初めての異世界
はーじまーるよー
〜神話時代〜
そこには一人の王がいた。彼の名はゼロ。まだ世界には何もなく一人であった彼は「他」を求めた。世界を作り、生き物を生み出し、全てを創った。それでも消えない「孤独」。彼は次に家族を求めた。
生まれた子供の名前はヒューマとデゥーマ。彼は今までの孤独を埋めるように大切に育てた。大切に育てられた子供たちは神として成長し世界の管理を任された。
子供に管理を託したゼロは未だに足りない物を探して旅に出る。最初は「感情」を求めて。
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世界を任された子供たちはそれぞれの信念に基づいて世界を管理した。ヒューマは「平和」こそが幸せであると信じ、デゥーマは「混沌」によって幸せを理解すると信じて。やがて彼らは対立し、議論を重ねた。
世界が作られて数千年、意見の食い違いよる対立は争いに発展した。しかし神の戦いは世界に影響が大きすぎる。よってそれぞれが眷属を生み出しそれらに戦わせることにした。ヒューマは人族を、デゥーマは魔族を生み出した。
最初の戦いはヒューマが勝利した。しかしデゥーマが一度で決めるのはどうなのかと異を唱えその後もこの戦いは続いた。数万年と戦いが続くうちに下界では人魔大戦と呼ばれるようになり、勝者はその時代の覇権を手にしてきた。大戦が繰り返されるたびに人族と魔族は互いに憎しみあい、大戦がなくとも小競り合いをするようになった。
それから1億年後。第1万回ということでこの結果によって世界の管理者を決めることにした。今までのように「王」を殺すことでは決着がつかないと、勝利条件を「一方の種族の絶滅」とした。神は考える。確実に相手を倒す方法を。
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〜日本 朝〜
チュンチュン
小鳥の囀りで目を覚ます。
はずがない。とても眠い。もう一度寝る。
「集、朝だよ。」
「なんでお前が俺の部屋にいるんだ?澪。」
「なんでって、『今日からお母さんがいないから起こしにきてくれ』って言ったのは集じゃん。」
「冗談だよ。それ。」
「どうでもいいけど。いいの?遅刻するよ?」
「何言って・・・後20分じゃん。準備してから走ってやっと間に合うんだけど、なんでもっと早く起こしてくれなかったの?」
「さすがに私だって冗談だって思っていたのよ?でも全然こないから迎えにきたの。一緒に登校するって親の約束なんだからちゃんと迎えにきてよ。」
「すまん今から準備する。リビングで待っていてくれ。」
「早くしてよねー。」
紹介が遅れたな。こいつは俺の幼馴染で『神崎澪』。近くの神社の神主の娘。巫女をしている。神社が近所にあることや、祭り、俺の両親が神主と同級生だったりと色々接点が多くて今までズルズルと関係が続いてる。まぁ家族ぐるみの仲ってヤツ。
それで俺は『櫻田集』。顔は可もなく不可もなくって思っているけど他の人から見たらどうなのかな。え?聞いていないって?つれないな。興味くらい持ってくれよ。それで澪とは同じ学校に通っている。澪の両親が心配性な方で、小学生の頃、近くで連続殺人が起きた時にしばらくの間一緒に登校してからずっと一緒に登校している。みんな気になる恋愛についてだが、こんなに一緒にいるとさすがに恋愛感情なんてないよ。澪は可愛い方だと思うけど。よく小説だと学校一の美少女で幼馴染っていうのが多いが、そこまでではないと思う。クラスの男どもがよく誰が可愛いだのと言い合っているけど澪の名前は出ないからな。
「シューウー。まだー?」
「今行く!」
多分何年たってもこのままだよ。
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〜日本 夕方〜
「集。一緒に帰ろ。」
「どうした?急に。いつも友達と帰っているだろ。」
「あのねぇ。今朝話したでしょ。あなたの親が今日はいないって。それで私の家で晩御飯食べてこいって言われたんでしょ?だからこれから買い出しに行くの。」
「荷物持ちってことね。りょうーかーい。」
「早くいくよ。」
「ちなみに今日の献立は何?」
「ヒントは、『一度にたくさん作ることができて、スパイシーな食べ物』。」
「カレーしかなくないか?」
「そうよ。」
「ひねりが足りないなぁ。」
「いいの。それよりも今日は特売なんだから!急ぐよ!」
「ちょっと落ち着こうか。どんなに急いでも今は赤信号だから渡れないぞ。」
まったく。特売に気合い入れすぎだろ・・・信号も見ないで飛び出すとか危険以外の何物でもないぞ。
「ねぇ。集?」
「なに?」
「足元で光っているそれ、なに?」
「はぁ?とうとう特売で頭がおかしくなったのか?」
「とうとうってなによ!そうじゃなくって!本当に光っているんだってば!」
「何いって・・・いるんだよ・・・」
それから足元を見ると確かに光っていた。幾何学模様がびっしりと書かれた円が。
なんだ?これ?見た目は完全に魔法陣だが、書いてある文字がまったく読めない。でもなんだろう?読めないのに何かが伝わってくるような・・・
「異世界・・・転移・・・?」
「え!?これ読めるの?」
「いや。読めないけどなんかそう書いてある気がする。」
「とりあえず全部読んでよ。」
「えーっと。『異世界へ転移し世界を救ってください。Yes/No』かな?」
「え?何それ?怪しくない?」
「まぁまぁ、まだ続きがあるから。」
えっと。要約するとだな。
1:世界を救ってくれ。
2:転移した場合、魔王討伐後、現在時刻に戻ることができる。
3:拒否することも可能。ただ、その場合この記憶は消される。
意味がわからないし。具体的な目標が設定されていない。それに書かれてあることが非現実的すぎる。でも・・・
「俺は行こうかな。」
「え。なんで!?こんな怪しいことに関わっちゃダメだよ!」
「でも、なんだか行かなくちゃいけない気がするんだ。」
「それは・・・なんとなくだけど・・・わたしにもわかるよ・・・でも!」
「それだけじゃないんだ。なんかさ。うまく言えないけど。面白そうな気がする。」
「はぁ。集はいつまでも子供だね。わかった。わたしも行く。」
「いいのか?」
「いいの。それにまだ本当に行けるかなんてわからないでしょ?」
「まぁ、それもそうだな。」
『Yesの選択を確認。転移します。』
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強い光が俺たちを包む。びっくりして目を瞑ったが少しの浮遊感があっただけで何も起こっていない。恐る恐る目を開ける。外はいつの間にか暗くなっていて、あたりは暗闇に包まれていた。
「澪?大丈夫か?」
「大丈夫。それより、ここどこ?」
あたりを見回すと神殿のような古びた柱が立っている。そして柱の向こうは木が生え、鬱蒼としている。
「少なくともどこかに転移したみたいだな。異世界・・・かどうかまではわからないが。」
うーん。てっきり城の地下とかに転移してすぐに「勇者様!」とか言われると思っていたのだが・・・チートスキルで異世界無双!とかを期待していたのに。これからどうする?もしここが本当に異世界だとすると森の中は危険だ。とりあえず安全な場所にいかないと。
「集。これからどうするの?」
「とりあえず道を探そう。道や開けた場所なんかは見つかりやすいが、そもそも魔物は近寄らない。まずは安全を確保しないと。」
「魔物って。本当にいるの?ここが異世界かもわからないのに。」
「あぁ。この辺りにはゴブリン、フォレストウルフ、それと魔物ではないけどビッグブルがいる。」
「何言っているの?魔物の前に、ここがどこかすらわからないのになにがいるかなんてわからないでしょう?」
「・・・そうだったな。すまない。混乱しているみたいだ。」
「ちょっと。しっかりしてよね。」
なんだ?よくわからないがここには魔物がいると『知っている』気がする。なんだろう。やっぱり混乱しているのか?
「ねぇ集。集そんな腕輪つけてた?」
「あぁ、光輪の腕輪のことか?つけていたと思うけど。・・・光輪の腕輪?」
「ふーん。そうなんだ。全然気がつかなかった。」
「それを言ったら澪だって九尾の扇子持っているだろ?」
「え?九尾の・・・何?あれ!?なんか腰にある!ねぇなんで集はこれのこと知っているの?」
「・・・わからない。ごめん。」
「ちょっと!大丈夫?さっきから変だよ!?」
どうしたんだ?俺は。さっきから知りもしないことを知っている。ダメだ。なんだか頭が痛くなってきた。クラクラする。とりあえず早く澪を安全なところへ連れて行かないと。
「澪。とりあえず安全なところへ行こう。この神殿の入り口から出てまっすぐ行けば道に出られる。」
「本当にそっちに道があるの?なんでわかるの?顔色悪いけど大丈夫?」
「わからないが。俺を信じてついてきてくれ。」
「・・・わかった。信じる。」
まず神殿から出て森を抜けよう。大丈夫。ある程度開けた道があるから、魔物は近寄らないはずだ。
今はあれこれ考えるよりも生きることを考えないと。この森は危険度が小さいが、素人が迷い込むには危険すぎる。
ガサッ
「「!」」
「今の音、何?」
「わからないけど、向こうの草むらから聞こえてきた。」
ガサッ・・・グギャ
草むらが不自然に動いているから何かがいることは間違いない。でもこの鳴き声は・・・
「ゴブリン・・・」
グギャ グギャグギャ
「数が多い。」
「ねぇ!集!あれ何!たくさんいるよ!どうするの!?」
「静かにして。気付かれたらまずい。」
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁ!
「!気付かれた!」
まずいまずいまずいまずい!こっちは体調が悪くて戦うことなんてできないぞ!そもそも体調が良くても戦うための武器なんて持ってない!武器なんて・・・武器?
『光輪の腕輪:神器。神から勇者に与えられる武器。変幻自在の光を操る腕輪』
神器?ってなんだ?それに神って・・・考えている暇なんてない!とにかくこれが武器なら戦える!でも使い方がわからない・・・いや・・・わかる?。
5対のゴブリンが襲いかかる。ゴブリンは強くてもチンピラ程度の力しか持っていない。しかし数が多いほど危険度は増していく。ゴブリンは五体から群と判断され、群が形成されるとそれだけで危険度は一段階大きくなる。つまり子供二人が5匹のゴブリンの群に襲われている状態は絶体絶命と言える。彼が勇者でなければの話だが。
意識がはっきりしてきた。澪を守る。武器もある。使い方もわかる。殺れる。
俺は襲いかかるゴブリンに向かって駆け出す。この数に正面から戦っていたら勝ち目はない。それならどうすればいいのか。正面がダメなら後ろに行けばいい。
光輪の腕輪を起動する。こいつを使うときに大切なことはイメージ。イメージが明確であればあるほど、威力は増し精度は研ぎ澄まされる。
イメージはジェット機。腕輪を光子に分解。手のひらに圧縮。それを後ろに向かって解放する。
すると体は前へと進み、気がつけばゴブリンを追い越していた。目の前から敵が消えたことでゴブリンどもが狼狽えている。後ろは取った。あとは殺すだけ。失った光を呼び戻す。
イメージは剣。右手に光が集まる。集まった光は大きくなり、やがて一本の剣となる。
俺を探すゴブリンの後ろから斬りかかる。斬られたゴブリンの体は驚くほど柔らかく綺麗に左右が分かれた。ゴブリンの悲鳴を聞いて、俺を見つけたゴブリンたちはまた同じように襲いかかってくる。
やることは同じだ。
一体に狙いを定めて後ろに高速移動。狼狽える背中を切り裂く。襲いかかってくる背中を切り裂く。また切り殺す。最後の一体になると仲間がやられたことから学んだのか俺が消えた瞬間に振り向いた。やっと学習したのか。俺はそのまま正面から切り殺した。
終わってみるとなんだか現実味が薄い。不思議と「殺す」ことに対する罪悪感はなかった。
よかった。俺でも倒せた。あとは澪を・・・送り・・・トド・・・ケル
「すごいね。あんなに簡単に倒しちゃうなんて。集?」
「アアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「集!大丈夫!?」
「頭が!割れる!!!イタイ・・・・イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!」
頭にたくさんの情報が流れ込んでくる。脳の許容量を超えてもまだ流れ込んでくる。
「集!しっかりして!集!」
あまりの痛みに我慢できずにうずくまってしまう。ダメだ。まだ気を失うわけにはいかない。澪を。澪を安全な場所に送り届けないと。さっきの戦闘音で魔物が集まってくる。ここで気を失うのは危険だ。
遠くから馬の足音が聞こえる。明かりが近づいてくる。誰かがいる。安心した瞬間に自我を持って行かれた。
その記憶を最後に俺は意識を手放した。
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神様
デ「お兄ちゃんズルい!もう一回!」
ヒ「仕方ないな。もう一回だけだぞ?」
デ「わーい!」