隠された本音
そしてまた、半年。
あれからもう1年も経ってしまった。
狼との戦う頻度もすっかり増え、今ではほぼ毎日になっていた。
そのおかげで、すっかり噂になってしまった。
わたし『赤ずきん』と何者かが戦っていると。
ついには写真まで撮られ、どっかの厨二病にSNSで「暁に舞う赤ずきんと狼!!」なんて文章付きであげられていた。
そういえば1度、本気じゃないような感じがして、本気で戦え、と言ったら、見事にズタボロにされた。
もう動けないほどだったのに、あいつはわざわざわたしを自分の家に運んで、手当てをしてくれた。
幸い、あいつの家族は留守だったので、助かった。
でも、今まで手を抜かれていたことが腹に立って、絶対に手を抜くな、と何度も言った。
そしたら、ほぼ毎回手当てをされるはめになった。
でも、ちゃんと手当てをしてくれるなんて、どんだけお人好しなんだろう、あいつは。
今はもう、手当てされることもなくなったけど。
『僕は愛の狼だからね。』
なんで手当てなんかするんだって、彼に聞いた時の返事を思い出した。
愛の、狼......か。
いつも『暁』と呼ばれる時間帯にしか戦ってくれないんだから、暁の狼の方が似合いそうだけど......暁...。
なんとなく、何かが心のどっかに引っかかる感じがしたけれど、よくわからず、結局考えるのをやめた。
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「......なんでここなの」
狼が着いたその瞬間、すぐに文句を言った。
今日の戦場は、1年ぶりに来る場所だった。
1年前、ほぼ全員の生徒をわたしは殺してしまった。
だから、真新しい校舎も、広いグラウンドも、『廃校』の一言でまとめられていた。
そう、わたしが通っていた中学校。
1年経った今、わたしは世間でいう受験生になっているはずだった。
「いやー、こんないい場所が廃校になって、使われてないって知ったら、もったいなくなってね。
戦うにはいいスペースだと思うよ?」
「いい場所って、どこがよ。
すぐ近くに住宅街あるじゃない。
目立たない場所って言ってたのは、あんたなのに。」
もちろん今はもう『暁』、夜中である。
こんな真冬の夜中なんて、寒いんだろうけど、わたしの身体はかなり丈夫になっていた。
「まあ、次また違う場所へ行けばいい。
で、君は先に着いてたけど、準備はいいのかな?
赤ずきんちゃん?」
相変わらず、吠えまくる狼だ。
挑発がウザい。
「そんなの、いつでもできてる...!」
あいつめがけて、まっすぐ走っていく。
思い切り刀を横に振る。
もちろんあいつは、そんなのは軽々と避けられる。
素早くしゃがみ、蹴りを入れようとしてくる。
わたしもすぐに後ろに跳んで避けた。
綺麗に宙返りをする途中で、刀を捨て銃を取り出し、一発撃つ。
あいつも負けじとこちらに向かって跳び、避ける。
そのままくるりと1回転して、今度は上から蹴りを入れようとする。
ギリギリ着地に間に合い、腕でガード。
狼は、武器は一切使わない。
ただ自分の身体だけで戦ってくる。
だからこそ、彼のパンチや蹴りというのは強かった。
腕であいつを押し上げ、また地面に立って静かになる。
今日は、勝てる気がする。
銃をあいつに向かって数発撃つ。
その後、その周りに向かってナイフを投げた。
銃に気を取られていたあいつは、見事に腕にナイフが刺さった。
それでも、何でもないかのようにナイフを取る。
血がだらだらと、腕から流れていた。
この調子なら、殺れる。
流れ続ける、血。
これで殺せる。
ナイフを取っている間に刀を拾い、背後へと走り出す。
振り返るその直前に、刀を突き刺す。
脇腹に......しっかりと突き刺さっている。
終わる。
これで、
いい。
どさり、と、あいつが倒れる。
その顔には、苦笑いが浮かんでいた。
「......はは、今日は満月だってのに...あっけなく、やられちゃったな....」
そんな言葉を無視して刀を抜く。
もう諦めようとしているのか、目を閉じようとしている。
笑みは、未だに浮かべている。
死なないで。