第1話 出立は嵐の如く
活動報告も合わせて見ていただけると泣いて喜びます!
この世界には魔法が存在する。
人は10歳になるとアカデミーに集められ、都市によってレベルに差はあれど皆、魔法について学ぶ。
このアカデミーにその昔、伝説級とまで言われた男がいた。
扱えぬ魔法はなく、威力方法に制限がなく、知識は賢者のように破壊力はメイガスをも超えるほど。その場にいた者は一日にいくつもの奇跡を目の当たりにしたという。
が、それはただの噂で、真偽の程は不明だった。
何せ10年近く昔のことであったし、何より、そんな男の卒業記録など、どこを探しても見当たらないのだから。
魔法は、魔力を消費し発生させる。
個人差はあるが、人それぞれに最大魔力量があり、休眠をとることで回復する。
例えば、一人男がいたとして、その最大魔力量が300だったとする。普段の生活で使う魔力量が50だったとして、それが一晩寝ると全回復する。なんだかんだあって、ある日魔力量を100使った日があったとして、翌日には全回復しなかったとしても、次の日に満タン回復した場合
{1日目(100)+2日目(50)}÷2=75
で、この男の一晩の休眠で得られる魔力回復量は75とわかる。
そしてどんなに気張ろうと、この男は普段の6倍分までしか、魔法を使うことができないし、もしそうした場合
{1日の回復量(75)-1日の使用量(50)}×12=300
全回復するまでに12日かかるということになる。
しかしこんな計算、アカデミーでは習わない。
1日で最大まで使えるほど人に魔法を扱う技力はないし、たまに火事場の馬鹿力で魔力の暴発により病院に担ぎ込まれる人がいる程度で、『そして よが あけた』ら、MAXなのである。それがこの世界の人々の、常識であった。
ルビリアンはにこにこしていた。
出発して早々に、今までにない経験がたくさんできて、ルビリアンは大満足である。
たとえば、たくさんの男の人に囲まれたり、ひょいっと持ち上げられて荷物の間に押し込められたり、目隠しをされて、すごい揺れる幌馬車で運ばれたのも新鮮だった。先程はお洋服を脱いでこれに着替えろ、と麻袋を渡されたりもした。ルビリアンは、麻袋を着ることができるのかしら?と不思議に思ったが、首と腕が出る場所に穴が開けられていて、スルッと着られたので、ルビリアンはこの日何度目になるだろうか、またも感動していた。
街ってとても楽しいところなのね。男の人たちが話している言葉が、所々わからないのが歯痒いくらいだわ。
ルビリアンは今、真っ暗な部屋に両手足をきつく縛り上げられて、口には猿ぐつわを噛まされ放り出されていた。手の届かない高い場所に小さく窓が開かれていて、そこからは真ん丸のお月さまが覗いている。
とても遠くに来た気がしていたのに、お月さまが同じように見えているわ。まだまだもっと遠くに行かなければならないのね。あのお月さまが手に届くくらいに。
ルビリアンのお腹がぐぅっと鳴る。
ルビリアンは、また目を輝かせた。
今のは何かしら?おもしろい!もしかして、私のお腹には誰かが住んでいたのかもしれないわ···。
部屋のドアのすぐ外で、「ふぐぉっ」というくぐもった声と、何か重いものがドサリ、と落ちる音がして、ルビリアンの転がされている部屋にこっそりと男が入ってきた。
「大丈夫かい、お嬢ちゃん。怪我はないか?」
声を潜めて男が言いながら、ルビリアンの縛っている縄を解き猿ぐつわを外した。
「すまなかったな。···なにか、されなかったか?」
囁くように男に聞かれ、ルビリアンは答えた。
「今、縄を解かれましたわ」
高く澄んだ、楽しげに弾む綺麗な声だった。それはなんの警戒もはらんでおらず、高く大きく部屋中に響き、薄い壁を伝って隣の部屋にまで届く。
男は目を剥く。
「馬っ、鹿···お前、見つかるだろ」
と、ルビリアンの口を塞ぐがもう遅い。
「なんだぁ?」
野太い声が響き、入り口にノビている見張りを見つけたのだろう。警戒の声を発し、どやどやと野党どもが部屋に入ってきた。
男はざっと見回す。
野党の数は14人。
「まいったな···」
男はつぶやき、剣を抜く。
ザシュ!っと、かかってきた一人目の利き腕を切り裂く。
どうかこれで戦意喪失してくれますように。
野党どもは一瞬止まるが、へへへと下卑た笑いを浮かべて近寄ってきた。
「ですよね〜」
と、男は言うと、2人、3人と切り捨てて行く。と、魔法の火の玉が男めがけて飛んできた。
「!」
男は辛くも剣でそれを受け止める。
「こっちは魔法も使えないってのに···」
苦々しげに剣を振るっていると
「痛いのですか?どこがです?」
切り捨てた野党に、ルビリアンが近付いていく。
「おわっ、お前何してるんだ。危ねえだろ!?」
男の体制が崩れる。
それを見逃さず、野党は飛びかかってきた。
「くっそ」
絶体絶命。大ピンチ。
「九死くらいなら一生を、か。くそっ!何年貯めたと思ってるんだっ!···おい!お前!」
男はルビリアンの腕を引っ張り、強く掴んだ。
「目ぇつぶってろ、ぶっ飛ぶぞっ!!!」
2人の周りを一瞬で光が取り囲み、円錐状に立ち上ったかと思うとヒュンっと掻き消えた。残ったのは傷にうめく野党どもだけ。
「テレポートだと?円陣の補助も無く、か!?やられたぁ!!今日の一番の稼ぎがぁ!!!」
ここでのルビリアンは、突然現れて縄を解いた男になんの感情も抱いておりません。盗賊側を助けようとしたくらいです。
だから共用できなかった、と解釈してください。詳細は判明した時点で。
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