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百七話『フリーレンの血筋』

「まさか本当に集落があるなんて……」

 口元を手で押さえて漏らす様にそう言ったエルの目前には、小さな集落があった。点々と存在する鋭い角度の屋根の家に、除雪されてなんとか機能している道。

 集落の入り口には一人のお婆さんが歩いていた。それは生活感溢れる立派な集落だった。

「ねっ? 本当でしょ?」

 琥珀はどこか得意げに言って見せる。そして腰に手を当てる琥珀を、お婆さんは見るや否や声を掛けた。

「あ……あんたもしや……!」

「??」

 驚いたような表情を浮かべるお婆さんに、琥珀は首を傾げる。そんな琥珀にお婆さんは今度は少し冷静になって尋ねた。

「遠方から訪れた迷いし旅人か?」

「い、いえ、私はこの辺で暮らしていましたよ? ファフニールアルファ領はご存知ですか?」

「……!!」

 息を飲むお婆さんの表情がさらに驚愕を浮かべる。と同時に焦っているのか、汗を流して顔を歪ませた。

 そんなお婆さんに、琥珀は怪訝そうに言う。

「あの……何かまずい事でもありましたか……? あともし迷惑でなければ、看病したい方が居るので休める場所とかございませんか?」

 そこでお婆さんは、エルに背負われている時雨へ視線を移す。

「……そうだね。こちらへおいで」

 そうして二人は、お婆さんの後へ続いて言った。






「すまないね、狭い家で。よそ者なんて滅多に訪れて来れないから、宿なんてものはこの村には無いんだよ」

 そう言ってお婆さんは椅子に腰掛ける琥珀とエルの前の机に、温かい飲み物を置いた。

 一応、来客用の部屋はあるのか、時雨はその和室の布団の中で安静に眠っている。

 琥珀は今の位置からも見える時雨の寝顔を見て微笑むと、立ち上がって頭を下げた。

「突然の無理な願いをきいて頂いてありがとうございます」

 その横でエルは慌てて立ち上がると、遅れて頭を下げた。

「あ、ありがとうございます!」

「まぁまぁ、雪の上を歩いてこんな場所に訪れるのは大変だっただろう。座ってお茶でも飲みなさい」

「はい」と琥珀は笑顔を返すと、エルと共に改めて腰掛ける。

 そうして湯呑を口元に運ぶ琥珀の顔を、お婆さんは凝視して続けた。

「お主、どうやってここへ?」

「……徒歩ですよ? それともここへ訪れた理由ですか?」

「どちらも聞かせて貰いたい。……と言うのも、ここへは普通の人間は入る事が出来ないのだ」

「え!? そうなの!?」

 ビックリするようにそう返したのエルだった。

 お婆さんは大きく頷いて補足する。

「うむ。いかにも。ここは山に囲まれた場所でな。それもこの付近だけ異様に気温が低く、天候も荒い。……それはこの山に雪神様が住まわれて居るからだと伝えられている」

「伝えられている?」

 なーんだ。と言いたげな表情をするエルに、お婆さんは変わらず真剣な表情で続けた。

「しかしな。事実、雪神様は我々をお守りなさっている。故にこの集落に迷う事無く訪れられるのは、この集落に住まう者のみなのだ。外からの客など指で数える程にしか無い」

 お婆さんの視線は終始、琥珀に向けられていた。

 そこで琥珀は湯呑を置いて呟くように返事をする。

「……やっぱりそうなのですか」

「なんだ? 気付いていたのか? とすればお主……まさか――」

 琥珀もそこで改めてお婆さんの、はちみつのような色のくすんだ瞳を見つめ返す。

 そしてお婆さんも、琥珀のはちみつような色のくすんだ瞳を見つめて続けた。

「――その眼の色と言い……フリーレンの血筋を継いでいるのだな」

 フリーレン。と言えば、琥珀が詠唱した遺伝魔法の名だった。それには思わず琥珀だけに止まらず、他人であるエルも驚いた表情を浮かべている。

「と言う事は……この村は琥珀ちゃんの故郷!?」

 お婆さんはそこで頭を抱えて言った。

「まさか。帰って来るとはな……琥珀 フリーレン。私はお前の祖母だ」

 あまりの衝撃に、琥珀は椅子から立ち上がる。

「私の……お婆ちゃん……?」

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