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話『って私、なんか子供扱いされてます?』

「魔法の基礎か……」

 そう呟いた琥珀が見つめる物は、図書館の本棚だった。

「うーん。まだ待ち合わせには時間があるし……魔法の勉強でもしようかな……」

 そう言って本棚を見上げる琥珀は、高い位置にある目当ての本に手を伸ばす。

 しかし、

「と、届かない……!」

 ぐぬぬと奥歯を軽く噛み締めて、琥珀はその場で何度か小さく跳ねてみた。だが、その本にはやはり手が届かない。

 はぁ……もう諦めてしまおう。と早くも、くたびれかけの琥珀がその場を去ろうとした時、不意に何者かがその本に手を伸ばしていた。

 次にその人物は、琥珀に取ったばかりの本を差し出して微笑む。

「はいこれ。取りたかったんだよね?」

「あ……はい、ありがとうございます」

 琥珀はその本を受け取って頭を下げる。

 本を代わりに取ってくれたのは、黒い長髪を一つに括った眼鏡の男性だった。

 なにやら白い服装の胸の辺りにエンブレムが付いている。どこかで見た事のある服装だな……と少ない思い出を遡った所で、その服装がアクア領の保安機関の制服だった事をつい最近知った事を思い出した。

 そうしてまじまじと制服を眺める琥珀に、男性はどこか興味深そうに尋ねる。

「偉いね。今から魔法の勉強かい?」

「はい、そうです」

「そっかそっか。それ、魔法の基礎の本みたいだけど魔法には不慣れなのかな?」

「慣れ……てはいませんね。いくつかの魔法は思い出したのですが……初心に帰ろうと思いまして……」

「思い出した……?」

「あ! いえ、こちらの話です!本、ありがとうございました!」

 不審に思う男性から逃げるように、琥珀は本を胸に抱えて小走りで去っていく。

 そうして席について本を広げる琥珀を、男性は本棚の隙間から覗いて呟いた。

「あの子……興味深いね」








「えっと何々? ……魔法は何も相手を攻撃する為だけの物ではありません。ふむふむ、同じ魔法でも工夫と使い方次第で化ける事もあるし、全くと言っても良いほど役に立たせる事が出来ない事もある……と。ふーん」

 小さな声で朗読する琥珀はそこでページを捲る。

 そして同時に、隣の席の椅子が誰かによって静かに引かれた。

「お隣良いかな?」

「あ、どうぞー」

 琥珀は気を使うように、椅子と共に距離を開ける。

 そして隣に腰掛けた者は、どう言う訳か先程の男性だった。

「あ……先程はありがとうございました。……まだ何か……?」

 さすがに琥珀も怪訝そうな表情で尋ねる。

 すると男性は、琥珀の読んでいる本を少し自分の方へ引き寄せ、勝手にページを捲っていった。

「あ……!」

 男性の突然の行動に、驚く琥珀。

 そしてそんな琥珀に、男性は本の一文を指差して言った。

「魔法の初心者に特に読んで欲しいのがここ」

 男性は本を持ち上げて微笑む。

 思わず琥珀は、

「……相手の魔法を良く知り、それを利用するのも魔法使いとしての腕前……だ?」

 その一文を口にして首を傾げた。

 男性は楽しそうに答える。

「そうそう。だからもし戦いで不利な状況になっても、慌てず冷静に判断する。実はそれこそが僕達保安機関の基本となっているんだよ。悪い人の魔法をきちんと理解しないと、住民を守れないからね」

「そうなんですね……。って私、なんか子供扱いされてます?」

「ふふ、面白いね君」

「あ、はぐらかしましたね」

 声を抑えるように笑う男性。釣られて琥珀も微笑む。

 するとすぐに男性は立ち上がって言った。

「ごめんごめん。伝えたかったのはそれだけ。でも昔、現場で戦っててそれが一番重要だと思ったからさ。じゃあ僕は仕事があるから失礼するよ」

「あ、はい。ありがとうございました。……ところで保安機関の方がどうして図書館に?」

 立ち去ろうとする男性の背中に、琥珀は尋ねる。

 男性は図書館の窓を指差して答えた。

「この図書館の裏にはね、運動場があるんだ。そこを借りて僕達、保安機関の人間が訓練する事もある。良かったら見学していく? 魔法に関して得られる物があるかも知れないよ?」

「い、良いのですか?」

「もちろん。見学は誰でも自由にして良い。ただ、そんな物好きはあんまり居ないけどね」

 男性はそう言って手を差し伸べる。

 そして笑顔の琥珀が椅子から立ち上がった所で、見知った声が静かな図書館に響き渡った。

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