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本物の狼さん

それから1ヶ月程、わたしは誰も来ない山奥で、自分が得た力と武器を使いこなせるように特訓した。

もちろん、実践もまじえて(人も殺して)


どんどん殺し方が上手になっていくのが、余計に楽しかった。

もっともっと、殺したい。


これから、いっぱい殺そう。



この時は知らなかった。

『赤ずきん』の敵が、現れるなんて。

『狼さん』と、出会うだなんて。




+♥+:;;;:+♥+:;;;:+♥+:;;;:+♥+:;;;:+♥+:;;;:+♥+




わたしが初めて人を殺したあの時から、もう半年が経った。

わたしは基本的に夜に、路地裏に行ったり、なんとなく近くの学校へ行ったりした。

夜遊びしている人たち、学校に残っている人たち、わたしが殺していたのはそういう人ばかりだった。

まだまだ遊び盛りの彼らが1番、殺されることに抵抗してくれる。


それでもつまらなくなってきた。


みんな、むなしいほどの抵抗しかしてこない。

そんな抵抗しかできない。

結局、人は簡単に死んでしまう。


そう考えると、どうしてもつまらなくなってきてしまった。



前とはまた違う無表情で、今夜も近くの路地裏へと向かう。

火遊びしている音が聞こえる。

1kmほど先だろうか。

わたしの聴力は、異常なほどよくなった。

視力においても同じことが言える。

1ヶ所だけ、わずかに明るくなっている場所が見える。


脚力に関しては、走るスピードも前とは桁違いだし、ジャンプもかなり高く跳べるようになった。

その脚で屋根の上を走り、飛び移り、向かっていく。

1分もしないうちに、火遊びをしている不良たちがいる路地裏に着いた。

廃ビルの屋上から、そっとのぞき込む。

たったの5、6人ほどだ。


まずは1人、銃で撃ち殺す。


『パァーンっ!!』


という音と、叫びが鳴り響く。


「誰だ...?! 誰が銃を撃った?!」


ざわめき始める不良共。

わたしは、『赤いずきん』をはためかせながら、廃ビルの屋上から飛び降りた。

もちろん、4階から飛び降りるのと何ら変わりはないけれど、今の脚力なら簡単に着地できる。


「こいつ....! どっから現れた!?」


「おい待て、あれって『赤ずきん』じゃ...」


「なっ...! 嘘だろ?!」


わたしもすっかり噂になってしまったものだ。

そんなことを思いながら、刀を手にした。

綺麗な満月の光を、刀は反射していた。


尋常じゃないスピードで駆け巡り、刀で切り裂いていく。


相変わらず、この切れる感覚は楽しい。

でも、つまらない。

全くの抵抗も感じられない。

もっと、長く殺したい。

なのに、人はすぐに死んでしまう。

だから、つまらない。



1分もしないうちに『皆殺し』は終わってしまった。

もはや、最初の時のような感情はない。

ならなぜ今も、殺人なんてしているのだろう?

『快楽』を得るために人を殺していたのに、人の『命』についてなぜここまで考えるようになったのだろう?


正直、わたしはきっと、今泣きそうになっt...




「こんばんは、『赤ずきん』ちゃん?」


急に、男の子の声がした。

気配は全く感じていなかった。

いつのまに後ろにいたんだろう。

振り返ると、路地裏の闇の中、その人はいた。

わたしより、ほんの少し年上だろう。

わたしは中学生だけど、多分相手は高校生くらい。


遊び半分のつもりで声をかけてきた?

いや、周りには皆殺しにした死体が転がっている。

わたしがやばいやつくらいわかってるはず。

わたしは、ただひたすらに困惑していた。


「......あなた、誰なの?」


ただ者ではない、ということだけ理解して、選んだ質問。

彼は、少し考えながらこう答えた。


「僕は、そうだねぇー......『愛の狼』、とでも言っておこうか。」


「は? お、狼?」


『愛の狼』...そう、わたしの目の前に現れたのは......


「あぁ、そうだよ。

ほら、狼って、赤ずきんの敵じゃない?

騙されて寄り道をしている間に、おばあさん殺されちゃうし、赤ずきんも食べられちゃうでしょ?」


わたしの、『敵』らしかった。


「......あの、わたし、自分で自分のおばあちゃん殺したんだけど。

それに、今からあなたを殺しちゃえば、狼の存在もなくなっちゃうと思うんだけど。」


今までと違って、全く怯える様子もない。

逆に戸惑ってしまった。


「そうだね、ほんとうにそうだったら、僕の出番は終わっちゃうわけだ。

でもね、僕は君より強い自信があるから。」


さっきまで、命がどうとか言ってた自分がいるせいで、いくら自信があるだとか言ってるからって、簡単に殺しにかかっていいものか、わからなくなってしまった。


でもわたしは、戻れない道を進んでいたと思う。

もはや、自分の周りにあったものや環境は、すべて自分で壊してしまった。

もう誰かを殺すことしか、やることはないのかもしれない。

こうしないと、自分自身が消えそうな気がして......だから、死体に突き刺していた刀を抜いた。



「......死ぬ準備はいい?」


「いや、死ぬ気はないよ」


殺す。

わたしが生きるには、誰かを殺し続けるしかないのだから。


わたしは地面を蹴った。

そのまま猛スピードで走り始める。

そして刀を突き刺した。






...なんてことはなく、彼は普通の人間では跳べない高さまでジャンプした。

その次の瞬間には、刀の上にバランスよく立っていて......わたしは戸惑いを隠せなかった。


「言ったじゃないか、死ぬ気はないって。」


視線だけを上に動かすが、相変わらず彼の顔は見えない。

綺麗な満月も、今は雲の後ろにいた。


「ねぇ、狼さん、狼さん。」


「ん? なんだい?」


「......あなた、本当に何者なの?」


人間じゃない、あんなジャンプ力。

わたしが言えたことではないのだけれど。


「狼男って、知ってるかい?」


「......は?」


あの、満月の夜に狼になる人間のこと?


「僕は、満月の夜じゃないけどね。

夜中から夜明けってとこかな。

まぁでも、満月はより強力なんだけどね。」


刀の上で悠々と説明してくれている。

段々と、そんな態度に腹が立ってきた。


わたしは、左手で銃を取り出し、こいつにすぐさま撃った。

なのに、銃さえも避けてしまう。

しかも宙返りまでしてるし。


「不意打ちはだめだよ。

びっくりするじゃないか。」


「あー! もう! イライラする!」


あまりに余裕そうな態度に、ついに本音を言ってしまった。

今まで得意としてたこと、今まで当たり前のようにできたこと、それができない相手というのは、かなり腹が立つ。


「僕が殺せないから?

なら、殺せばいいんだよ。

いくらでも戦ってあげよう。」


まるでゲームをしようとでもいうかのように、軽々とした口調で提案してくる。

そんなのもちろん、答えは決まっている。


「絶対殺す。わたしが勝つ。」


その誘いに乗らなくてどうするのだろう。

つまらない日常、いや、殺人を日常というのも、どうかとは思うけども......とにかく、やりたいことが増えたようなものだ。


じゃあ、やり終えたら、わたしはどうするのだろう...?


「さぁ、どうだろうね?

それと、条件がある。」


「は? 条件?」


「僕を殺すことにだけ集中すること。

つまり、他人は殺すなってことだ。」


他人への気遣いだろうか。

もしかしてかなりのお人好し?

結構優しいやつだったりするのかな?


「だって、他人を殺せても、僕が殺せないんだったら、君が敗者であることに変わりはないだろう?」


訂正、ムカつくやつ。


「わたしがあんたを殺せば、敗者はあんただから。」


「あぁ、もちろんわかっているよ。

それじゃあ、今日はお預けだ。

明後日...あの山で会おうか。」


急に壁を蹴って、廃ビルの屋上へと行く。

わたしはひとっ飛びで追いつき、既にあいつが指さしている方向を見た。


「ちょっと待ってよ。

なんであんたに決められなきゃいけないのよ。」


わたしの直感を信じるとすれば、こいつに罠を仕掛けられる可能性はなさそうだけど......


「いいじゃないか、別に。

それじゃあ、また明後日ね。」


「あ! ちょっと...!」


結局、納得のいかない答えを返され、彼はどこかへ行ってしまった。

追いかけるのも面倒で、大人しく彼の決めた予定に合わせることにした。



それが、とある日の出来事だった。

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