だらけだよ」
はぁぁ……と肺にあるだけの空気を吐くようにわざとらしい溜め息をする時雨。
そのまま机に突っ伏す時雨に、琥珀は覗き込むように同じく突っ伏し、
「じゃあ、なんとか接触する方法考えてみよっか」
微笑みながら言った。
思いがけない急接近に、時雨は視線を逸らしてしまう。
それにしても琥珀が言うように、そう簡単にいけるとは思えなかった。
「う、うん。そうだね。でもそんな上手くいくかなぁ……?」
「……契約の魔法使い同士でテレパシー送れたりとか!」
「ないない」
「だよねー」
あははと琥珀は苦笑いを浮かべる。
しかし意外な所で、時雨はとある人物を思い出した。
「テレパシー……では無いんだけど……。そうだ……エルちゃんならもしかして……」
ゆったりと上半身を起こす時雨に、琥珀も体を起こして尋ねる。
「エルちゃん……?」
そして琥珀の問いに、時雨は独り言のような呟きで返した。
「そうだよ……! 禁足地の魔女と呼ばれてた彼女なら……まだ禁足地に居るかも!」
「それが誰かは分からないけど、グリムソウルさんに会える可能性があるなら会いに行こうよ!」
「そうだね! 明日は仕事だから、明後日にでも! もちろん琥珀ちゃんも来てくれるよね!」
「ん! もちろん!」
二人の静かなハイタッチが周囲に人間の視線を僅かに引く。
しかし今の時雨にとって、そんな事はどうでも良かった。
琥珀の謎とハイドラの謎。その二つの謎が明後日に解き明かせると思うと、なぜか胸踊る希望が涌き出てきたからだ。