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百五話『魔女と聞いてはボクを恐れ、石を投げてくる人ばっかだよ』

「ここは……どこですか?」

 真っ暗闇。一寸先も見えない常闇の場所で、琥珀は手探りに腕を伸ばして尋ねる。

 するとどう言う訳か、すぐに手の平に柔らかい感触が触れた。

「きのこ……?」

 そうして手の平に軽く力を込める。そして返ってきたのは、

「ひゃっ!?」

 と可愛いげのある悲鳴だった。

 その声の主は、続けて魔法を詠唱する。

「光明魔法『ライト』」

 すると周囲が照らされるように淡く明るり、琥珀の目前に現れたのは頬をうっすらと染める雨芽エルだった。

 どうやら光源はそのエルの手元のようで、手の上で白い炎がゆらゆらと揺れている。

 そして肝心の琥珀の手は、エルの胸を鷲掴みにしていた。

「ご、ごめんなさい!!」

 そう言って琥珀は慌てて手を引く。同性だが、そうも頬を染められると移るように恥ずかしくなってしまう。そしてこの時ほど、自 分が女で良かったと思った日は無かった。

「ま、まぁ気にしないで」

「は、はいっ」

 少し気まずい沈黙の空気が流れる。

 そこで流れを変えるように話し出したのは、エルだった。

「ここは洞窟。えーと……実はどこかは分からなくて……。ボクのワープの魔法はボクの意思だけでなく、他人の意思にも引っ張られてしまうんだ」

「んー? 他人の意思……ですか?」

「そう。君の」

 エルが琥珀を指差す。

 別に悪い事をした訳ではないが、琥珀は弁明するように慌てて返した。

「で、でも私、特に何も考えてなかったですよ!? そんな余裕も無かったですし!」

「うーん。ボクの見立てでは、それが原因かなぁ……? 遺伝魔法を使った時に何か感じた?」

 困ったような表情を浮かべるエルに、琥珀は戸惑いながらも答える。

「懐かしい感じかな……?」

「……懐かしさ、か。なるほど……」

 エルはそのまま反対の方向を人差し指で差して続けた。

「あっちから風が吹いてる。たぶん出口があると思うから、ひとまず向かおっか」

 そうしてエルは足元に倒れている時雨を背負って進み出す。

 その後を、琥珀は慌てて追い掛けて言った。

「あ! 私が背負いますよ!」

「大丈夫だよ」






「あのー」

 エルの隣で並んで進む琥珀は、少し話し掛け辛そうに声を掛けた。

「なに? どうしたの??」

「いえ、何とお呼びすれば良いのかな、と思いまして」

 コツコツと響き渡る足音に合わせるような声で尋ねる琥珀に対して、エルは何も気にしていない様子で返事をする。

「エルで良いよー」

「はい……。では単刀直入に尋ねますが、エルさんは何者ですか? どうしてグリムソウルと一緒に行動しているのですか? 仲間なのですか?」

「ボクは……人間。うん……そう、老いないだけのただの人間」

 エルはどこか自分に言い聞かすように答えた。そして茫然と琥珀へ視線を移しながら続ける。

「魔女だなんて呼ばれて恐れられて居るけどね」

 エルのその瞳からは光が失われていた。希望など一切感じさせないほどの失望を感じさせる。目前で話す少女琥珀も、きっと恐れをなして戦くのだろう。と失望を追い越して絶望までもを思わせた。

 しかしそんなエルの思いとは裏腹に、琥珀は微笑みながら返す。

「老いない……ってそれはただの人間とは言えないですよ」

「……怖がらないんだ」

「……??」

 頭の上に疑問符を並べる琥珀は、終始笑顔だった。エルにとって非常に珍しい人間なのか、思わず驚きの表情を浮かべている。

「魔女と聞いてはボクを恐れ、小石を投げてくる人ばっかだよ」

「それは酷いですね……」

「そう……だから唯一人間扱いしてくれるあの人とは、交流があったんだ」

「なるほど……。では私とも交流してくれるのですか?」

「え?! 良いの!?」

 再び前を向いていた歩いていたエルが慌てて琥珀へ振り返る。

 そこに先程のような暗い表情は無かった。

「もちろんですよ!」

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