断章『生まれる前』
「琥珀フリーレン。私の声が聞こえる?」
「誰!?」
唐突に名を呼ばれ、琥珀は目を覚ます。
そこは真っ暗闇の世界で、気が付けば琥珀は真っ黒の地面に立ち尽くしていた。
そして目前には茶髪で黄色の瞳を持つまだ幼さを残した女性が笑っている。
琥珀は改めて尋ねた。
「あなたは、誰ですか?そしてここはどこですか?」
尋ねてすぐに琥珀の表情は曇った。
と言うのも、どう言う訳か女性も自分も全裸だったのだ。そしてもう一つ、琥珀にとって不可解な事があった。
「私に……似てる……?」
実際の所、瓜二つとまではいかないものの、茶色の髪や瞳の色だけにならず顔の特徴もそれなりに近いものがあった。
女性はくすくすと笑う。
「ふふ、だって私はフリーレンだもん。どうだった? 私の力は」
「……あぁそう言う事ですか。だって直前の記憶では私は祖母の家で眠ってましたからね。夢の中でご先祖様が話し掛けてきているとかそう言う事ですよね?」
「半分あたり」
「半分?」
「ここが夢の中だと言うのは正解だけど……私があなたのご先祖様と言うのはちょっと違うかな?」
「私はフリーレンの血筋を継いでいるのでは……?」
「うーん。そう捉えてもあながち間違いでは無いのだけど……。実際にあなたが継いでいるのは、私の魔力」
「魔力……?」
「うん。けど今はそんな話をしに来た訳じゃない」
琥珀は小首を傾げる。
少女は、自分の顎を撫でながら続けた。
「ここは夢と言ったけど正確には違う。まぁ、難しい話は無しにするとして、要は今のあなたは生まれる前の状態なの」
「意味が分かりません……」
「そうだよね。今の時代に生きるあなたにこんな単語を出して理解出来るとは思わないけど、琥珀フリーレンと言うアカウントが二つの端末に同時ログインしているの」
「???」
「アカウントがあなたの体に刻まれる魔法陣の事で、端末があなたの体の事」
「アカウント?? 端末??」
「まぁ、一回文明滅んじゃったから分からないのも仕方ないかぁ……。それで私が何を伝えたいかと言うと、あなたの一つの端末が……えーとつまり体が別の人間にハッキングされている状態だと言う事」
「……契約の魔法の事ですか?」
「うん、そう。でね? もうそちらの端末は救いようが無いから、もう一つの端末にこうして私がアクセスしてるんだけど、これがあなたが生まれる前だから偶然に出来た事なんだよ」
「へ……へぇ。そうなんですか……。でもなに言ってるかちょっと分からないです」
「そうね、簡単に言う。私は、私の力を引き継ぐあなたに力を貸してあげる。それは何故か。やっぱり私の力を継ぐ者が他人に好き勝手されるのが、癪だから。そしてもう一つ、あなたの言うグリムソウルは私の同胞。本来ならば今の世界に関与するべきでない存在。なので特別に私が手伝う」
「……なんだか良く分かりませんがありがとうございます?」
「うん。あ、それとあなたの容姿が少し私に似ているからね。体まで好き勝手されるのは、心地よくない。……まぁ、もうあなたと話す機会はもう無いだろうけど、魔力的に子孫に当たる人間と話せて楽しかったわ。頑張ってね」
「え……! ちょっと待って! 私まだ良く意味が分かってません!!」
琥珀の視界が瞬く間に明るくなっていく。微かに見える視界の中で、女性は笑顔で手を振っていた。