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百八話『私なりに頑張りましたよ』

「私の……お婆ちゃん……?」

 あまりの衝撃に、琥珀は椅子から立ち上がる。

 自分自身がこの集落と関係している事は、薄々感付いていたが、よもや祖母に会えるなどとは思っていなかった。

 言葉が出ないとは正しくこれの事だろうか。琥珀はただその場で後退りする事しか出来なかった。

 そしてそんな琥珀に、祖母は腕を伸ばす。

「そりゃあ驚くわな……。私もこうしてお前に再開できるとは思っても無いなかった。最後にお前のその瞳を見つめたのは、まだお前が赤ん坊の時だったからねぇ……。ほれ、こっちに来ておくれ。もう一度、抱かせておくれ」

「あ、あの……その……」

 戸惑いの言葉とは裏腹に、琥珀はその震える足で自然とその歩みを進めていた。

 そうして自身より顔一つ分身長が小さい祖母に、琥珀は恐る恐るだが自ら腕を伸ばす。あと少しの距離が、どうしようもなく琥珀を焦らせた。良く分かない感情が琥珀の脳裏を駆け巡る。それは緊張と安堵だろうか。相反する二つの感情の同居は、幼い琥珀にはまだ理解し得ないものだった。

「お婆……ちゃん?」

 そして琥珀は祖母に包まれるように抱かれた。先程合ったばかりの人物に抱かれていると言うのに、不思議な程に安堵が強い主張をし始める。琥珀もまた、思わず祖母を抱き返していた。

 祖母はより強く琥珀を抱いて言った。

「苦労かけたね、琥珀。辛い思いをしただろう……」

「いえ……。いや、そうですね……。もちろん辛かった事もたくさんありましたよ」

 その言葉は意図せず自然に吐き出されていた。普段はそう言った愚痴など基本的に出さないようにしていただけに、琥珀自身も驚きを隠せなかった。

「立派になったの。頑張ったな」

「いえそんな……。あ、でも私なりに頑張りましたよ」

 そこからは二人は黙って抱き合っていた。

 そしてそこへ声を掛ける者が居た。







「あの……ここはどこかな……?」

 そう言って気まずそうに後頭部を掻くのは時雨だった。目覚めてすぐの見慣れない景色に困惑しているのか、周囲を忙しなく見回している。

 そこで琥珀は慌てて返事をする。

「弟様! ご容態は大丈夫なのですか!?」

「あー……うん。大丈夫、かな? 元気だと思う」

 駆け寄ってくる琥珀の表情が徐々に微笑んでいく。そうして照れ臭そうにする時雨の目を、琥珀はまっすぐに見つめて言った。

「良かった。はぁー心配したんですから!」

「……世話を掛けたね。ありがとう」

 時雨はそこで琥珀の手を取る。それだけで感謝の念はしっかりと伝わってくる。

「べ、別にそんな……当然の事ですよ!」

 時雨の照れが移ったかのように染まる頬を、まるで隠すようにそっぽを向く琥珀。そんな琥珀に、祖母が声を掛けた。

「この方は……もしかしてお仕えしている主様かい?」

 琥珀はその赤い頬のまま、祖母の方を向いて言葉を詰まらせる。

「あ、え……と……」

「違うのかい?」

 不安げな表情を浮かべる祖母。そこへ時雨は笑顔で言った。

「僕的には、ぜひ僕に付いて来て欲しいんですけどね」

「お、弟様!?」

「嘘じゃないよ。本当の事だよ。……それでこちらの方は?」

「……私の祖母に当たる方です。そしてここはどうやら私の故郷のようで……」

「そうなの!? じゃあ僕は琥珀ちゃんのお婆ちゃんのお世話になったんだね」

 そこで時雨は改めて祖母の元へ歩み寄ると、深々と頭を下げて続けた。

「気を失っていた僕をここに置いて下さりありがとうございました」

 自分よりも上の立場の人間が、自分の祖母に頭下げると言う状況に、琥珀は思わず茫然としてしまう。しかしすぐに、この状況が落ち着いて居られるような状況では無い事を感じ、琥珀は激しく動揺する。

「あ、頭を上げてください弟様! あ、でも別にお婆ちゃんの事を軽視した訳ではなくて……!!」

 そうして慌てふためく琥珀に、祖母は笑顔で言った。

「良い主様に仕えたね、琥珀。私はこの事を長老様に報告してくるから、ここでくつろいでおくんだよ」

「は……はい」

「主様も、まだ万全ではないはず。狭い家ですが、どうぞ、ごゆっくり」

「恐縮です……」

 そうして祖母は、家を後にする。

 残された琥珀と時雨は、面映おもはゆそうにお互いに顔を見合わせた。

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