表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
112/189

百十話『琥珀よ……お前は主を守る為に戦うのか?』

 時雨がお手洗いから帰って来てすぐの事だった。

「な、なに!?」

 不意に感じる振動に、琥珀は動揺した様子で叫んだ。

「地震!?」

 釣られて時雨も叫ぶ。

 よりにもよってこんな時に。と琥珀は向けようのない怒りの矛先を抑えて、時雨と共に家を飛び出した。

 そうして二人が見たものは、集落を囲う大きな柵の外側。そこで宙に浮いて(たたず)むお下げの少女だった。

 その少女は(おもむろ)に拡声器を持ち出すと、それを口元に近付けて地上の集落を見下ろしながら言った。

「諸君。我々は非禁禁忌教である。我々は今、悪名高きハイドラと対立関係にある。すなわち、世直しと言う事だ。そこで我々はこの地にハイドラの親族が紛れ込んだと言う情報を手に入れた。速やかに身柄を明け渡したまえ。……さもなくば、強行手段に出る事もやむを得ないですよ?」

 拡声器を通した声は余す事なく集落の端から端へと行き届いただろう。それを聞いてか、集落の住民がぞろぞろと家の中から現れる。

 その中の一人。腰を曲げた老人が、手を掲げて言った。

「よそ者は出ていけ!」

 よぼよぼと言わざるを得ない老人から、思いもよらなかった頼もしい反論が飛ぶ。

 しかしその頼もしさとは裏腹に、琥珀は大きな不安を抱いていた。

「変に挑発して逆撫でしならなければ良いけど……」

 時雨が言う。

 それこそが琥珀の抱く不安だった。

「そもそも、ここへは普通の人は訪れられないのでは……」

 琥珀もまるで不満を漏らすように呟いた。

 そしてその問いに答えたのは、背後から歩み寄る祖母だった。

「あやつが普通では無いと言う事だな。極端に力の強い者はこうしてここへ迷い込む」

「おばあちゃん!?」

 琥珀が慌てて振り返ると、その祖母の手には小さな杖が握られていた。

「フリーレンの加護を! 今こそ大混成魔法を放つ時!」

 祖母がそう言って両腕を掲げる。それに合わせるように、集落の住民達が腕を上げていく。

「白銀の守護『フリーレン』」

 詠唱される魔法名。

 そうして琥珀が見たのは、この集落を囲う氷の壁だった。それは球体を半分に割ったような形で、集落を覆うバリアのように見える。

 そして分厚い氷の壁に隔たれた事によって宙に佇む少女が油絵のように滲んで見えた。

「これは……!」

 そのあまりにも一瞬の出来事に琥珀が目を丸くする。

「琥珀よ。我々がこの集落一、フリーレンの血を色濃く継いでいる。お前が望むのならばフリーレンはお前に力を与えるだろう。……そしてこの地に立つ限り、フリーレンはお前に力を授ける事を惜しまない」

「それはつまり……どう言う……事ですか……? フリーレンとはなんでしょうか……」

「フリーレンは我々の始祖。我々をこの地にて守る方。わしが戦えれば良いのだが、もう年でな……」

 祖母はそこで琥珀の肩に手を置いて続けた。

「あやつからは強い邪気を感じる。琥珀よ……お前は主を守る為に戦うのか?」

 琥珀はそこで時雨へ視線を移す。拳を握る時雨は奥歯を噛み締めてうつ向いていた。無力な自分を悔やんでいるのだろう。

「はい、もちろん戦いますよ。でもそれは弟様が主だからではありません」

 そこで琥珀は祖母へ視線を戻して続けた。

「私が守りたいと思ったからです」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ