第2話 運命を掴むはこの手
活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!
目を開けると、目の前に女の顔がドアップだった。
男は濃い茶色の目を見開く。
それもびっくりだが、更に注目すべきは彼女の口元である。
女は正座を崩して座り、そのまま眠りこけていて背を丸め前かがみになっていて、その膝の上に男のこげ茶色の頭を乗せていた。その口はわずかに開いて、ヨダレが今にもこぼれそうで
つまりは男の顔に垂れてきそうだった。
「うげぇぇぇっ!」
男は飛び起きた。
いくら相手が可愛らしい少女でも、寝てる間にヨダレ垂らされる趣味はない。
辺りは開けたばかりの朝靄に包まれた森の中。
ここはどこだ?意識を手放した時の記憶が、ない。
男の声で女も目を開く。
「おはようございます、良い朝ですね」
にっこり笑うけどヨダレ出てます。
何とも言えない顔をしていると、女はパンパンと土を払うと立ち上がり優雅に一礼する。
「はじめまして、私はルビ··········です。お見知りおきを····」
「ルビ?それともルビー?ごめんよく聞こえなかった」
男は聞き返す。
ルビリアンは曖昧に
「ど、どちらでもいいですわ。どちらがいいかしら」
と更に聞き返してきたので面倒くさいことになりそうだ、と男は判断した。
「それじゃルビ、俺はレイスというものだ。改めて、はじめまして」
ルビは、朝焼けに光る雲のように金色の髪をして、よく晴れた日の空のように真っ青な瞳をしていた。麻の袋をそのまま着せられたような格好をしていて、白く傷一つない足はそのほとんどが見えていた。立ち上がったせいでそれが、座ったままのレイスの真ん前に来る形でよく見え、レイスは視線を外す。
「あぁ〜、その、ルビ。服はどうした?最初はドレスみたいなの着ていただろ?」
そう。レイスは見ていた。ルビが野党にとっ捕まり連れ去られるのを。なんの抵抗もなく大人しく連れていかれたのは多少不自然だったが、あれはきっとこの後身売りされる運命だろうと、一目でわかった。見てしまったからには助けなければ夢見が悪い。
レイスは魔法を使うことができない。それゆえに剣の技はこの数年間で極めるだけ極めてはいた。剣で負けることはない。だが、多勢に無勢な上、ほば確実に相手は魔法を使えるとなると不利どころの話ではない。
悩みながらも馬車のあとをつけ、ついに覚悟を決めて乗り込んだ。覚悟を決めるまでに相当時間がかかったが。
「お洋服でしたら、取り替えました」
さも楽しそうにルビは答える。取り上げられた、の間違いだろ。と、レイスは思うが口には出さない。
「じゃ、荷物は?手ぶらってわけでもないだろ?」
ルビは、そういえば···という風にあたりを見回す。
いや、そこらにあるわけない。ここは野党の隠れ家からずいぶん離れているのだから。
そう思ってレイスは思い出した。そうだ、俺は昨日、『テレポート』を発動してしまった。ここは森の中、周りに人影はない。『テレポート』は成功している。
ってことは、わずかに貯めた魔力も底をついたな、と、レイスはうなだれた。だが、改めて自分の魔力に注目してみると、使い切ったどころか、わずかだが魔力が溜まっているような気さえする。
おかしいな、なぜだ?ここはまさか、伝説に伝わる魔力の源、セイレーンの魔宮だったりするのか?
レイスは周りを見回す。森の木々は静かにそよぎ、鳥たちがさえずり、清らかではあるがごく普通の森だ。
かくてそれぞれの理由で周りを見渡す奇妙な男女が、そこにいた。
ぐぅぅぅっ!と、ルビのお腹が盛大に鳴ったので、2人は一旦周りを見るのをやめた。
「携帯食料しかないが、メシにしよう」
レイスはそう言うと、手早く食事の準備に動き出した。
渡された塊を、ルビは両手で持つとじぃーっと見つめる。レイスは気にせずガリっと噛みついた。それを見たルビは、恐る恐る口に入れた。
「···はぐっ、ん···」
あまりの硬さに目を白黒させる。
「おい···大丈夫か?ほら、水だ」
革の水袋をルビに渡すが、ルビは首をかしげている。
「こちらも食べられるのですか?」
レイスは苦笑いしながら水袋を取ると、ぐいっと水を飲み実践してみせた。
「こうやって中の水を飲むんだ。こぼさないようにしてくれ。ここからどのくらいで水場があるか、まだわからないから」
しごく簡単な朝食が済むと、レイスはルビに聞いた。
「君は何を目的にしてどこに向かっていたんだい?」
ルビは、食前だけでなく食後にも祈りを捧げて、レイスを見る。
「はい。ナイアグロギアの山頂へ参ります」
は?レイスは思わず笑う。
「何言ってんだ。ナイアグロギアは世界の果て。ここから行くなんて正気の沙汰じゃない、ましてや君のようなお嬢様が。大人しくおウチに帰ったほうがいい」
ルビは、表情を全く変えず、微笑んだままで答える。
「そうですか、世界の果て。ですが私はそこに参ります。シャロンとの約束です。必ず、たどり着きます」
レイスはため息をつく。
「無理だ。俺に君を見殺しにしろというのか?せっかく昨日命を助けたのに、もっと大切にしてもらいたいもんだ」
まぁ、と、ルビは目を丸くする。
「私は貴方に助けられたのですか?そうとは知らず、大変失礼致しました。本来であればどのような願いも聞き入れねばならない所でありますが、シャロンとの約束が先でございました。ここはご容赦ください」
深々と下げる頭。そしてルビは、すっくと立つと、スタスタと麻袋から出る足を躊躇なく動かし、歩き出した。
「あああああああ、待て、分かった···のか?俺···。いや、いやいや待てって。止まれって!···ナイアグロギアに行くって約束に触れなければ、俺の願いは聞き入れてもらえるのか?」
ルビはぴったり止まると振り返り
「えぇもちろん。なんなりと」
と微笑む。
レイスは、自分の運命を呪う。こいつはやっかいな疫病神だ。そいつを俺は俺の意思で引き込む。そうそうただでは逃れられない。
だが仕方ない、運命とはそういうものだ。
「俺を連れて行ってくれ。君の旅に、俺も同伴しよう」
ルビリアンの生足膝枕(麻袋ver)
¥000000 How much?
※ヨダレは含まれません
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