第10話 騎士の誓い 王の胸懐
活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!
朝早く目を覚ますと、遠く南を見つめる少女がいる。
両手を組み、静かな顔で、遥か遠くにルドキアを見つめる少女、ルビリアン。
つ···と、彼女の頬を涙が落ちる。
レイスは、目覚めてないふりをしてやり過ごす他なかった。
自分に彼女を慰めてやるすべなどない。
早朝の、父への祈りは毎日続き、彼女の悲しみの深さを表していた。
いくつかの街を過ぎ、この国ともお別れのときが来た。
「これで何回目になるか。国境まで辿り着いたようだな」
最初の国境から、もう2年が経とうとしている。
旅立ちの時切り落としたルビの髪も、もう肩下まで伸びていて、彼女はそれを2つに分けて器用に編み、赤いマリンキャップを被っていた。
「はい。この国ともお別れですね」
ルビは、明るく言う。彼女が悲しみに包まれるのは早朝だけで、彼女一人の時間だけであった。
レイスも、それに気付かぬふりをして元気よく過ごしていた。
「ここから先に、大きな国はない。もう、半分は過ぎたって所だな」
ルビは、口に手を当て
「半分···」
と呟く。
そう、半分。2年進んで、やっと半分。しかも、ここから先、人はどんどん少なくなり、やがては遂に未踏の地となる。
そこから先、ナイアグロギアにたどり着き、更に山を登るなど、一体どれだけの時間と運が必要か、検討もつかない。
考えれば考えるほど不可能だ。
大海原で、船もなく、幸せに暮らしてね。ってくらい、不可能だ。
参拝のレベルを超えている。一体なんの意味があるのだろう。
ナイアグロギアの山頂で、一体なにをしようというのか、ルビは教えてくれない。ただ行ければいいのです。と微笑むだけ。
ただ行くだけ?5年はかかるだろう。うまく真っ直ぐたどり着いたらの話だが。そしてまた5年かけて帰っていく。そんな話があるわけがない。
ここ最近、レイスの頭の中はそんな疑問で埋め尽くされていた。
心から愛している父の死でも止まらない。約束とは。
「レイス!!」
ルビの、鋭い悲鳴で我に返る。
ッキーン!と、レイスの剣が遠くに放られる。
レイスは瞬時に術式を唱え、大海原に住む海龍を召喚し、魔物を飲み込み押し流した。
最近のレイスは、8割方も魔力が潤い、その扱う魔法には制限がなくなっていた。
ザッバーと、召喚魔法を終わらせて、剣を拾いルビの元へ。
ルビは、両手を組み祈るようにして結界の中で震えていた。
「ありがとう。声をかけてくれたから助かったよ」
結界を解くと、すぐにルビがレイスの右頬に手を当てた。
剣を飛ばしたときに頬に掠ったのだろう。肉が切れて血が出ていたのだ。
レイスは、ルビが治療しやすいよう、ルビの肩に手を起き屈んでやった。いつもそうするように目をつぶると、体の中にルビが入ってくるのがわかる。
「気持ちいいな。ルビに傷を治してもらうの、俺は好きだ」
「私は好きではありません」
ルビの声が震えていたので、レイスは驚いて目を開ける。
目の前にルビの顔があり、大きな瞳に目一杯涙が溜まっていた。
「父に続いて、あ、貴方までもがいなくなったら、私はどうしたらよいか、わ、わかりません」
ルビはポロポロ、と涙を零す。
レイスは肩に置いていた手を上げルビの顔を包み、親指でそっとルビの涙を拭う。
「すまなかった。大丈夫だよ、約束しよう、俺はいなくならないから」
レイスの手に包まれて、ルビが目を上げレイスを見つめる。
「約束?」
レイスは微笑んだ。
「あぁ、誓おう。わたくし、レイス=リィ=シュタイナーは、今日ここに、ルビリアン王女の元に永遠に仕え、決してお傍を離れないと誓います」
右手を上げ、騎士の正式な誓いの言葉を口にする。王族の前でこれは、どの契約にも勝る取り消しのきかない強力な力を持つ。
レイスは、にっこりと笑う。
「姫、どうか承認のキスを」
ルビは呆気にとられ固まっていた。国を統べる王ではないので、騎士の誓いも受けたことがない。
本来ならそのキスは、王の左手の甲にするものなのであるが、レイスは、呆気にとられたルビの
唇にキスを、する。
「んっ!」
「ぁっ!!」
2人同時に奇妙な声を上げ、お互いに飛び上がって離れた。
レイスは立ったまま呆けていて
ルビはへたっと座り込んだ。
2人とも、自分の口に手を当てている。
「今···」
ルビが言う。
「あ、ぁ、す、すまなかった···」
2人が口づけた途端、物凄い量の送魔があった。それは毎夜手を繋ぎ行う魔力回復とは比べ物にならず、ほんの一瞬であったにも関わらず、先程の大型召喚魔法の消費分すら遥かに凌駕し回復しきるくらいの勢いだった。
レイスは、へたり込んでいるルビが心配になる。
「魔力の残りはどうだ?い、今ので随分、す、吸ってしまった、から、なくなってしまったかもしれない」
ふるふる、と首を振るルビ。
「いいえ。あの、びっくりはしましたが、魔力は減っておりません。すみませんでした、驚いてしまって。もう大丈夫です」
立ち上がり、心なし上を向き、目を閉じるルビ。
「·······。もう、いいから、先を急ごう。なんかほんと」
ごめんなさい。天国にいる、ルビのお父さん。
レイスさん、吸ったって、一体何吸ったんですか?
「魔!りょ!く!!だっ!!!」
9話目あとがきの???は、『キス』でした。
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