四話『お返しだよー!』
「アクア領で仕事を探そうと思うんだけど、この街の保安機関とかどうかな?丁度、募ってるらしいし」
ちゃぶ台の前で胡座をかく時雨は、畳の部屋にはなんともミスマッチと言わざるを得ないベッドの上で横になる少女……本を読みながら仰向けに転がる琥珀に尋ねた。
気が付けば、部屋には琥珀の私物が増えていた。
部屋にあるちゃぶ台もベッドも、食器類やそれらをしまう棚もその他も全て琥珀の部屋から移動させたものだった。
そしてそれらを移動させた当の本人である琥珀は、コロリンと転がって時雨を見つめて返す。
「危なくない?」
「大丈夫! 大丈夫! 僕こう見えて強いんだから!」
「ふーん……」
琥珀はじとーとした目付きで時雨を凝視する。
「な、なに?」
「いやーだって時雨君。見た目、女の子みたいな顔立ちだから。本当に大丈夫? 変な性癖の先輩とかに誘われちゃうよ?」
琥珀は半笑いで言った。
「さ、誘われるって……! 変な妄想してるのは琥珀ちゃんだよ!! って言うかそっちの心配!?」
あははと琥珀は笑う。
「冗談! 冗談! 時雨君がしたい事をすれば良いと思うんだー」
「もう」と時雨は溜め息をつく。その溜め息から悪いものは感じさせなかった。故に琥珀もニコニコと時雨を見つめていた。
続けて時雨は殺風景では無くなった、我が部屋を一瞥する。
「所で琥珀ちゃんはどうしてこんなに家具を持ってるの?」
「ん、グリムソウルさんに貰ったー。逆に時雨君が何にも貰えて無い事に驚きかな。まぁベッドは部屋に二つあったから、一つは渡す予定だったのかも……」
「……なんか対応の格差を感じる」
別に期待していた訳でも、そんな期待を抱くような相手でも無い事は理解している。が、それでも人間とは欲深い物で、落胆としてしまう。
琥珀は、そんな時雨とはうって変わって、笑顔で言った。
「まぁまぁ。私は時雨君の隣に住まわしてくれた事に感謝してる。それこそ家具なんて要らないから、時雨君の隣に居させて欲しい……なんて」
「琥珀ちゃん……」
胸を打たれたかのように体を硬直させてジーンとする時雨。
それを見て琥珀は気恥ずかしく思ったのか、体を起こしながら言った。
「あーもう! なんか恥ずかしい! 辛気臭いのなし!」
時雨はにやにやと笑う。
「でも琥珀ちゃんが言った事だよ?」
「と、とりあえず保安機関に行くなら大きな怪我しないように気を付ける事! 分かった?!」
時雨の質問を流すように琥珀は強く言った。対して時雨は押しに負けたかのように答える。
「わ、分かった」
そして人差し指を立てて続けた。
「でも琥珀ちゃんも気を付けてよね」
「んー……? なにを??」
「部屋を開けっ放しにしない事。さすがに不用心だよ」
「んー……ごめん分かった!」
コクコクと頷く琥珀。
時雨はそんな琥珀をそのまま指差して言う。
「可愛いんだから、それこそ変な人に襲われちゃうよ」
「か、可愛くなんか無いし!」
驚きながらもそう返した琥珀は、顔を赤くしていく。
そうして時雨は楽しげに言った。
「あはは、照れ臭いのお返しだよー!」