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外伝『時雨さんどうぞー』

「緊張するなぁ……」

 そう呟く時雨は今、アクア領の保安機関の本拠地に面接に来ていた。

 まるで病棟のような白い空間の廊下で、壁に接するように配置された椅子に腰掛けて深い溜め息をつく。

 それと同時に最寄りの扉が開かれ、中から時雨の名が呼ばれた。

「時雨さんどうぞー」

 男性の軽い声。それこそ、まるで看護師に呼ばれたかのような感覚になる。

 時雨は途端に激しく胸打つ心臓を押さえ、立ち上がった。

 思えばこうして人の下で働く為の面接など、人生で一度もした事など無かった。

 名のある貴族の元で生まれたのだから、当然と言えば当然だが、今はその生き様が足枷(あしかせ)となってしまっている。相手の質問に対してなんと答えれば良いのか。一般人であれば、いわゆる定型文と呼ばれる決まり文句があるのろうが、今の時雨にはただ質問に素直に答える事しか出来ない。まぁ、そう言った素直な気持ちが重要だとも聞くし何とかなるだろう。と時雨は自分に言い聞かせるように部屋に入った。

「し、失礼します……」

 小さな声で小さく会釈する時雨。

 対面では面接官だと思われる三名の男性が顔をしかめさせている。

「君、こう言った面接は初めてかな?」

 優しく微笑む男性の問いに、時雨は素直に答えた。

「は、はい!」

「そうか。普通は大きな声で失礼しますと言って、頭を大きく下げる物だよ」

「す、すみません!」

 慌てて頭を下げる時雨。

 中央の男性は咳払いをする。

「うちは実力が高く、誠実な人間であれば雇うようにしてる。礼儀作法はこれから覚えれば良いし、君もまだ若いからね。君みたいな若者も少なく無いよ」

「そ、そうですか……良かった……です」

「だけど少しくらいは下調べするべきだと思うよ。私は」

「す、すみません……」

「……まぁいい。では椅子に座ってくれるかな?」

「はい!」

 時雨は大きな声で返事をすると、椅子に腰掛ける。

 そうして面接官が手元の資料に目を通し、再び時雨へ視線を向ける。が、先程までとは違い、その視線は鋭く、まるで睨み付けるかのようだった。

「あ、あの……僕また失礼な事を、しましたでしょうか……」

 時雨の不安げな質問を無視するように、面接官が耳打ちで会話をする。

 そうして中央の男性を残して、端の二人はこの部屋から去って行ってしまった。

 時雨と面接官だけの部屋に緊迫した空気が流れる。

 そこで面接官は立ち上がりながら言った。

「君、時雨ハイドラと言う名前で履歴書を通してくれているけど……あのハイドラ領の関係者かな?」

「……なにか問題でもあ――」

「――大ありですよ」

 時雨の言葉を遮るように面接官は答える。

 そして見せつけるように小さな杖を机の上に置いて続けた。

「ハイドラ王が亡くなって、君たちの国は長男が継いだと聞かされて居ます。にも関わらずどうしてその弟がアクア領の保安機関で働くと言うのでしょうか。偵察ですか? しかし偵察だとすれば見え透いている。それとも新手の宣戦布告か……。どちらにしてもハイドラ領は住民を操り、軍事力を高めていると聞いています。危険な国です。この際ハッキリとさせましょう。あなたの目的はなんでしょうか」

 冷たい男性の声。

 時雨も慌てて立ち上がって言った。

「ち、違うんです! 僕は何も関係ない! 兄貴によってハイドラ領は乗っ取られ、僕も国を追い出されたんです!」

「それを我々が信用するとも……?」

 男性は机に置いた杖を手に取る。

 時雨は警戒するように構えた。

 それに伴い、腰掛けていた椅子がその反動で倒れる。と同時に、突如として部屋の扉が開かれた。

 慌てて時雨は振り返る。そしてそこに居たのは、ドレス姿の女性だった。

「王女様!!」

 面接官の男性が顔を青くして頭を下げる。

 そうして王女様と呼ばれた女性は、困惑する時雨に笑顔で言った。

「あなたが時雨ハイドラね。私から話がある。場所を変えるね」

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