忘れていた真実
死なないで。
何がこんなに、反発しているのだろう。
何かが反発しているのは、わかっていた。
なんで?
「.........?」
刀が刺さって、破けてしまっている服。
その布切れの中に、小瓶を見つけた。
綺麗な青色の、薬だった。
『この薬は、狼の力を抑えるための薬です。
狼への変身や耳としっぽを隠す効果があります。
とても強力な薬のため、頻度は週に5回までが限度です。
それ以上の使用は、体に大きな負担がかかるので、おやめください。
また、この薬は他の狼人間に使用させてはいけません。
名前もしっかり記名しましょう。』
......また、手を抜かれていたってことか。
でもまぁ、あの状態じゃもう助からないかな...
ほんとの本気の戦いは、諦めるしかなさそうだ。
「.........ぁ......ぃ....」
.........愛.....?
ちょっと、待ってよ。
この違和感って.....そう、だ。 間違いない。
「.....なんで、わたしの名前を...?」
呼ばれることのなくなった、わたしの名前。
あの日、『愛』という存在はなくなって、わたしは『赤ずきん』になった。
もう、知る人はいないはずなのに。
家族だって......二人暮らしだったために、働いてばかりで、イラついてわたしをいじめるようになった、あの母親も殺して................違う。
わたしは、運動神経が元々異常だったんだ。
小学生のころ、そうだった。
走れば、中学生くらいの走りだった。
バスケをすれば、異常な飛躍力でダンクを決めた。
バレーをすれば、ボールは異常なスピードでスパイクされた。
普通じゃない。 変な子。 おかしな子。
だから、母親にもいじめられ、周りにもいじめられ......ひとりだけ、学校でやたら絡んでくる人がいた。
その人の名前は、確か....
「.........嘘.....でしょ.......」
『名前: 暁』
わたしには、兄がいた。
父親が、実は狼男だった。
その血を引き継いだ兄も、狼男だった。
母は、それがいやで、離婚した。
まだ小さかったわたしは、異常な運動神経に気づかれていなかった。
「おにい、ちゃん....?」
いやだ、死なないで。
わたしが、大好きだったおにいちゃん。
両親が離婚してしまった後も、ずっと待っていた。
「.........ったく!
死んだらだめだからね?!」
すぐに『わたしの狼さん』を背中に背負って、彼の家へと向かった。