第7話 潤い満たされ花開く
活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!
テントの中に入り、狭い空間に2人向き合って座る。
中に灯りはないが、外側に焚き火があるので真っ暗ということもない。
ルビは、初めての野営に少し興奮しているようだった。楽しそうに、テントの上や横の革などを見ている。
「ひとつ聞いていいか?」
レイスがそう言うと、ルビはレイスの方を見た。
「なぜ道を大きく外れたあの場所にいたんだ?」
「レイスに教えてもらった国境を超え、道を歩いていたら山が見えました。ナイアグロギアの、山頂が目的だから、山に向かえば辿り着くと思いました」
はぁぁ、そういう事···。
レイスはがっくり肩を落とした。知らないってこんなにも怖いんだな···。
「君が進んでいった先にあるのは、恐らくアリブス山脈だろう。その山を超えても、ずっと行った先に海が広がるばかりで、永遠にナイアグロギアには辿り着かない」
まぁ、とルビが口に手を当てる。
「俺が超広範囲に『探索』を放ってなければ決して見つけられなかった!···そうだ、俺は『探索』した。しかも20km範囲の···。落ち着いて考えると、その後『移動速度上昇·改』で走り、『テレポート』を2回も発動している···。どういうことだ?いつの間にそんな魔力が···」
ルビが、レイスの手を取る。
「私が、このようにレイスに魔力を送っています。休眠時が一番効率がいいはずですが、貴方はなかなか貯まっていきません」
え···と、レイスはルビを見る。
ルビは微笑む。
「魔力が枯渇したまま過ごすなど、乾いた大地に立つ花も同然。潤したいと思うのが人というものです」
レイスは、ルビの手を両手で握った。そうだ、俺は知っていた。この手から流れてくる優しい奔流を。
「毎晩、俺の為に···でも、ルビは、魔法が使えないと、言ってたろ?」
こく、と頷くルビ。
「魔法は使えません。自分で自分の中の魔力を使うすべはありせん。総魔力量は、人類の常識を超える程多いそうです。が、貯めるだけ。内に溢れる魔力のせいで、疲れなかったり、怪我が早く治ったりします。手で触れると、その部分の怪我を治したりもできます。枯渇した魔力を、肌が触れることで送ることができると知ったのは、レイスに出会ってからです。それまでは、魔力切れを起こしている人が周りにいなかったので知りませんでした」
丁寧に説明するルビ。
「そして今日わかりました。レイスに肌が触れている状態でレイスが魔法を唱えると」
レイスが苦々しくあとを続ける。
「ルビの魔力を使って俺が魔法を使う、と」
はい、と、ニコニコ笑うルビ。
「わかった。今まで、知らなかったとはいえ、すまなかったな···。夜の手繋ぎも、というか、そもそもの肌の接触を全面的にやめよう」
レイスがそう言うと、ルビは愕然とした顔をする。
「な、なぜですか!」
なぜだって?レイスは思う。
「魔力がなくなるというのは、地面が乾く事みたいなんだろ。俺はもう慣れた。君に同じ思いをさせたくないよ」
ルビはあせってレイスの手を取ろうとする。が、それより早くレイスが手を引く。
「い、嫌です。今まで、貯めるばかりでなんの役にも立たなかった···。私の魔力はなくなりません。どうか···使ってください···」
ポロポロ、とルビの目から涙が溢れる。
「え?えぇっ!?ちょ、ルビ泣くな。わ、悪かった。でも聞いてくれ。いいか?聞こえているか?俺も、俺もな、魔力総量が多いんだそうだ。だから、ルビの魔力を全部吸っちまったら困るだろ?な?」
俯いて涙を流すルビを、触ることもできずどうしたらいいかわからず、ただ覗き込むレイスの顔を、ルビは両手でそっと包む。
「私の魔力はなくなりません。先程の『消失』でも、減ったようにすら感じませんでした。総量も多ければ、一晩の休眠で得られる回復も、飛び抜けているのだそうです」
ルビの、レイスを包む手が震えている。
「放出することすらできず、ただ貯まるだけの魔力はいつかどうにかなってしまうのでしょうか。レイス、私は怖いです。あなたが魔力を使ってくれた時、私はとても」
ルビは目を閉じた。涙がツツツ、と頬を伝う。
「心地、良かった···」
······。レイスは、色々と、思う。
「ちなみに、夜に手を繋いでるときはどう思う?」
ルビは首を傾げて、思い出すかのように頬に手を当てながら答えた。
「夜は魔力の流れが非常にゆっくりです。なにも感じません。レイスは寝ているし、私も眠ってしまいます」
レイスは、考え込む。そして意思の力でこう言う。
「寝ているときは、ルビに回復を助けてもらいたいな。もしルビが嫌じゃなかったら、だけど。魔力が少しでも回復していたら、今回のように助かると思うし。どうだろう?」
ルビは顔を輝かせた。
「はい、ありがとうレイス。いっぱい送れるようがんばりますわ」
いや、う〜ん。
生まれたてのヒヨコさんは、純粋すぎるのが玉にキズだ。
レイスは、食事の準備をする。
といっても、今日は買ったばかりの携帯食料を出すだけになる。
ここらなら、動植物を獲って作ることもできるのだが、今日はそんな元気もない。
「結界は」
レイスが言う。
「俺が出す。が、誰でもそうだが寝ている時の結界はそんなに広範囲に出せないんだ。魔力回復の為の結界に、魔力を使って出したら本末転倒だからそういう仕様になってるらしい。そもそも俺は魔力がないから···」
レイスは、またルビに泣かれたら困るし、どっかに行かれてももっと困るので慎重に話す。
「普通は体の周り3cmも出したらいい方で、視認させないようにして、あとは寝ちまう。俺は、頭上30cm上からの四角錐状に作れて、野営ではいつもあぐらで寝るんだ。だから、ルビ、俺の膝の上で寝るんでもいいか?」
ルビは何も言わずにレイスの真ん前に向こう向きに座った。
「こうですか?でも、レイスが疲れませんか?」
う〜ん、レイスは考える。
「野営のときはいつもこうだし、ルビが、そうやってて寝ている時に暴れなければ大丈夫だと思うけど」
ふふ、とルビが笑う。
「野営は楽しいですね。レイスが追いかけてきてくれて、私は嬉しいです」
レイスは、ルビの肩をちょっと引っ張るようにして、
「寄りかかっていい。俺は後ろに荷物が背もたれになっているから。手を、つ、つなごうか。回復のために、だよ」
ついどもってしまった。すごく変なセリフだ。焦って弁解したからもっと変になった。ルビが向こう向いてるから良かった。
ルビはレイスの両手を取って、自分のお腹の上に重ね、その上に自分の手を置き目を閉じた。
「おやすみなさい、レイス。良い夢を」
「あぁ、おやすみルビ。良い夢を」
ルビが魔力を送れる事に気づいたのは生足膝枕の時です。ということで、ルビたんの生足膝枕にはプライスレスの価値があったんです。
1話目あとがきの補足になりますが、初回テレポート時は本能の警戒心から、送魔の回線をルビの方で無意識に遮断していました。
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