第26話 朝風呂からの…
後半は別人の視点があります。
「あ゛ぁぁぁー!」
「あぁぁー!」
「シル、おじさんくさいですよ。ミルも真似しなくていいです。」
しょうがないじゃん、気持ちいいと声がけ出ちゃうんだから。
現在は朝の6時、まだ早い為私たち以外には客はおらず温泉は貸切り状態だ。
「いやー!それにしても温泉は最高だね!」
ゴブリンの群れを倒したり、王都の武闘大会に出たり、聖女の護衛をしたりと最近は忙しかったからね。
たまにはゆっくりするのもいいものだ。
「シル、それは何ですか?」
「これ?日本酒だよ!」
なんとこの街には日本酒があったのだ、昨日の夕食にお米が出てきてたからもしかして、と思って女将さんに聞いたら売ってくれたのだ。
しかも温泉内で飲んでも大丈夫だと言う、これは飲まなければ!
一応この国では15歳からお酒は飲めるらしいがシズノは抵抗があるのか夕食の時の食前酒も飲まなかった。
「あの朝からお酒は止めといた方がいいのでは?それに温泉に浸かりながらお酒を飲むのは体に悪いと聞きますし…」
シズノは堅いなぁ、川の流れる音を聞きながら日本酒をクイッと飲む、これがいいんじゃないか。
「大丈夫だよ。いざとなったら解毒すればいいし。」
「ニホンシュっておいしいんですか?ミルも飲んでみたいです!」
「美味しいけど駄目、小さいうちからお酒を飲むと頭がパァになっちゃうからね。」
「ぶぅー、シルねぇずるいです。」
「ふふふ、そう言うと思って女将さんにジュースを飲む許可をとっといたよ。」
アープ?のジュースをミルに渡す。
「わーい!…いつもより美味しいです!」
「わ、私もいいでしょうか?」
「いいよ、はい。」
「…確かに美味しいですね。」
「今日は甘味屋さんに行くんですよね!」
「うん、餡蜜が美味しくて人気らしいよ。」
「楽しみです!」
私も餡蜜は楽しみだ。それにしても日本酒とか餡蜜とか勇者はやり過ぎだと思う。ほとんど日本にいるみたいだ、まぁありがたいんだけどね。
「それにしても平和だなぁー」
「まるで何かが起こる前兆みたいですよね。」
「ははは、そんな訳ないじゃん。」
そんなに毎回何かに巻き込まれたりするわけないよ。
ウゥゥゥー!ウゥゥゥー!
「…」
「あー!あー!あー!私は何も聞こえないから!サイレンの音なんか聞こえない!!」
「しっかり聞こえてるじゃないですか。」
魔王が接近しています、住民の皆様は直ちに避難を開始して下さい。繰り返します。魔王が接近しています、住民の皆様は直ちに避難を開始して下さい。
「まって!避難って事は温泉にも入れないし餡蜜も食べられないの!?」
「そ、そうなのでは?」
ブチッ
「ちょっと行ってくる。」
服を着る時間が勿体ないから魔力を物質化させて纏い大きな魔力を感じる場所に転移する。
「え、ちょっとその服は…」
シズノが何かを言っていたが転移が始まり最後まで聞こえなかった。
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〜〜騎士団長side〜〜
まさかこんな事になるとは…
昨晩、街の近くの森で大きな魔力が検知され領主様の命令で森を捜査する事になった。森に異常は無く、朝方になり森から帰っている最中に魔王に会うとは思いもしなかった。
元々、森にどんな異変が起こっているか分からなかったので少なくとも冒険者のBランクにとどく精鋭部隊を率いて行っていたのだがまさか1振りで全滅とは…
幸い、まだ死人はいないようだが…
1人だけ街に魔王の接近を伝えに行かせたがもう住民の避難は終わっているだろうか…
「あ゛?ただの小手調べでこのザマかよ。つまらねぇ、大きな魔力を感じたから来てみればこの程度の奴らしか居ねぇのか。街でも壊して帰るか…」
そ、それは駄目だ!この街は先々代の勇者様が1から作られ、そして現領主様が統治されている街。例えこの命が尽きようと守らなければ!!
「うおぉぉ!!」
「あ?まだ立ち上がれる奴が居たか…それなら楽しませてくれよ?」
そう呟く魔王。すると、一瞬で視界から消えた。急いで探そうとするが後ろから衝撃が来て吹き飛ばされてしまう。
「ぐあぁ!」
「ちっ、この程度の速さも見切れないなんてな…」
だ、駄目だ、力の差が大きすぎる…
このままでは街が罪の無い住民達が滅ぼされてしまう!
そう思ったその時、
「貴様か」
1人の女性が戦場に降り立った。
彼女は黒のドレスを纏いその美しい銀髪を靡かせながら声を発していた。
私はこんな状況だというのに彼女に見惚れていた。
「貴様がこれをやったのか?」
「あ、ああ。そうだ、なんだ?次はてめぇが相手をしてくれるのか?」
「そうだな。」
いけない!早く逃げるんだ!そう叫びたかったが声が出なかった。
彼女が魔王の問に答えた瞬間に感じた威圧は魔王に匹敵する、あるいは超えているのではないかと思うほどのものだったからだ。
「て、撤退するぞ…」
なんとか立ち上がり始めた部下達にそう命令する。
「し、しかし…」
「いいから撤退だ!私達では彼女の邪魔にしかならない!!」
「っ!!…分かりました。」
私達の娘くらいの歳であろう彼女に任せてしまうのが悔しいのだろう、声を震わせながら返事をする部下達。しかし彼らにも分かっているはずだ、彼女から発している威圧に…
正直、私は怖かった。彼女が声を発した時にまだ1卒兵だった時、Aランクの魔物に殺されかけて感じた恐怖をも超える死のイメージが私の脳に浮かんだ。
何が騎士団長だ、情けない。自分の娘くらいの女性に恐怖を感じるどころか自分達が1振りで全滅した相手を任せるなんて…
しかし街を守るためにはこれが最善だ。
「頼む、街を救ってくれ!」
私はそう彼女に声をかけ撤退を開始した。
前回の投稿で初めて投稿してから1月が経っていました。
正直、連載当初はこんなにも多くの方が読んで下さるとは思ってもいませんでした。
今まで読んで下さった方、ありがとうございます。
そしてこれからも拙い文ではありますがよろしくお願いします。




