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百十六話『最終決戦』

 琥珀と時雨。迫る来る二人を白雨は笑って待ち構える。

「ははは。まさかお前たち二人と戦う事になるとは思いもしなかったぞ」

 そうして時雨の一太刀が白雨を襲った。

 それを白雨は背後へ跳ねる様に退避する。が、そこへ合わせる様に琥珀は飛び跳ね、白雨の腹部へ蹴りを入れた。

 そして落ちて来る白雨を、時雨は剣で切り捨てる。

「弟様……やりましたか?」

「いや、ハイドラの真骨頂はここからだよ」

 時雨がそう言ってすぐに、足元で血みどろになって横たわる白雨の体が突如どこからともなく現れた赤い液体に包まれた。

 それは白雨を見えない程に覆い隠すと、球体になって徐々に宙に浮いて行く。そしてその中から飛び出す様に白雨は現れた。

「酷いな時雨よ。実の兄を何の躊躇いも無く切り捨てるなんてな――」

 白雨の手に握られる赤い剣が縦に振るわれ、時雨を襲う。それを時雨は同じ赤い剣で受け止めると、その場で小さく跳ねて相手の剣の側面を回し蹴りで弾き、その勢いのまま剣を横に振った。

「――親の首を切り落とした俺となんら変わらないではないか」

 対する白雨はそれを屈んで回避し、宙で回転する時雨の首を掴み上げる。そしてそのまま地に叩き付けようと腕を高く振り上げた所で、横から割って入る琥珀の拳が白雨の額を撃ち抜いた。

「お前も大概に面倒くさい奴だ――」

 その衝撃で仰向けに倒れながらも白雨は言う。

 そこへ琥珀は追い打ちを掛けようと、足を高く振り上げ、靴底を白雨の顔を目掛けて一気に振り下ろした。

 しかし白雨はそれを間一髪の所で身を捻って避けると、琥珀の体重を支えている方の片足へ足払いを仕掛ける。

「――契約の魔法を無効化した所で、力尽くで従わさせてやる」

 琥珀はそれを膝裏に受けてしまう。それに伴い、琥珀は白雨を睨んだまま地面に倒れ行く事しか出来なかった。そしてそこへ、白雨は琥珀がしたように足を高く振り上げ、琥珀の腹部へ靴底を叩きつける。

「琥珀ちゃん!!」

 時雨が慌てて距離を詰めるが、笑みを浮かべる白雨はそんな時雨よりも先に距離を詰め切り、動揺する時雨の腹部に剣を突き刺した。そしてそのまま時雨を、うめき声を上げる琥珀の隣へ振り払う。

「まぁ、この程度だろうな」

 そうして並んで倒れ込む二人を、白雨は見下しながら言った。

 琥珀は腹部を押さえて、ふらふらと立ち上がる。そしてどう言う訳か、剣で切られた訳でも無い琥珀は血液を流していた。

「ほう、なんともまぁ汚くも美しい恰好では無いか」

 白雨は琥珀の顔から視線を下に落とし、顎を撫でながら言う。

 あろう事か白雨の見つめるその血液は、琥珀の切るコートの裾から見える太腿を辿って流れ出ていた。

 そして白雨は、小馬鹿にするかのように半笑いで続ける。

「何だお前……生理なのか?」

「……くず」

「それしか言えんのか、お前は」

「……あなたと口も利きたくない」

「白雨様だろう? 琥珀よ」

「黙れ……!」

 そう言って琥珀は跳ねる様に距離を詰める。

 そこへ白雨はタイミングを合わせる様に蹴りを仕掛けるが、

「『』」

 魔法を詠唱する琥珀の手が、白雨の振り上げられる足に触れるや否や、その足を凍り付かせた。

「なんだと?」

 そして琥珀はそのまま全体重を乗せて白雨の足を踏みつける。その瞬間だった。パリン……どこが儚げな音を鳴らして、白雨の足は崩れ落ちて行く。

「俺の足が……!?」

 片足を失った白雨はバランスを崩してその場に倒れ込んで行く。

 そこへ琥珀がさらなる追い打ちを掛けようとしたその時だった。

 突如として爆発音が鳴り響き、白雨と琥珀の視線を集める。 

 そして琥珀が見たものは、

「弟様!?」

 父親の遺体を火の魔法で焼き尽くす時雨の姿だった。

 時雨の突然の奇行に、琥珀は戸惑う。そうして燃え盛る火炎を背後に、時雨は涙を流して言った。

「兄貴……! これで血液は親父の死体と共に無くなった。傷を治す事はもう出来ない……!」

「馬鹿だな時雨よ。血液など、いくらでも流させれば良いんだ」

 白雨は地面を叩いてその反動で起き上がると、手に握る剣の切先を琥珀へ向ける。

 そしてそのまま倒れ込むように体重を乗せて琥珀へ剣を突き出すが、その剣を時雨が弾いた。

「お前……血液も無いのにどうやって身体能力を強化した……?」

 またしても白雨は体勢を崩しながら尋ねる。しかし泣き続ける時雨はそんな白雨の問いを無視して、兄の胸元に剣を突き刺した。

「時……雨……お前まさか……」

 白雨の手から剣が抜け落ち、地面に当たると同時にその刀身は姿を消した。

 時雨は剣を勢い良く、抜き取る。

 そうして白雨は時雨の瞳を茫然と睨み、そして笑みを浮かべたまま倒れていった。

「ごめん。兄貴……」

 瞳孔を開いたままの虚ろな瞳で天井を眺める白雨の瞼を、時雨は閉じさせて呟く。

 そして次の一瞬で、白雨は赤い血液に形を変えて、その場に血の池を作った。

 その事実に、時雨は目を丸くして続ける。

「なぜ、消えた……? ハイドラ一族が死ぬとこうなるのか……? そんな話は聞いた事無い……それにお父さんの死体は残っていたはず……」

 白雨がまだ良からぬ事を企んでいるのでは無いかと、時雨は思い頭を悩ませる。しかし悔しい事に兄の白雨のハイドラとしての力は、自分を全て上回っていた。ここで考え込んでも、答えには辿り着けないだろう。まだ他に何かリアクションさえあれば、推測は出来るものの……。と、そうして黙り込む時雨の背後で佇む琥珀は、静かに言う。

「……おめでとうございます。弟様」

「おめでたくなんかないよ……琥珀ちゃん」

 時雨は俯いたまま答えた。

 そんな時雨に、琥珀は歩み寄りながら続ける。

「そう……ですね。弟様。失礼しました。でも私の心は……少し救われたのです……。それと失礼ついでに――」

 そこで時雨は琥珀の言葉を遮るように、振り向いて言った。

「――ねぇ、琥珀ちゃん。さっきの言葉、いつもの調子でもう一度言ってよ」

 戸惑う琥珀は小首を傾げて復唱する。

「そう……ですね。弟様。失礼しました。でも私の心は……少し救われたのです……ですか?」

「ねぇ、琥珀ちゃん。二人きりの時は、僕の事を何て呼ぶって約束したっけ?」

 時雨の問いに、琥珀は笑顔で答える。

「あ! そうでしたね。申し訳ございません。時雨様」

 時雨は笑う。

「……そうだよ。もう琥珀ちゃんってば」

「あはは、私も少し気が動転してたみたいです」

「それで琥珀ちゃん? そんな約束いつしたっけ?」

「……どう言う意味ですか?」

 少しうろたえる琥珀に、時雨は終始笑顔だった。

「言葉のまんまだよ? そんな約束をいつどこでしたっけ? と思って」

「……」

 そこで真剣な表情をする時雨に、今度は琥珀が作り笑いを浮かべて黙り込む。

 そして次の瞬間だった。琥珀の手にどこからともなく現れた赤い剣が握られ、そのままそれは時雨を目掛けて振り払われた。

 それを時雨は間一髪の所で回避すると、冷や汗を流して呟く。

「まさか……お前は……」

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