第8話:様式美
ちょっとテンプります。
宿屋を出てギルドへと向かう将也とリヴェータ。
時刻は朝9時程度ということもあり、昨日よりも街にはかなり活気がある。
市場のようなところでは、店員の大きな呼び込みがたくさん聞こえてくる。
道行く人々に声をかける露店商のなかには、何に使うかよくわからないような道具を売っている者もいる。
剣と魔法の世界というだけあり、武具屋や魔法具屋なども少なからずあった。
中でも将也の目を引いたのは、奴隷商と金貸しの店だった。
奴隷が存在することは、リヴェータから聞いていたし、昨日街に来たときにもそれっぽい者を見たりしていたので知っていたが、実際に見た奴隷商の店舗は思っていたよりも立派でちゃんとした1商業形態として成り立っているのだなと将也に思わせた。
奴隷は、犯罪奴隷や、戦争奴隷、借金奴隷など色々いるとのこと。
奴隷の管理などが大変なのではないかと思っていた将也であったが、奴隷契約に魔法を用いることで、奴隷の反逆などを防ぐことが出来たりと、かつての地球よりも奴隷を扱う形態は進んでいる様である。
奴隷に関しての将也の思うところはとくに何もなかった。
(やっぱあるんだ。)ぐらいの感想。
昨日の拷問・殺人と同じように単純にやったことないから奴隷所有はしてみたいなとは思うかな程度であった。
金貸しについても、この文明レベルでは色々難しいのではないかと思っていたが、これもやはり魔法が活躍しているようである。
担保を用いるだけでなく、追跡や、条件付き契約の魔法などの恩恵で成り立っているようである。
金貸しの店の前を通った時に将也が少し関心顔で見ていると、
「ああ、ここの金貸しね。かなり評判悪いわよ。領主に賄賂流しているとかで取り立ても酷い取り立てしたり、かなり悪どい商売してるって噂ね。ま、私には関係ないけど」
とリヴェータが教えてくれた。
そんなこんなで宿屋を出てから10分少々で街の中央付近にある冒険者ギルドについた。
ギルドは石造りで三階建てのかなり大きく立派な建物だ。やはり魔物などのいる世界で冒険者というのはそれなりに重要な存在なのだろう。
扉を開け中に入ると、朝の程よい時間のためか、冒険者らしき者たちでけっこう混雑していた。
受付のところには、2つの冒険の列ができており、二人の受付嬢がそれぞれ対応している。二人ともなかなか美人だ。
受付の横には、依頼書などを貼り出している案内板があり、その周辺にはテーブルがいくつか置いてあり、仲間と相談したりできるちょっとしたスペースになっているようだ。
将也たちも受付に並ぶ。将也たちの前には5組ほどの冒険者がならんでいた。
待っている間にリヴェータから簡単なギルドの説明を聞いておく。
ギルドに所属している冒険者にはそれぞれランクがG,F,E,D,C,B,A,Sなっており、一番下がGで一番上がSとのこと。
ランクによって受けられる依頼やギルドからの支援にある程度の制限があるらしい。
登録当初はGランクから始まり、依頼や納品の功績などからギルドが判断することでランクが上がっていくとのこと。
ちなみにリヴェータは3日前にEランクになったばかりだそうだ。
その他にも素材の買い取りや、使用頻度の高い補助品などの販売も冒険者ギルドでは行っているとのこと。
冒険者ギルドの他にも商人ギルドや職人ギルドなどのいくつかのギルドという組織があるらしいのだが、
ギルドは基本的にはどこかの国に所属することなどはなく、中立の組織となっているようだ。
リヴェータから説明を聞きながら、あと二人で将也たちの番というところで、横から声をかけられる。リヴェータが。
「おぅー。リヴェータぢゃねーか。おめぇも依頼受けに来たのかぁ?」
どうやら、先ほどまでテーブルで話していた男たちがリヴェータに気づき横から声をかけてきたようである。
声をかけてきた男は小汚ない格好をした禿で少し体格の良い30年歳ぐらいの男で、臭いし大検を腰に帯びている。
その後ろには小汚ない少し小柄の細い男と小汚ない眼鏡をかけた小汚ない男がいる。
さながら、小汚ないジャ○アンと小汚ないス○夫と小汚ないの○太のトリオだ。
「ええそうよ。あなたたちは相変わらず暇そうね」
明らかに嫌そうな顔をしたリヴェータが答える。
「はは、おれたちは暇ぢゃねーよ。今次の依頼の打ち合わせをしてたところだぜ。なんだ、お前また男変えたのか。そんな見るからに弱そうなやつよりおれたちが依頼連れてってやろうか?へっへ」
見るからに弱そうと言われた将也であったが、将也の体格は、身長172㎝の体重57キロで特に筋肉質でもないという日本では中肉中背ど真ん中なのだろうがこの世界では少し物足りないようである。顔もすごくイケメンということもなく、どちらかというと優しそうな顔立ちであるため弱そうに見えたのかもしれない。
「けっこうよ。あなたたちなんかと依頼をこなす気はないわ」
リヴェータが嫌そうな顔にさらに拍車をかけながら返答する。
「はっは。そうかよ。よう、兄ちゃん。そこのリヴェータって女は、男に色々期待させて、依頼手伝わせるだけ手伝わせといて、見返りになーんもしてくれねーけち女だから気をつけた方がいいぜ」
今度はニヤニヤしながら将也に話をふってくる。
「黙れ。くさいから消えろ。動くゴミめ。さっさと死にさらせ」
将也はその素直さ故に率直な気持ちを述べてしまう。
「て、てめぇ~、今なんて言いやがった?あぁ?」
みるみるうちに顔を紅潮させた男が喚いてくるが、将也は自分の鼻をつまむのみで無視する。
「くっそが!ぶっ殺してやる!」と怒鳴りながら将也に殴りかかろうとする男の前に、手をだし制止する。
「落ち着けゴミ虫。受付俺の番だ。状況を見ろ。ギルド職員の前で堂々と暴行してもいいのか?」
完全に舐められた様子ではあったが、ギルド職員や周りの他の冒険者の注目を集めていることを察して拳を納める。
「てめぇー後で覚えてろよ」
捨て台詞を残してテーブルへと戻り、こちらを睨み付けてくる男たちであったが、完全に将也たちの視界にも入れられていない。
リヴェータは終始我関せずというか興味すらない様子であった。
「ようこそ冒険者ギルドへ。私は案内のセシリーと申します。本日はどのような御用件でしょうか?」
金髪で美人の上におっぱいの大きな受付嬢のお姉さんが対応してくれる。胸元が開いた服を着ており眼福なこと山のこどしである。
「僕の冒険者登録をお願いします」
「かしこまりました。では、こちらに用紙に記入をお願いします。全ての項目を記入していただく必要はございませんが、書いて頂いた項目によって、指名依頼やパーティの紹介などのサービスを受けていただくことも可能ですので出来る限りは書いて頂くことをオススメしております」
「わかりました」と了承してから用紙に記入していく。名前から始まり、使用武器や魔法、出身地、使用言語、はては親族の有無など色々な項目があったが、名前と使用武器と使用魔法のみを目立たない範囲でてきとーに埋めておく。
名前は普通に本名で、武器は剣、魔法は火と雷と書いておいた。
「イワシロ・マサヤさんですね。ありがとうございます。では、こちらがギルドの規約や設備、機能、サービスなどの説明でございます。こちらを読んでいただいて問題なければこのカードに血を1滴垂らしてください」
数枚組の冊子の説明書を読んでいく。使い回されているのか中々に年季が入っている。
全ての項目を読んでいることが珍しいのか、説明書を読み耽る将也をセシリーとリヴェータが少し不思議そうな顔をして見ている。
読んでいるうちに面白そうな項目を見つけた将也は、読み終わると満足気に顔を上げ、
「問題ないです」と言ってからカードに血を1滴垂らした。
カードは金属製の小さなただの板というかんじであったが、将也が血を垂らすと、その血を吸い込み軽く光だしたのちには、将也の名前とランクと依頼状況や討伐状況などの情報項目の書かれたカードとなった。
もちろん、今は名前とランク以外はほとんどの項目が0と書かれている。
「では、登録はこれで完了となります。このあとはなにか依頼などをお請けに「待ちな、セシリーちゃん。そいつには用があんだ」
セシリーさんの言葉を遮りながら先ほどの3バカが近づいてくる。
「おうお前、さっきはよくも生意気言ってくれたな。ちょっとツラ貸せや」
「お前たちにツラ貸して俺に何の得が「めんどくさそだから、私宿屋に戻ってるわね。じゃあまた後でね」
予想通りつっかかってきたバカどもに最大限の挑発をかましてやろうと言葉を並べ出す将也であったが、無情にもリヴェータさんに遮られる。リヴェータさんはじゃあねと手をヒラヒラとふるとギルドを出て行ってしまった。
ポカンとする将也たちであったが、この状況も悪くはないと思ったので気を取り直して続ける。
「お前たちにツラ貸して俺に何の得があるんだ?面白い芸でも見せてくれるのか?お前たちの顔より面白い芸なんか想像もつかねーぞ?てか臭いよお前らドブ川で身体中洗ってきた方がもう少しましになるぞ」
「てめーに得なんかあるわけねーだろ!てめーは俺らにぶっ殺されるんだよ!」
「おやおや、白昼堂々と殺害予告ですか?頭の悪いヤツは大変でちゅねー」
「も、もうだめだ。今すぐぶっ殺してやる!」
と言いながら腰の剣に手をかける男であったが、またもや将也の手に制止される。
「まあ、待てよゴミ虫。そんなにムカつくんなら決闘してやるよ1人金貨200枚かけてな。お前らもこんなとこでぶっ殺して捕まるより、堂々と殺せて金まで取れる方がいいだろ」
決闘とは、ギルドが立ち会いの元に行うことができるギルドのサービス機能の1つである。
単純に気にくわない者同士の争いであったり、何かを賭けて行われたりするようで、先ほど読んだ説明書の中で見つけた面白い項目とはこれであった。
「あ?そりゃ決闘の方がいいに決まってるけどよ、金貨200枚なんてねーし、てめーも持ってんのかよ。てきとーなこと言って煙に巻いて逃げるつもりじゃねーだろな」
「俺は持ってるよ。お前らも持ってないなら借りてくればいいだろ。お前ら如きに時間使うのに金貨600枚はないと嫌だからな。お前らが俺と違って金貨200枚ずつも用意できないような無能共、もしくは俺と決闘するのが怖い小心者のオカマちゃんの集まりって言うなら許してやるからさっさと肥溜めに帰れよ」
「は?なんで俺たちは600枚なんだよふざけんぢゃねーぞクソ野郎が!」
「お前ら一人頭200枚だ。3対1なんだから当たり前だろう。どうせ勝てば200枚手に入るんだから3対1で負けるつもりがないなら何の問題もないだろう。それともやっぱり負けるつもりのビビりオカマちゃん達なのかお前らは?」
「ふ、ふざけやがって!ぶっ殺してやるよ!3人でなぶり殺しにしてやるよてめー!」
最後のバカセリフは後ろにいた細いバカが怒鳴ってきた。将也の言葉を聞いていて我慢できなかったのであろう。
「じゃあ決まりだな。明日のこの時間にここに一人金貨200枚を持って来いよ。あ、ビビって逃げ出しちゃっても良いからね?逃げ出したらせいぜい新人の俺が怖くて決闘から逃げたオカマちゃん達の話を皆にしといてやるよ」
たっぷりと挑発したのち、バカにするように高笑いをかましながら将也はギルドを出ていく。