プロローグ
「だって貴方は本当に汚らわしいんだもの。」
そう言い退けられて僕は家を追い出された。今日はもう夜明けまで家には入れないだろう。慣れっこだ。投げ出されて地面に倒れ込んだ時にできた膝の擦り傷が痛む。これは必然的に起きる兄弟差別。だから僕はちっとも寂しくなんか無かった。勉強も運動もできる兄の方が僕なんかよりずっと優れているのだ。だから僕はいらない子だ。僕は何故生まれてきたのか。神のみぞ知るとは当然分かっているものの、この疑問を隠せないでいた。
空には高々と月が昇り、まるで僕を嘲笑ってでもいるかの様だった。ふらふらと立ち上がり、僕はその月を追いかけるように小走りになった。蒼く輝く満月は、僕の顔を奇怪的に照らしながら浮かぶ。幾度幾度歩いても月には届かない。諦めて立ち止まり、前方を見つめる。
不思議なことに、そこは見たこともない場所だった。
そんなに長いこと歩いただろうか。僕の体内時計では、恐らくまだ10分も経っていない筈なのに。
僕の周りは高くそびえ立つ木々に囲まれていた。木々の隙間にはカラスが金色の瞳を揺らしながら僕を怪しげに凝視している。
目の前には人一人分の空間があり、月はその場所を集中的に照らしている。それがあまりにも明るかったので、僕はついスポットライトを浴びたくなり、月光の中心に立った。眩しい。それは酷く眩しかった。眩しすぎた。光は上気し、僕の周りを急速に回り始めた。回る度に光はどんどん強くなり、僕はどんどん視界がぼやけていった。
たまらなくなり、僕はいよいよ目を閉じた。