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P.S.I.  作者: ぷにゃり
2/6

黒猫

やがて光は完全に消え、僕は薄らと目を開いた。

先程まで僕を取り囲んでいた木々は忽然と姿を消し、月明かりは空間ではなく、僕の足元からまっすぐ伸びる道を照らしている。後ろから闇が追いかけてくるような気がして、慌てて僕は月明かりが照らす道を歩き始めた。

先程とは全く違う場所だった。

道は地平線の彼方まで伸び、周りには草花しか無かった。民家の一つも見当たらない。空を見上げると、蝙蝠とカラスが喧嘩しているのが見える。何だか心細くなり、僕の足取りは自然と速くなっていた。

一刻も早く誰かに会わなければ。

そそくさと歩く僕の足を、1匹の黒猫が遮った。蒼く光る猫の目は、月の光で一層輝いて見えた。

「やあ」

黒猫は欠伸混じりに挨拶をした。

鍵尻尾を高々と上げ、ゆらゆらと揺らしている。

「君はどこから来たの?」

猫は続けた。

「さあ。僕にも分からないんだ。森の中で光に呑まれて、気が付いたらここさ」

僕が肩を竦めると、猫は目を丸くして毛をピンと逆立てた。

「驚いた、君はボクの言葉が分かるんだね」

猫は興味深そうな、心底疑わしそうな目付きで、僕の周りをうろうろとし始めた。

猫の言葉は直接脳に響いてきた。所謂テレパシーってやつだ。

「まあね」

「面白いやつだな君は」

ピンクの鼻をひくひくさせながら猫は笑った。そして思いついたように歩み寄り、僕の膝に前足を添えた。

「そうだ君、今夜泊まるところはあるのかい?」

猫の問いかけに、僕ははっと息を飲んだ。

ここへ来てばかりだというのに、寝るところなどあるはずもない。野宿をするとしても、ここは寒すぎる。

上着を1枚持ってくるべきだったと悔やみつつ、僕は猫に向かって首を横に振った。

「ならボクの家に泊まるといいさ」

「猫の家に?」

僕は驚いてつい呟いてしまった。

「猫にだって住む家はあるさ。僕の首輪が見えないのかい?」

よく見ると猫の首には鈴の付いた青色の首輪が付いていた。飼い猫だったのか。確かに野良猫にしては随分と綺麗な毛並みだ。しかし飼い猫が家に泊まることを承諾しても、飼い主がそうとは限らない。普通に考えれば、どこの誰だか知らない人間を、そう易々と泊めてくれるような善者はいないだろう。

いつの間にか歩みを止めていた僕に、猫は振り返って叫んだ。

「だーいじょうぶだって。付いてくれば分かるさ」

猫は再び歩き始めた。どっちにしろ、今の僕には行く宛が無いのだ。孤独に歩き回って野宿をして凍えるよりも、多少の可能性に賭けた方がよっぽど有意義では無いだろうか。そんなことを考えている間に、猫の背中がどんどん遠くなっていくのを見て、僕は小走りにその背中に付いていった。

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