第32話 聖女のお願い②
遅くなりました。
「護衛?さっきの騎士達じゃ駄目なの?」
さっきの人達もそれなりに強そうだったし護衛としては十分だと思うけど何か事情でもあるのかな?
「確かに騎士達も強いんやけど騎士は基本、対人でその強さを発揮するねん。あ、別に魔物と戦えないわけではないで?教会の騎士達はBランクの魔物と戦ってもまず負けへん。けどな、今回は騎士達の手には負えない相手なんや…」
Bランクの魔物と戦っても負けない騎士達が手に負えない相手?
こっちに来る時はそんなに強そうな魔物いなかった気がする…
「それで、その相手は何?」
エリスが少し溜めてから相手の名前を言う
「……悪魔教や」
「悪魔…教…?」
なんだそれ?全く聞いたことないんだけど…
「まぁ、驚くのも無理は無いよ?せやけどな…」
「ちょっと待って、悪魔教って何?」
「…は?ちょいまち。シルヴァっち、悪魔教知らへんの?」
「え、なに?知ってて当たり前な感じなの?シズノ、知ってた?」
「いえ、私も初めて聞きましたね。」
やっぱりシズノも知らないみたいだ、チラリとラセツの方も見てみたけど予想どおり首を傾げていた。
でも悪魔教って言うくらいなんだから多分、宗教か何かなんだろう。
「はぁ…こんなん子供らでも知っとるで?」
なんかやれやれって感じに肩をすくめられた。
こっちに来てから日が浅いし調べる時間も無かったから知識が少ないのは認めるけど、エリスに言われるのはなんか癪だな。一応、常識とか(時間の単位や1年は何日か等、ちなみにほぼ地球と同じだった。)はミルに教わったんだけどな、今度色々と調べるか…
「知らないのはしょうがあらへん。ウチが教えたる!」
エリスの話によると悪魔教とはその名の通り悪魔を信仰の対象にしている宗教でありゼネル教と対立をしているらしい。
ゼネル教は創造神ゼネルとゼネルが生み出した7柱の計8柱の神を信仰しているが、悪魔教はどんなに祈っても叶えてくれない神よりも、代償はいるが何でも叶えてくれる悪魔を信仰し始めたらしい。
「創造神ゼネル様を初めとするその他の神々の力は強大や。余り力を使うとこの地が滅茶苦茶になるからそうそう願いを叶えられない、せやからその代わりとしてスキルや加護があるっちゅーのにあの悪魔教共は…」
悪魔教か、魔王の1人にも悪魔がいるらしいけど何か関係があるのかな?
未だに悪魔教に文句を言っているエリスに問いかける。
「え?魔王の悪魔?うーん、それが分からないんよ。前に言った通りあんまり情報を持ってなくてな、あの魔王自身はあんまり表に出て来なくて部下の奴らが暴れ回っとるからな…」
悪魔の魔王は表に出てきてないのか、それなら情報が無くても仕方ないな…
「ところで、その悪魔教がどうかしたの?」
「あのな、あいつらが最近暴れ始めたんや。今までは街でゼネル様達の事を悪く言う演説をしたりゼネル教の活動を邪魔したりしていて武力を使ったりはしてなかったんやけどな。」
「いや、信仰してる神を悪く言われたりしてて今まで特に対策とかしなかったの?」
エリスにそう言うと苦虫を噛み潰した様な表情で答えた。
「あいつら無茶苦茶逃げ足速いねん。何度、騎士達が捕まえようとしてもチョロチョロ動き回っていつの間にか逃げられてしもうて…」
「そうだったんだ…それでどう暴れ回ってるの?」
「それが、3日前に豊穣の聖女が襲われたらしくてな、幸いにも何とか護衛達のお掛けで撃退は出来たんやけど2人の騎士が死んでしもうたんや…」
もう2人被害が出てるのか…
ちょっと待て、今豊穣の聖女って言わなかった?
聞き間違いかな?
「エリス?今、豊穣の聖女って言わなかった?」
「言ったで。」
「ふ、普通、聖女って1人だけなんじゃないの?」
「はぁ?聖女は8人いるに決まってるやろ、何言うとんねん。」
えぇー、8人も居るのか…
なんか聖女って1人しか居ないイメージがあるから少し違和感を感じる。しかも初めて見た聖女がこれだし他の7人もこんな感じだったら嫌だなぁ…
「どないしたん?なんか微妙な表情しとるで?」
「いや、何でもないよ。ただ少し思い描いていたのとは違うなぁって思っただけだから。」
「?ならええけど。他に何か質問とかある?」
「質問いいですか?」
シズノが問いかけるとエリスはコクリと頷いた。
黙ってたら可愛いし聖女って言われても納得出来る雰囲気はあるのに喋るとあれだもんなぁ。
「先程、豊穣の聖女が言っていましたが他にはどの様な聖女がいるのでしょうか?」
あ、それは私も気になる。
エリスは指を折りながら数え始めた。
「えっと、創造の聖女、光の聖女、闇の聖女、戦の聖女、魔の聖女、運命の聖女、時の聖、やで。ちなみにウチは光の聖女や!」
そして最後にドヤ顔でそう言い放った。
あー、確かに髪の毛金色だし光の聖女っぽいね。
適当に拍手をしてあげると満足気に頷いた。
それにしても闇の聖女とか魔の聖女ってなんか聖女らしくない名前だな、それぞれの神様が司ってるものから取ったんだろうけど…
「あのそれぞれの聖女達は出来る事とかは同じなのでしょうか?」
「いや、それぞれ違う神から加護を受けてるから出来る事も違うんや。」
なるほど、それで聖女が8人もいるのか、納得。
「エリスは何が出来るの?」
「ウチは治癒と浄化やな。怪我を治したり、不死者を消し去ったり出来るんよ。」
うーん、断ってエリスが襲われたら夢見が悪いしこの話受けようかな。
「分かった、王都までなら私達で護衛するよ。いいよね、シズノ?」
「はい。エリスさんが襲われてしまうと私達も悲しいですし、こっちにはシルとラセツさんがいます。仮に襲われても何とかなるでしょう。」
私とシズノがそう言うと少し涙目になりながらもエリスがお礼を言った。
「ほ、ほんまに!?ありがとうなぁ!」
聖女と言ってもまだ子供だ、自分が襲われるかもしれないという状況で怖かったのだろう、席を立ち私達に抱きついてきた。
そんなエリスが宥めながらふと疑問に思った事を聞く。
「ねぇ、エリス。悪魔教の奴らは人間何だよね?それなのに対人戦闘が得意な騎士達がそんなに苦戦したって事は相手は相当強かったの?」
すると完全に溢れてしまっている涙を拭いつつエリスが答えた。
「…グスッ、ちゃうねん、確かに人型だったらしいけど羽があったり、皮膚が紫だったり魔物っぽい特徴があったんやって。」
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エリスはあの後、明日までにギルドに依頼をしておくからよろしくと言って去っていった。
「しかし、皮膚が紫色で羽が生えてるとか完全に人間辞めてるじゃん。」
「そうですね、皮膚が紫色というのはちょっと見た事無いですね。それに羽まであるとは、まるで悪魔みたいですね。」
「確かに、悪魔教の奴らが悪魔を取り込んでたりしてね。」
「そんな、まさか。」
少し冗談を言ってみたがシズノには相手にされなかった。
少しショック…
「あのさ、エリスがラセツと初めて会ったって言ってたけど、シズノがエリスを呼んだ時に私の近くにラセツもいたはずだよね?」
「ああ、ラセツさんは多分、魔王何だろうと思って押入れにしまっといたんです。エリスさんに魔王を見せる訳にはいきませんから。」
…ラセツ、押入れに入れられてたのか。
本当に可哀想だな…
そんな事を話しつつ、ミルといつの間にか寝ていたラセツを起こして温泉に行った。
まだ1人で入れるか分からないラセツは男湯に行かせるのは心配だったから、部屋に付いている露天風呂で我慢してもらった。
温泉から出た後はご飯を食べて明日の準備をして眠った。
PV40000、ユニーク8000を超えました。
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