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エドキア  作者: 水越 琳
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第5話 伝説の終焉、その先

活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!

洗濯が終わっても、まだだいぶ日が高かったので、レイスはルビを連れて買い出しに出る。

ここからは宿がない。一番の問題は食料と水だ。

今までは街道を進んでいたが、これからは道なき獣道なども通る。自分一人の時とは違い見通しが立たない。

レイスは慎重に荷物を精査していった。


夜、もう寝ようという頃に、気づくとルビが窓の外を眺めていた。

「夜は冷える。窓を開けていると風邪をひくぞ」

ルビは胸に手を当て空を見上げたまま頷いた。

「お月さまが」

ん、と、レイスも隣に立ち窓の外を見る。

今夜は満月のようだ。遅くに登り始めたそれは、まだてっぺんまでは行っておらず、そのせいか妙に大きく見えた。

「まだあんなに遠いのですね。もう何日も進んで参りましたのに。いつになったら手が届くでしょう。いつになったらナイアグロギアに···」

ああ。

レイスにはすぐにわかった。もう何年も前だけれど、自分も襲われた気持ち。

家が恋しいのだろう。慣れた風景に帰りたいのだろう。

大切な場所を持つ、皆がかかる病気。ホームシック。

レイスは、ルビの手を取って繋いでやった。いつも寝る時にそうするように。

「帰ったっていいんだぞ。一人で無理なら送ってやる。俺はいつも今回みたいに往復しているから、なんてことはない」

ふるる、と首を振るルビ。

「私はナイアグロギアに参ります。このまま帰る事はできません」

レイスは握る手を強めた。

「まだほんのちょっとしか進んでない。言っただろ、ナイアグロギアはこの世の果てだって。たどり着けるかどうかだって怪しいのに」

ルビはレイスの握った手を両手で包むようにして自分の胸の前に持ってきた。そしてレイスを見ながら微笑む。

「それでしたらまた進むだけです。レイスは国境を超えた辺りにご用がおありなんですね?ではそこまではぜひご一緒ください」

ルビを国境の外に捨ててはいけない。レイスは、ルビから離れるつもりは毛頭なかった。



アカデミーにいた頃はレイスは優等生で人気者だった。

誰にも扱えない魔法も、誰にも到達できない威力で扱えたからだ。2発3発撃ってガス欠になる奴らが理解できなかった。だから、かなり調子に乗った嫌な奴だったと思う。

卒業判定の試験でも、別に炎の玉1個出せば課題はパスできるのに、なにやら複雑な術式で、皆をあっと言わせようとしていた。

気づいたら病院だった。魔力切れとの診断だった。

レイスは驚愕した。だって今日はまだ1回も魔法を使っていない。

術式を唱え始めただけだ。それだけで?


休眠が必要です。とだけ医者に言われ、それからもう8年も経つが魔力が回復する傾向はない。当然、アカデミーを卒業する権利ももらえなかった。

ほんのうっすら、朝露に草が濡れる程度には、朝起きると魔力が感じられるがその程度だ。

お笑いだ。この世の誰より多くの魔法を扱える自分が、まさか赤子でも無意識にやっている魔力の回復ができない体だったなんて。

潜在する最大魔力量は、人よりあったのかもしれない。だがそれが一度きりの使い捨てであった事と、調子に乗って大きな魔法を連発した事で、レイスは魔法を使わぬ生活を強いられてしまった。

魔法は、練度の差さえあれど、誰もが使えるもの。

それを使えない自分が恥ずかしく、レイスは人の少ない場所を求めた。そうしてたどり着いたのが、辺境の地での魔物バスターの職だった。剣で倒そうが魔法で倒そうが、素材は素材だ。そうして、剣の腕が磨かれていった。


「だから、国境を超え、魔物が出たとしても、俺は魔法で君を補助する事ができないんだ。もしも良ければ、君の魔法属性と得意スキルを教えてもらえないだろうか?」

朝、意を決してレイスはルビに告白した。

自分が魔法を使えないなどと、人に言った事がなかったレイスは随分緊張してしまった。だがもし、その事でルビがレイスと分かつというのなら、国境を超える前でなくては。

レイスは自分が思う以上に、ルビの事を大切に思っているらしかった。

「私も魔法は使えません。スキルというものも知りません。レイスと同じですね」

ルビは笑う。が、納得いかないのはレイスだ。

「いや、でもアカデミーに通っただろ。そこで適正審査があったはずだ。アカデミーに通わない国民はいないはずだろう?」

ルビは口に手を当て、小首をかしげた。

「アカデミーは存じておりますが、私は通ったことがありません」

そんなことって、あるのかな?レイスは不思議に思ったが、ルビが嘘をつくとも思えない。

「もしかして、じゃあ、結界作れないとかそういうこと?」

「結界?ですか?」

わー嘘だろ。

「駄目、やっぱ駄目。結界作れないのに国境超えるなんて自殺行為だ。諦めておうちに帰りなさい。俺が送っていく」

「嫌です!」

「じゃ結界出して」

「できません」

「じゃあ駄目」

「···」

ルビは口に、握りしめた拳を当てて黙ってしまった。

結界とは、魔物彷徨く辺境で、夜休むときに張る安全地帯だ。

基本的に夜の休眠で魔力を回復するのが普通なので、体を休める以上に、これがとても重要になる。外界からの攻撃から身を守り安心して眠ることができる結界は必要不可欠なのである。

一般的な成人男性の最大魔力量が300とすると(1話参照)、レイスの最大魔力量は約70,000。産まれてから一度も回復させないまま、それに気付かず生きてきて、17歳で枯渇しました。

次回11/8更新

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