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犬と猫のとある一日

作者: 九童

飼っている犬や猫、どんな会話をしているのか気になりませんか?

 「じゃあね、マロン。留守番頼むわよ。」

 「任せてください!」

 僕は、散歩の途中によく出会うお巡りさんのように敬礼をビシッと決めた。ご主人が教えてくれた僕の特技だ。

 それを見たご主人はにっこり微笑み、僕の頭をやさしくなでて家を出た。毎朝欠かさず、ご主人と僕はこのやり取りをする。

 扉が完全に閉まるのを見届けてから、僕はご飯を食べるためにリビングへ向かった。朝食はご主人のお見送りをしてからと自分で決めているのだ。

 「アンタも飽きないねぇ、毎朝毎朝。」

 不意に上から声がした。僕より前からこの家にいる、スコティッシュホールドのタイガおばさんだ。性別は女性なのに、ご主人の旦那さんの勝手でこう名付けられたってぼやいてたっけなぁ。

 そのタイガおばさんは、僕が登れない棚の上で小さく丸まっていた。どうやら寝起きのようだった。

 「タイガおばさんはお見送りしないの?」

 「あたしゃ、朝は寝起きが悪いからねぇ。」

 「でも毎日やってると慣れてくるよ?」

 「アンタと違って、あたしみたいなご老体だと毎日続けるのも億劫になるもんさ。」

 「ふぅん、そっか。」

 ここで会話は途切れ、タイガおばさんは下に降りてきて毛づくろいを始めた.僕は残りのご飯をたいらげ,一息ついた。

 「タイガおばさん、ご飯は?」

 「今はいいよ。年を取るとどうも食欲がわかない。」

 タイガおばさんは背伸びをして答えた。僕も真似して伸びをする。

 「アンタ…猫じゃあるまいし。」

 「犬だって伸びするよ。」

 僕はミニチュアダックスフンドと言われる種族の出だ。手足が短いから、タイガおばさんと並んで歩くときはちょっと小走りになる。

 僕とタイガおばさんはベランダに出た。雲一つない青空で、太陽の光が気持ちいい。

 「さて、何をしようかねぇ。」

 「僕はボール遊びするよ。」

 「そうかい、じゃああたしゃその隣で日向ぼっこでもしようかねぇ。」

 「タイガおばさん寝てばっかりじゃない?たまには体動かそうよ。」

 「ご老体には厳しいものがあるよ。」

 そう言うとタイガおばさんはさっきと同じように小さく丸まった。僕は若干ふてくされたが、年のせいだというのであれば仕方ない。

 僕はボールを取りにおもちゃ箱に向かった。

 「えっと…ボールボール…あれ?」

 僕のお目当てのボールは黄色いキラキラしたボール。昨日も遊んだからすぐに見つかると思ったのに、なかなか見つけられない。

 「おっかしいな…どこだろう」

 「どうしたんだい?」

 「うわっ!!」

 いつの間にかタイガおばさんが後ろにいたのに気づかず、大きい声をあげてしまった。

 「びっくりした…」

 「そりゃこっちのセリフだよ!鼓膜が破れるかと思ったわよ!」

 タイガおばさんは毛を逆立てて言った。うわ、眉間にしわが寄ってすごい顔してる。

 「ご、ごめん。あ、あの、ボールが見当たらないんだよ。」

 僕がそう言うと、タイガおばさんはますますしかめ面になった。

 「アンタ、昨日も遊んでいたじゃないか。」

 「そうなんだよ、それでここにちゃんと入れておいたはずなのに…」

 タイガおばさんはそれを聞いて、ふむ、というような仕草をした。

 「…もしかして、カラスが持っていったんじゃなかろうね。」

 タイガおばさんがそう言った次の瞬間、バサバサと音を立てながら黒いものが僕らの前に現れた。

 「ご名答!勘がいいなぁ猫ババァ!」

 現れたのは、3羽のカラスだった。

 「アンタらは…ここらで噂になってる奴らだね。」

 そういえば、ご主人の持っていたチラシか何かにカラス被害のものがあった気がする。こいつらだったのか。

 「僕のボール返してよ!」

 「嫌だね、俺らカラスはこういったキラキラしたものに目がねぇんだ。」

 「お宝がこうやって外にほっぽり出されてるんじゃァな。」

 「いただくしかないだろう!」

 カラスたちは高々と笑いながらだんだん高く飛んでいく。僕のジャンプじゃもう届かない。

 ご主人からもらった大事なボール。僕の目には悔し涙が滲んでいた。

 「短足犬と老いぼれ猫じゃもう届かないだろ!アッハッハ!」

 「地を這うだけの生き物は愚かだなぁ!ハハハハハ!」

 「もらっていくぜ、ありがとよ!ヒャヒャヒャ!」

 不快な笑い声をあげながら、カラスたちは自分たちの巣へと帰ろうとした。

 「待ちな。」

 地の響くような低い声がした。タイガおばさんだった。

 「あぁ?」

 カラスたちはこちらを振り返る。僕もタイガおばさんを見る。

 が。

 「ぐあっ!?」

 そこにはタイガおばさんの姿はなく、かわりに1羽のカラスが悲鳴を上げて落ちてきた。

 「ぎっ!?」

 「あがぁ!?」

 続けて残りの2羽も同じく落ちてきた。見てみると羽がなくなってはげている。

 「フン、ざまぁないね。」

 声のする方を見ると、タイガおばさんが庭の高い木の上からこちらを見下ろしていた。その口には、カラスの羽が。

 「ババァだからってなめてかかると痛い目見るよ!」

 むしりとったであろう羽をペッと吐き出してタイガおばさんは言った。右足をグッと前に突き出している。あれはご主人の旦那さんが持っている漫画でみた、中指を立てているアレなんだろう。多分。

 「ほら、アンタもやっちゃいな。」

 タイガおばさんは僕に向かってあごをしゃくった。カラスたちは痛みに悶えている。取り返すなら今だ。

 僕はボールをカラスからとりかえした。そして。

 「この、たわけが!!」

 ご主人が見ていたドラマの真似をして叫んだ。

 カラスたちは恐れおののいてバタバタと去っていった。

 「アンタ、なんでそのセリフなのよ…。」

 タイガおばさんが呆れたように言った。

 「かっこよくないかなぁ、このセリフ。」

 「いや…まぁいいけどさ。」

 どっこいしょ、とタイガおばさんは腰を下ろした。

 「それにしても、タイガおばさんあんな素早い動きできたんだね。」

 「フン、ご老体でもやるときゃやるのよ。それに、そのボールはアンタの大事なものだもの。何としてでも取り返さなきゃってね。」

 タイガおばさんは当たり前のように言ってたけど、僕はなんだかとても嬉しかった。

 「タイガおばさん、僕と遊ぼうよ!」

 「嫌だね、あたしゃ疲れたから寝るよ。」

 そういうや否や、タイガおばさんはスースーと寝息を立ててしまった。

 僕は起こさない様にして、その隣に寝転んだ。

 いつも通りの返事だったけど、声色はちょっとだけ柔らかかった気がした。

 そんなことを考えながら、僕も一緒に眠りについた。

私たちの知らないところでとんでもないサバイバルを繰り広げているのかもしれません。

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