第8話 愛する者の円寂
活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!
澄んだ水のような、どこまでも透明で、綺麗で、青くさえ感じる暖かい流れが
レイスの体をゆっくりと巡る。
ルビの清涼な魔力が、レイスの乾いた体に少しずつ浸透していき、それはとても、心地のいい、事だった。
「違う」
「ふぐぅ」
レイスは腕を組み、少し膨れた顔をして立っている。
ルビはそのすぐ前で、膝をついていて、うらめしそうにレイスを見上げている。
「ですが、こうしないとレイスが···」
レイスは頑として受け付けない表情で
「何度も言っただろう。俺は平気だ。魔物が襲い掛かってきてもいくらでも対処できる。今みたいに俺の前に出てくるのが、双方とも一番危険なんだ」
野党の隠れ家の二の舞いは避けたい。さすがに魔物の味方には···ならないと思うけど、そこはレイスにも自信が持てないのがつらい所だ。
スラ···と、レイスは普段使っている剣を鞘から引き出した。
「この剣が」
と、レイスは剣をヒュンと振る。
「届く範囲が俺の間合いだ。魔物に遭遇した場合、これ以上近づいてはいけないよ。君に攻撃を加えることは絶対ないが、動きが鈍って危険になるから」
カチン、と鞘に剣を戻すと
「さて次」
と、レイスはルビから5m離れたところまで移動した。
「魔物が炎を吐いたとする。威力は10m四方だ。俺はルビに2mの結界を張る。ルビはどうする?」
実際にルビに結界を張ったレイス。ルビの送魔は順調で、抱きかかえるようにして寝るからか、送魔量も増えた気がする。
レイスの作った薄いピンク色の球体のような結界から、焦って飛び出しルビが叫ぶ。
「レイスが燃えてしまいます!」
「ち·が·う!」
この辺りはまだ、国境から少し行った所でしかなく、たいした魔物は出てこない。しかし、先に進めば進むほど魔物の脅威は高くなる。
レイスは、先を急ぎつつもルビに心得を言い聞かせていた。
「俺がルビに結界を張る場合、自分一人で対処できると判断した時だ。結界には必ず視認不可の効果をつける。そこから出なければ危険がない。ルビはそこの中にいて、終わるまで待つんだ」
不服そうなルビを見て、レイスは苦笑する。
「そこで例えば、俺が怪我とかしたら、ルビが後で治してくれると、俺はすごく助かるんだが···」
ルビの顔がパァっと輝いた。
「はい!レイスの怪我は私が治します」
ウズウズしているルビ。レイスはルビの、赤い帽子をかぶった頭に手を乗せる。
「俺がルビの手を取るときは、対処不可との判断をした時だ。『テレポート』するだろうから覚えといてくれ。場合によってはルビの魔力を貰うことになるかもしれないから。テレポ、とは限らないかな。状況によって『消失』とかになるかもしれないし」
「はい、いつでもいくらでも」
頭に乗せたレイスの手を、ルビは両手で取ってギュッと握った。
「それはもしもの場合の最終手段だ。ルビの魔力は、ルビのものなんだから、な」
それから次の国に着くまで、いやそれ以降も、レイスがルビの魔力を必要とする場面はなかった。
レイスは謙遜していたが、剣の腕はかなりなもので、更に夜、ルビがレイスの魔力を貯めてくれるから戦略も広がり、レイスは無敵かと思うほどに強かった。
国に着くと、レイスは取っておいた魔物の素材を売り払い、ルビの服や靴を新調する。もちろん自分も、髪を切り髭を剃りこざっぱりする。
宿では2人並んで横になり、手を繋いで眠りに落ちるまでお話しをする。
そうやって、いくつもの国境を超え、1年以上が経っていた。
程度栄えた国の中心部の都市に、2人は来ていた。
「なんだか人だかりができているな。ちょっと見てくる」
そう言って、レイスはルビから離れて歩いて行った。
人をかき分け進むと、そこには立て札に張り紙があり、遠く離れたルドキアの、王の崩御の知らせが書かれていた。
「ルドキアの···」
そう呟いていると、うんうん言いながらルビが、人をかき分けレイスの隣まで来た。
ルビは小さくて、人に埋もれていて告知は見えないだろう。
レイスはルビに顔を近づけて教えてやった。
「ルドキアの王が亡くなったらしい。次に立ったのはその王女のようだ」
「え···」
ルドキアは、2人が出会った国だ。つまりは、レイスの王であり、ルビの王でもある。
「そ、そんな。なぜです!?」
ルビは焦って聞く。
「崩御の理由は書かれていないな。赤い髪で黒い目の、それは美しい王妃が誕生したって事くらいしか」
レイスは背を伸ばして告知を読んでいる。ルビは口に手を当て
「シャロン···」
と呟くが、レイスにそれは聞こえない。
「若く美しい姫が、父の死を乗り越え国を支える、か。尊いこった。平民には預かり知らぬ事だがな」
と、ルビを見たレイス。
「っ、おい。ルビ?どうした?顔が真っ青だ」
ルビは色を失った顔で、視線を彷徨わせ口に当てた手を震わせている。
「そんな、シャロン。お父様···そんな···」
ルビはそのまま気を失ってしまった。
「えぇっ、お、おい···こんなとこで···くそ、しっかりしろ、ルビ。大丈夫か、おいっ!」
ルビリアンの潜在総魔力量は、およそ3,000,000。休眠一晩で5,000の回復があると言われています。この世の常識からしても天文学的数字で、数値に確証はなく、もっと多いのでは。とも言われています。
人並外れたレイスでさえ、ルビリアンの前では赤子同然、とだけ認識していただければ問題ありません。
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