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P.S.I.  作者: ぷにゃり
3/6

少女

「ここだよ」

黒猫は赤い屋根の民家の前で立ち止まった。表札には「ニック」と書かれている。

「飼い主と話をつけてくるから、ちょっと待ってて」

そう言って猫は玄関に付いている猫扉を鼻で押し上げ、家の中へと入っていった。

話をつけると言っても、一体どうするつもりなのだろう。もしかして、飼い主もテレパシーが使える人なのだろうか。ほのかに期待を寄せていると、猫が猫扉から帰ってきた。その瞬間、玄関の扉も開いて、中から黒髪の女の子が、半分だけ顔を出した。

「どちら様?」

女の子は僕を少し不安げに見つめる。黒猫が話をつけた様には全く見えない。

「ごめん。君がボクの言葉を理解してくれるから、ご主人にも分かってもらえるかと思って」

いたずらっ子のように舌をちらりと出す猫を下目に睨みながら、僕は女の子に、出来るだけ丁寧に挨拶をした。

「こんばんは、僕は遠い所から来たんだけど、ここが何処か分からなくて。独りで困っている時にそこの黒猫に会ったんだ」

女の子は顔を半分出したままの状態で、じっと僕の話を聞いていたが、突然思い出したかのように扉を勢いよく開け、手と手を胸の前で合わせた。

「じゃあ、あなたが救世主さん?」

「え?」

突然のことで話が呑み込めない。何だって、僕が救世主だって?何のことだろう。彼女は一体僕を何と間違えているのだろう。

「私、信じてたの。アロマが私の救世主を連れてきてくれるって」

アロマ。あの黒猫のことだろうか。黒猫が救世主を連れてくる?果たしてそんな物語があっただろうか。いや、それ以前に僕はあまり本は読まない口だった。

目の前の少女は嬉々として僕を見つめている。期待に満ちた眼差しを向けられ、僕は思わず目を逸らした。そんな僕の態度を見て我に返ったのか、女の子は恥ずかしそうに俯き始めた。何とも忙しい子だ。

「ごめんなさい、私、つい。だってあまりにも嬉しかったものだから」

咳払いを一つして、彼女は足並みを揃えて胸に手を当てた。

「私はネム。ニック・ネムよ。よろしくね」

「ああ、よろしく」

差し伸べられた小さな手を反射的に握る。その手は、随分と冷たかった。

「自己紹介が済んだなら早く中へ入れてくれよ。寒くて仕方ないんだ」

黒猫が握られた手と手を遮りながら不機嫌そうに尻尾を揺らした。ネムも言葉さえ分からないものの、黒猫の思いを察したのか、慌てて黒猫と僕を家に招き入れた。

ネムは僕を小さなソファに座らせ、そそくさとキッチンに姿を消した。黒猫も僕の隣で身震いを一つして体を丸めはじめる。

「今温かい紅茶を入れるわね」

キッチンからネムの焦り声が聞こえた。おかいまなくと返事をして、家の中を見渡す。

広い家の割には、やけに静かだ。普通の一軒家に、僕と同い年位であろう少女が一人暮らしと言うわけでも無いだろう。しかし夜中であるにも関わらず、彼女以外の人影は見つからない。寝ているのだろうか。

ネムが湯気の立つカップを二つ持って戻ってきた。

「あの、親は大丈夫なの」

僕は恐る恐る聞いた。こんな夜中に知らない男を家に連れてくるなんて、ネムの親に知れたら大問題になるのは間違いないだろう。それこそ僕はこの寒空の中放り出されるか、警察でも呼ばれるだろう。

ふと、ネムの表情が曇り始めた。僕から目を逸らしつつ隣に座る。

「いない」

ぽつりと呟いたネムの声は、酷く寂しげだった。

「ママは私が小さい頃に死んじゃったの。パパは綺麗な女の人と出掛けたきり戻ってこないの」

途切れ途切れに囁くような声で、ネムは語った。

「学校の先生に言われたわ。超能力の使えない生徒はいらないって。だから、パパも私を捨てたんだって」

ネムの口が閉じると同時に、その目に溜まった涙が溢れた。

何となく、僕に似ていると思った。ネムほど最悪の事態にはなっていないものの、僕の現状もそれ寸前といったところだ。しかし、一つネムの言葉に引っかかるものがある。

ー超能力が使えないー

僕は悟った。ここは僕の生きている世界とはあべこべの世界なのだと。

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