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エドキア  作者: 水越 琳
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第12話 真実

活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!

な···ん···だっ···て···?


レイスはルビの手を取った。両手を、両手で、ギュッと握る。

頭の中がぐるぐるして、吐き気もするし、喉が干上がってひねり上げられる。

嘘を言うな。死にに行くなんて、嘘だ。

でも俺は知っている。ルビは決して嘘をつかない。

誰にも。俺にも。

俺がしてきた事は、じゃあなんだ?

道を違えさせず先導し、足を止めないよう準備揃え、志半ばで倒れないよう魔物を排除して来た。

ルビを死なせたくなかった。願いを叶えてやりたかった。ルビが笑っていればそれで良かった。

そうして、俺は、ルビを、死地へいざなった···のか···。


「お前の守る約束って、死ぬことか」

「どうでしょう」

違うのか?と、レイスは顔を上げる。

「火口に落ちれば、普通は死にます。私の場合は魔力が自分の体を癒やしますから、私の体を蝕む力と、私の体を癒す力、どちらが強いかわかりません」

レイスに手を掴まれたまま、ルビはそっと微笑んでいる。

「いずれにしろ、私の魔力は私の身体のことで手一杯になるでしょう。国が消えることもなくなるでしょう」

レイスはたまらずルビを抱きしめた。

なんだそりゃ

なんだそりゃ

なんだそりゃ!

「駄目だ、絶対に駄目だ。そんな生き地獄···俺は認めない、認めないぞ。離れないって、傍にいるって誓ったじゃないか···」

ルビは、そろそろと手を上げ、レイスの背をさすってやる。

「私には、最初から約束がありました。後からの何もかもに、それを上回る事はかないません」

ずるずる、と、レイスは崩れ落ちた。ルビの足にすがるように、泣きつく。

「嫌だ、ルビ、死なないで···」

ルビは、そんなレイスの手を、少しずつ外そうとする。

「私にとって、不幸は自らの死ではありません。私の不幸は人を巻き込む事。回避法を教えてくれたシャロンに背くことはできません。レイス、どうかわかって。あなたをこれ以上先に進ませるわけにはいきません」

シャロン!!そうだシャロン。ルビの口から何度も出てきたシャロン。

紅い髪、黒い瞳、今やルドキアの王となったシャロン。

おかしいと思わないか、誰なんだシャロン。

「俺の願いを叶えてくれ、ルビ」

涙に濡れたレイスの顔を、困ったように見つめるルビ。

「お前の記憶が見たい。シャロンとの記憶を」



魔族の一族の部隊がエドキアを侵略し、惨敗し壊滅した。

魔族の族長の一人娘であるシャロンは一人逃されるが、すでに瀕死の重症を負っている。

が、それゆえに、王都の対魔族用の結界にひっかからずに城のルビリアンの私室に落ちる。

意識朦朧とする中、シャロンは目の前に現れた人間に最後の力を振り絞り攻撃を与えようとするも、魔力が底をつき気絶した。


突然現れた赤髪の女性に心底驚くルビリアン。

人を疑うことを知らぬ彼女は、今にも攻撃を放たれそうな所までいった事態には気付かず、気絶したシャロンを介抱する。

ここでのシャロンは、完全に魔力切れを起こしているが、種族が違うため、ルビの送魔は起こらない様子。


10日経ち、シャロンは意識が戻ると驚く。傷がほぼ完治している。

「どういうことだ。お前は誰で、ここはどこなんだ」

「ここは王城でここは私の部屋です。貴女は傷だらけでそこのバルコニーに落ちてきました。私が傷に触れ、治しました。私はこの国の王女で、ルビリアンといいます」

目の前にいる女性が魔族であるという事も、魔族は人間と敵対し、害をなす存在であるという事も、王城の中厳重に守られてきたルビリアンに知る機会はなかった。

しばらくの後、シャロンは困惑する。

あふれる魔力だけ持つ女など、使い道がない。だから殺してしまおうと思ったのに、何をしても死なない。殺せない。操って死なせてしまおうと思っても操れない。呪文が跳ね返る。

ルビリアンの周りにいる使用人は全員呪文が通じているのに。

シャロンは考える。

それなら他にも方法はある。呪文で操るのではない。言葉で操るのだ。

そしてシャロンは、ルビリアンの心に近づき、友と偽り、ルビリアンの不安を引きずり出した。

ルビリアンは、毎夜その身に貯まっていく、膨大な魔力に、恐れ、苛まれている。いつか爆発し、周りを不幸にするのではないか、と。

シャロンは身をよじり高笑いをする。馬鹿め。貯めるだけで吐き出すことのできない、価値のない馬鹿女め。

シャロンは優しく諭す。

「お前の魔力は、今に限界を迎え、お前が心配しているように弾けて飛ぶだろう。お前を怯えさせる事になるが言っておこう。その威力はこの国ひとつ、まるごと消し飛ぶほどだ。しかし、お前は私を救ってくれた。だから教えよう。ここから向こう、月より向こう、遠く離れた()の地『ナイアグロギア』。その地にある山の頂上へ行け。そこにある火山口から身を投げよ。お前が貯め込んだ強大な魔力さえ、彼のナイアグロギアであるならば、飲み込み、燃やし、消し去ることができる。この国に平和がもたらされるだろう」

「この国も、お父様も、幸せに暮らせますか?」

「もちろんだ、約束しよう。お前が身を投げれば、この国に平和が訪れ、お前の父は末永く幸せに生きるだろう」

「約束、いたしました。私はナイアグロギアに参ります。必ずたどり着きます。シャロンは、父を助け支えていってもらえますか?」

「あぁ、確かに。約束だ。必ずや、ナイアグロギアに、行け」

シャロンの黒い目が、紅く光る。




魔族···!シャロンが!

ルビの額から自分の額を外し、レイスは優しくルビを横たえた。

ルビには寝てもらっている。余計な思考に邪魔されず、真実だけを見るために。

お陰で、ルビ自身が気付かない事まで色々とわかった。

魔族にとって約束など、肩に落ちる雪の結晶よりも儚いものだろう。

そんな魔族に対し、なんと深くまで心を許してしまった事か···。

ルビらしいといえばそれまでだが、警戒心のまるでない様に背筋が凍る。

しかし、これでわかった。

ルビが先に進む理由。ルビの原動力、それは、不安。

ルビの不安を取り除く。それができればルビの足を止めることができる。

「ふっ」

たかが数日共にいただけの魔族が、2年傍にいた俺に敵うとでも?

一人呑気に、戻らないルビを待つ間抜けな俺はもういない。

ルビの足を俺が止める。そのためには。

次回12/3更新

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