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エドキア  作者: 水越 琳
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第4話 温もりを零す先は

活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!

「っ!!おいっ!」

レイスはルビの手を掴む。そこから金色の髪の毛がパラパラと落ちる。

先程のナイフで、ルビは自分の髪の毛を切り落としていた。

腰まであったそれは、今や一番長いものを探したとしてやっと顎のあたり。後ろの方はあまりの短さにツンツンと上を向いてしまっている。

「な···にをしているんだ」

レイスは目の前の光景に驚愕し混乱した。

ルビは変わらず微笑みながらレイスを見た。

「私はレイスの言うことが正しいとわかっています。ナイアグロギアに向かう為、これが最良であれば私が躊躇うことはありません」

まるで卵から生まれたばかりのヒヨコのように、全幅の信頼をもってレイスを見つめるルビの瞳を見て、レイスは自分の失言を激しく後悔する。

そんなにまでして実行する約束。

「あぁ、行こうな。だがまずは飯を食おうな」

くしゃくしゃと、短くなった髪をレイスは撫でた。


なんとかまともな飯を食い、男女分かれての大風呂も浴び、部屋に戻ってきたのだが、なぜかルビも一緒についてきた。

「あぁ、ルビの部屋は隣にある。こっちでもいいけど、どっちも変わらないと思うぞ?」

ルビと共に旅をするにしても、ルビに荷物を持たす事は期待できそうにない。しかしレイスにだって持って歩ける限度がある。

つまりはルビの荷物が増えた分、レイスは自分の荷物を精査し減らすつもりだった。だから荷物がある部屋のほうが都合が良かった。

「あの···」

ルビは珍しく言い淀む。

「もし、よろしければ、その」

手をもじもじさせて、意を決して顔を上げて、

「夜の間、手を繋いでいてもいいですか?」

「へ?」

レイスはびっくりあ然とする。

ルビは両手を振り

「もちろんお邪魔にならないよう端の方で座っています。起こさないよう、気をつけますから」

レイスは思う。大の男も音を上げるような強行軍にも文句言わずついてきたこの娘でも、夜のとばりには弱いのかもしれない。たしかにこの宿は古く、壁の木目が、生者ではない何かに見間違いそうになる気もわかる。

レイスは笑う、そして指を一本立てた。

「わかった、構わないよ。ただし、君は昨日も正座をしていて、たいして寝ていない。体は、一度壊すとたちが悪い。無理をしないことが鉄則だ。君は今夜、横にならなければ駄目だ」

今度はルビが困る番だ。

「ですが、レイスの方が疲れているはずです!そのような状態、いつまでも続けてはいけません」

レイスは、なんでもないといった風に首を振る。

「俺はもう何年もこうしてる。慣れたもんだよ」

ルビはなぜかとても驚いて、思わずといった感じでレイスの手を取った。

「何年、も?」

「あ、あぁ···」

頷きながらレイスは驚いた。ルビの、手が、触れたところが


なんだろう、すごい気持ちがいい


はっとして、レイスは手を離した。

「じゃあこうしよう。ベッドのそばにソファを運ぶ。俺はそこに寝るから、2人とも横になって手を繋ごう。どうだ?」

ルビはほっとしたように頷く。

彼女はヒヨコだ。

俺がそれを守らねばならない。


翌朝、早くに目を覚ましたレイスは、音を立てないようそっとルビの手を離し、荷物の整理をした。

よっぽど疲れているのだろう、ルビはまだすやすやと寝ている。短い髪の毛が頬にかかりまくらに広がる。そうしていると、まだ幼子のようだ。

いったい何を背負っているのやら。


ルビが自然に目を覚ますのを待ち、2人は朝飯をとると荷物をまとめて宿を出た。村を出る手前に売っていた、赤いマリンキャップを見つけたレイスは、ルビの為に購入した。ぽふっと被せると、ルビはうれしそうに帽子を抑えた。


こうして、2人は街道を進んだ。

道中ルビは、たしかに世間知らずでレイスを困惑させたが、基本的に従順で、2人の旅は順調に進んだ。

昼間はレイスの言うことを大人しく聞くルビも、夜寝るときの手繋ぎだけは譲らず、レイスはもう諦めて、最初からツインの部屋を取るようになっていた。


「あれが国境だ」

レイスは先に見える大きな門を指差す。

「あれを超えるとしばらく宿がない。少し早いが今日はここで休もう」

ルビはホッとしたように頷く。

宿につくと、レイスは靴を脱ぎ乾かすように窓に立てかけて、服を脱ぎ洗濯をする。

桶に泡を立てて洗いながらルビに説明した。

「ルビも着てない方の服を貸してくれ。洗濯なんてしばらくできないから。本当は全部洗ってしまいたいが、まぁいいだろう」

振り向くと、シャツとズボンを脱いで肌着になったルビが、目をきらめかせて桶を見ている。

あ···俺また失言やった?

ぐるんと桶の方を向き直り

「あ、あ、あぁ、そそそそそこに置いといていいぞ。俺がやっとくから」

するとルビはタンクトップのまま横に座り

「私にもできますか?」

と、恐る恐るシャボンをつつく。

レイスは苦笑し、席を変わってやり、洗濯のやり方を教えてやった。シャボンが浮く中、ルビは夢中で洗い、レイスがギュッと絞って干す。

ひとときのやすらぎが、そこにはあった。

レイスさん。2回目だとやっぱり、計画的発言ですか?

「失言だっつったろ!!」

次回11/5更新

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