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十話『あなた様の女なんてごめんです』

 昼前。朝の仕事を一通りこなした少女は、少年の部屋の前まで来ていた。

「入れ」

 ノックの後にすぐ帰ってくる返事。

 重く感じる扉を開けて中へ入ると、少年がベットに腰掛けていた。

「何のご用ですか」

「今日は予定の無い日だからな。たまにはお前とゆっくり話すのも悪くないと思ってな」

 たまには……? 出会ってまだ浅い関係にその表現は適切でないと少女は思った。

 少年が黙って自分の隣を叩いているので、ひとまずそこへ腰掛ける事にする。

「朝の件。珍しく落ち込んでいたな」

 触れて欲しくない。自分ですらまだ気持ちの整理がついてないと言うのに、その話をされた所で上手く話せる自信もなかった。

「落ち込んでなど……いないです」

「がっかりしたか? 失望したのか?」

「別に期待もしてませんでしたよ。ただ私は……事実を述べてみただけ。あなた様を試したのです」

「主を試すとは……。まぁ、評価と言うものは何も上の者が下の者にするものだけではない。下も下なりに上に立つ者を評価して当然だ」

 少年はそこで不意に少女の頭の上に手を乗せて続けた。

「俺にも立場がある。あの場での出来事は許せ」

 許すも何も、主は当然の事を言った。ただそれだけの事。そこに許しを乞う必要かあるのか。少女は純粋に疑問に思った。

 少年がこっちを見て微笑んでいる。

 ほんと何がしたいんだか。

 そうして黙り込む少女を、少年は突然ベットに押し倒した。

 ……あぁ、そう言う事か。と瞬時に察する。

 そして良くある手口だと、少年のやり口に思わず嘲笑を浮かべてしまいそうになるが、そこは一貫して無表情を貫く。

 スラム街では良く見る手口。精神的に追いやられている女性に甘い言葉で誘惑し、する事を済ませば即バイバイ。

 そんな男女は何人も見てきた。

 故に少女からすれば少年のやり方など、まだまだガキの浅知恵。可愛いものだ。

 いっその事ここで好きにさせてあげるのも、また一興か。と少女は高い天井をぼんやりと眺める。

「抵抗しないのか?」

 少女の胸に手を伸ばしながらも少年は尋ねた。

 聞いてる事とやってる事が一致してませんよ。と少女は心の中で突っ込む。

「どちらにしても契約には逆らえませんから、私」

「良く分かってるでは無いか」

 少年が少女の胸を露出させようと手荒に背中のファスナーに手を回す。

 こんな雰囲気もくそもない中で、何が楽しいのか。

 自分の欲望さえ満たされればそれで良いのだろうな。独りよがりに付き合わされて、だるい。

 少女が思考を次々に張り巡らせていると、少しずつ浮かび上がってくるある感情に気が付いた。

「あなた様はこれで満足なんですか?」

「それは俺の質問だ」

 は? と少女は怒りに任せて口走りそうになる。

 それをグッと我慢する少女に少年は続けた。

「良いか? 個人的に俺の手助けが欲しいとなると、お前は俺の女になるしかない。俺の女になれば、メイド業をしなくて済むし、もしメイド達に虐められようならば、俺はそのメイドを……きっと殺すだろう。……そう言うことだ、改めてここで聞いてやろう。さぁ選べ」

 ……少女の答えは決まっていた。

「あなた様の女なんてごめんです」

 少年は鼻で笑う。

「嫌われたものだな」

「初めから変わりませんよ」

「そうか……。ではまだ希望はあると言う事だな」

 疑問符を並べる少女に少年は続けた。

「契約が切れる前に、お前に俺の嫁になりたいと思わせると言う希望がな」

 少女は言葉を失う。

 決して今の一言で惚れたとか、そう言う事ではない。

 と言うよりはこの人は何を言っているのだろうと言う哀れみの同情に近かった。

 それと同時に、垣間見えたロマンチストな一面にこの人は純粋なんだろうなと思う。

 自分と違って。

「そうなる日が来れば良いですね……って早く手を離してください」

 そう言って少年の手を弾くように払い除けると、少女はベットから立ち上がり、中途半端な位置まで下ろされた背中のファスナーを上げた。

 そして部屋の扉に向かいながら続ける。

「お昼からのお仕事があるので私はこれで失礼しますね」

「……つれないなぁ」

 一人になった部屋に少年の声が響いた。

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