第6話 青い 光 煌めき
活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!
それからレイスは、国境を超えないならこの大量の携帯食料をどうしよう、とか、日帰りできる所まで一人で行って魔物を幾つか獲って来ようか、とか考えていた。
ルビはお花を摘みに。と言ってトイレに行ったはずだった。
そう、もっと気をつけるべきだった。彼女はあんなにもナイアグロギアに行くことを決意していたというのに。
彼女が戻ってこないと確信したのは、彼女が部屋を出てから、もう1時間以上も経ってからだ。レイスは荷物を全部まとめると、手早く宿を精算して国境の門へ急いだ。
俺はなんて馬鹿で阿呆でまぬけなんだろう。なんで門を見せた、なぜ家に帰すと叱った、なぜ、なぜ···!
国境の門は、昼近いこの時間長い列ができていた。
皆、近場で少し採集をして、日が暮れる前に帰るのだろう。
レイスは気が気でなくソワソワしつつ自分の番が来るのを待った。
「レイスじゃないか。また辺境へ行くのかい」
馴染みの門番との挨拶もそこそこに、レイスは門の外へ駆け出す。
きっと大丈夫。彼女は道を外れない。街道に沿って、ずっとそうして歩いてきた。彼女は経験がない、だから今まで通り同じようにするだろう。
レイスは自分自身にそう言い聞かせ、はやる気持ちを抑えつつ先を急いだ。
もう何時間走って来ただろう。ルビの姿は一向に見えてこなかった。時間を逆算し計算してみても、もうとっくに合流してていい頃だ。レイスは心底あせっていた。
自分の視界が狭まっていき、思考もだんだん覚束なくなっていく。この時の事は、レイスにもよく説明ができない。何か聞こえたのだろうか。それとも見えた?どっちにしろ、ものすごい距離が開いていたのだから、普通に考えたらありえない事なのだが
くるっと向きを変えると、レイスは道を外れて、あさっての方向に駆け出した。
そうしてどのくらい走っただろう。レイスはこの時、身に覚えがないだろうが、2km先の彼女を見つけた。そして、瞬時にその場所に移動した。
赤いマリンキャップがポサっと落ちて、ルビは、大型のガルムに、今にも食べられる所だった。
レイスはルビの目の前に現れ、ルビを抱きしめ、その背に襲い掛かってきている3mを超すガルムを『消失』させた。
ガルムはビシっ!という音と共に一瞬で微粒子状となり、風に乗って流れていった。
「こ···の···馬鹿がっ!何してるんだお前はっ!!」
ルビはきょとんとした顔で、まぁ、レイス。とつぶやいた。
「俺がどんなに焦ったかわかるか、俺がどんなに怖かったか···!お前を···、お前が···」
レイスはルビを離さないでいる。ルビはそろそろと腕を伸ばすと、レイスの頭を撫でてやった。
「怖がらせてごめんなさい、レイス。ですが私はナイアグロギアに行かなければ。これだけは守らなければなりません」
そうやって、頭を撫でてもらっているからだろうか。それとも、あんなに求めたルビが、この手の中にいるからだろうか。レイスの気持ちは落ち着いてきた。
レイスは、ゆっくりとルビを離す。
「俺こそ悪かった。ルビがナイアグロギアに行きたいって知ってるくせにあんなことを言って。不安だったんだ、守りきれなかったら嫌だなって」
でも、とレイスは首を振る。
「こんな風に、離れた場所でルビが危険な目にあって、それをどうにもできないほうがもっと嫌だからちゃんとついていくよ」
ルビは両手をパチンと叩いた。
「でもすごいですわ、レイス。さっきの魔法はとても強かった。怪獣がぱっといなくなったのです」
レイスはその時背を向けていたから、わからないだろうからとルビは説明した。
そうだ。
俺はあの時、『消失』の魔法を発動した。なぜだ?どうやって?
「俺の魔力は、もうないはずなのに···」
レイスが戸惑うようにそう言うと、おかしいことのようにルビが笑う。
「私の魔力を使いました。レイスはすごいですわ。私は私の魔力を使えないのですけれど、レイスには使えるのですね」
レイスは耳を疑う。
「え?へ?はぁ!?俺はルビの魔力を吸い取ったのか?どうやって?」
人の魔力を使うなんて、そんな方法聞いたことがない。
ルビは
「さぁ?私にはわかりません。でも、レイスが魔力を持っていくのはわかりました。とても、素敵なことですわね」
と、楽しそうに笑っている。
レイスには意味がわからない。でも、もしそうなら
「『消失』の呪文はそれなりに魔力を使う。魔力切れを起こすかもしれない。野営の準備をするから、少し座っててくれ」
といって、とりあえずテントを張り周り4点に火を起こした。
3m級ガルムを一瞬で消失させるには、だいたい120程の魔力量が必要です。
参考までに。
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