それは狼のように
「..................」
何があったのか、わからない。
いや、何をしてしまったのか、というべきだろうか?
とにかく、気づけば目の前は......
鮮やかな『赤』が広がっていた。
『赤』の中に見えるのは、『赤』浸しになっていたのは、クラスのいじめリーダーだった。
それを見るわたしは、同じ『赤』が身体中のいたるところについていた。
特に、わたし、『黒ずきん』の象徴とも言える真っ黒だったはずのパーカーのフードが、真っ赤になるほどに。
まるで元から赤かったかのように。
わたしが『赤ずきん』だったかのように。
......そうだ、そうだった。
段々と、うっすらと浮かんでくる、わたしの記憶。
わたしは、この人にいじめられていた。ついさっきも、だ。
学校で1番の人気者である彼に、近づくな、と。
別に近づいたわけじゃない、あちらが勝手に来ただけだと、わたしは言った。
きっと、それが気に食わなかったのだろう。
彼女は暴力を振るってきた。
わたしはそれが、ただ怖かったのかもしれない。
持っていた護身用のナイフで、彼女の脇腹を刺した。
彼女はすぐに倒れた。けれども怖くて、ただ怖くて、ひたすらに彼女の身体を刺した。
記憶が、繋がった。
『カチャン』という、未だに握っていたナイフの落ちる金属音が、しゃがみこんだわたしの手元から聞こえた。
「お、おい! ....なんだこれは?!」
......あぁ、先生。
驚きの声に、わたしの意識はしっかり戻ってきて、振り返れば担任の先生がいた。
わたしは、無表情な顔に『赤』をつけたまま、すっと立ち上がった。
「.........わたしが、殺りました。」
「なっ...!! すぐに進路指導室へ来い!」
.........わたしの、気持ちは、もう壊れているのだろうか。
さっきから感じるのは、恐怖でも絶望でもない。
ただ......『快楽』だけがあった。
楽しい、楽しい、楽シい楽しイ楽シイ...!!
気づけばわたしは、足元に落ちていたナイフをまた拾って、しっかり握っていた。
そしていつの間にか笑顔になっていた顔を、また『赤』のついた無表情に戻してから、振り返る。
「お前...! そのナイフをすぐに捨てなさい!」
「.........先生、気づいてましたよね?」
わたしは、そのままの無表情で、淡々とした口調で、目の前の男に話しかけた。
「わたしが、いじめられていたこと。でも、いじめのリーダーが理事長の娘だからって、知らないふり......してましたよね?」
「な、なんのことだ? それに、今はそんなことはどうでもいい!」
......ははっ! どうでもいい...だって。
わたしは笑顔になった。彼の目にどう映ったかなんて、知らない。
だって、今から.........
「先生...殺してあげる♪」
「...............っ!?」
わたしは全速力で走った。
そして小さい身体を活かし、すぐさま背後へ回った。
いくら運動神経がよくても、真正面からでは力の差がありすぎる。
「うっ.....ぐはぁっ...?!」
もう、終わり......か。
脇腹をたったの一刺しで死ぬなんて、情けない。
さっきの娘より大きな体してんだから、もう少し粘ってほしかった。
まぁ...いっか。
だって、今から全員、殺しに行ってあげるから♪