第4話:嘔吐&移動
途中から『完然神通力』=ZPと略表してます。
リヴェータは漂ってくる異様な臭いと、聞こえてくる悲痛な呻き声によってゆっくりと目を覚ます。
リヴェータの目の入ってきたのは、先ほど遭遇した男が先ほどまで自分と一緒にいた、今はなぜか木にくくりつけられたナンドユに何かしているという様子であった。
将也はナニを切り落とした後に方耳を切り落とし、ナイフではなく自分の手で直接いってみようという考えのもと素手でナンドユの片目をえぐり取ったところであった。ナンドユは縛られながらも激痛に悶えているようである。
リヴェータがその目の前で行われていることを理解すると同時に悲鳴を上げそうになるが、それよりもはやく、えぐりだした片目を持った将也が盛大に嘔吐する。リヴェータもそれにつられて、悲鳴をあげるよりも目の前の光景のグロさに盛大にもらいゲロを繰り出した。先ほど街を出る前に食べたパンやら何やらがぐっちゃ混ぜになったものが口の中から勢い良く飛び出したが、リヴェータにそんなこと気にしている余裕はなかった。
リヴェータにはこの状況の意味がわからない。
(な、なによこれ。なんでことになってるの。てゆうかなんでこの人が吐いてるの)
頭の中から異様な状況に関する疑問が次々に沸き上がってくると同時に、とりあえずヤバい状況だという警鐘が最大級に鳴り響くが縛られているためにどうすることもできない。
げろったことでリヴェータが目覚めたことに気づいた男が、ナンドユの右目を無造作に投げ捨て、口元を手で拭きながらゆっくりと近づいてくる。
「目覚めたか。とりあえず大声を出したりするなよ。じっとしてればお前には危害は加えない。当たり前だが、騒げば殺すからな。わかった?」
男の語りかけに沸き上がってくる疑問を色々ぶつけたいところではあるが、恐怖のためろくに声も発することができず、ひきつった表情でコクコクと頷くことしかできない。
「よし。ぐっろいしもういいからそろそろ終わらせるわ。後ちょっとそのまま待ってろ」
またしてもリヴェータはまるで出来の悪い人形のようにコクコクと頷くことしかできない。
将也は地面においてあったナンドユの剣を拾い上げると、鞘から抜き、感触を確かめるようにゆっくりと、ナンドユの左胸に突き刺した。
もがき苦しみまくっていたナンドユだったが、最後は静かに絶命した。
「ふぅー……。さて、今からお前の縄をほどくけど逃げようとしたりしたらこの男とおんなじ目に会うからな?わかった?」
リヴェータはまたまたしても同じようにコクコクと頷こうとするが、
「だめだ。ちゃんと口で返答しろ」と将也に言われ、
「は、はい。わかりました…」と愛らしいとも美麗とも妖艶とも表現できるような声で小さく返事をした。
「よし。」と言ってからリヴェータの縄をほどき、自由にしてやると、逃げ出すような素振りなどもせず大人しくその場に佇んで恐怖におどおどとしている。
将也はそれを横目に、『完然神通力』で棺程度の大きさの地面の土を持ち上げ、そこにナンドユの死体と飛び散った血液などを放り入れてから、火をつけて死体を燃やし、最後に土を上からかぶせ適当に地面をならしておく。
もちろん火をつけたのも『完然神通力』の力である。
この『完然神通力』、御大層な名前のついた神通力というだけあって、ものすごく万能な超能力のようなもので超便利である。
自分の仕事のできに少し満足気にしながら、リヴェータに問いかける。
「とりあえずこんなもんでいいだろ。なあ、俺のこの格好てこの世界では変かな?」
「あ、はい。えっと、変かどうかはわかりませんが、私は見たことはない服装です…」
リヴェータは怯えながらではあるが、会話としては成り立ってきている。
「そうか、じゃあそこの鎧とか着るから手伝ってくれ。」
将也は、血などが付かないように少し離れたところに置いていたナンドユから剥いだ装備一式を指差してから自分の着ている服を脱ぎだす。
もとから着ていたパンツと黒い肌着のシャツの上から、ナンドユの服や鎧(というよりは胸当てに近いかもしれないもの)を、着け方のわからないところなどはリヴェータに手伝わせながら着ていく。その最中に名前だけではあるが簡単な自己紹介をお互いに済ませておいた。
一通り着終えると、問題なく動けることを確認してからナンドユにとどめをさしたナンドユの剣を拾い、水を出してキレイにしてから鞘におさめ、腰に帯びる。
もうお分かりかと思うが、水も、もちろん、『完然神通力』である。マジ便利。
次に、ナンドユが持っていた道具袋(ナニを切ったナイフが入っていたもの)の中身を今一度確認すると、硬貨のようなものが数十枚程度と、瓶に入った薬品のようなものが2本入っていたがよくわからんので後回しにして、創りだした異空間に投げ入れて収納する。もちろんこの異空間というのも『完然神通力』で創りだした収納空間である。ZP万歳。
「さて、街に向かおうか。道中で色々教えてもらうから」
将也は何事もなかったかのような、愛想微笑いまでつけた表情で穏やかにリヴェータに言う。
全ての作業を終えたうえに、先ほど盛大に吐ききったことなどもおそらく相まって、将也の心内はそれなりに晴れやかだった。
少なくとも先ほどまでの行為中に感じていた気持ち悪さなどはほとんど残っていなかった。
「は、はい。わかりました。」
リヴェータとしては、将也の作業が終われば自分は解放してもらえるのでは、というささやかな希望を抱いていたが、もちろんとしてそんなことが叶うはずもなさそうだった。がしかし、元々自分なさそうだとは思っていたので、(やっぱりか…)程度でそれほど落胆することもなく、少しびくびくしながら将也と横並びであるきだす。
【街に向かいながら歩く二人の会話】
「とりあえず色々質問するから、わかる範囲でいいから答えてね。わからないことがあっても全然いいから。街まで少し歩くし気楽にいこう。あ、リヴェータだしリヴでいいよね。俺のことは将也でいいから」
「わ、わかりました。はい、リヴで大丈夫です」(なんでこの人さっき会ったばっかの上にあんなことまでしてていきなりこんなフレンドリーなのよ?ちょっと恐いんだけど…)
「さっき冒険者だって言ってたけど、冒険者っていう職業があるの?」
「あ、はい。冒険者っていうのは冒険者ギルドに登録して依頼などをこなす職業のことです。」(やだ、なんでそんなことも知らないのこの人?恐いんだけど…)
「なるほど。じゃあ君たちはそこでの依頼としてこの辺りの見回りに来てたってこと?」
「えっと、正確には依頼というほどではないです。この森にある素材を採集して帰ればギルドが買い取ってくれるんです。その際森での様子などをある程度詳しく報告もすれば少しですが礼金ももらえるんです。だから、さ、さっきの男と二人で森に来てたんです。」(なんでこの人自分が殺したのに何事もなかったかのように君`たち´とか言えるの?恐すぎるんだけど…)
「そういうことか。ならよかった」
(え、どこによかった点があるの?こわいこわいこわい…)
「あ、これってどのくらいの価値があんの?これで何日ぐらい暮らせる?」
故ナンドユから獲得した金銭の入った袋を異空間から取りだしてリヴェータに見せながら問う。
将也も中の硬貨を確認してみたが、金貨10枚、銀貨43枚、銅貨28枚が入っていた。
「えーと、このぐらいあれば普通に生活するだけなら数ヶ月は保つはずです。」(そうよね。もうここまできたらナンドユの持ってたお金程度自分のものよね。これは知ってたから恐れないわ)
「俺って問題なく街に入れる?金払えば大丈夫系?」
「街に入るための書類などかギルドカードのような身分のわかるものがあれば街にはすぐに入れます。それらがなくても、銀貨10枚を支払えば入ることができます。」
「なるほど、銀貨100枚で金貨1枚だよね?あと冒険者ギルドって俺でも入れるの?」
金貨と銀貨のレートはあてずっぽうてとりあえず聞いてみる。
「あ、はい銀貨100枚で金貨1枚です。冒険者ギルドも登録料の銀貨10枚さえ払えば基本的に誰でも登録できます。」
「よかった。じゃあギルドで依頼をこなせばお金はなんとか稼げそうだね。さすがに金を得るたびにあんなことしてられないもんね?吐いちゃうし」ははっと冗談っぽく言う将也である。
「そ、そうですね…」(ヤバいってこの人、全く笑えないわよ!しかも問題点は吐くところなの…)
「なんかテンション低いね?あ、もしかして、さっきの男、リヴの恋人とかだった?」
なんで気づかなかったんだあちゃーと書かれたような顔になる将也であるが、
「あ、えっと全然そんなことないですよ。ギルドで顔見知り程度の男で、欲しい剣があるけど高くて中々買えないって話をしてたら、「俺が採集手伝ってやるよ!」って感じで半ば強引に連れてこられたぐらいです。道中も自慢話ばっかでちょっとうざかったし…」
リヴェータの話を聞いて、ナンドユ氏を気の毒に思い心の中で合掌しながらも、彼の気持ちも理解できる将也であった。
隣を歩いているリヴェータであるが、一言で言うと超マブいのである。美人でスタイルも良い上に『天然魅了』のせいだろうがそれだけではない大いに魅力も感じさせられる。その上将也は健全な男子高校生であり、それと同時にショートカット大好きお化けでもあるため、今すぐにでも押し倒してチョメりたいぐらいであった。
しかし、将也は現代日本紳士であるため、そのような素振りは、時々鼻の下を伸ばす程度にとどめながら、移動することができていた。
「ならよかった。もう少し気楽に行こうよ。言葉遣いとかも全然気にしなくていいから。あ、逆に何か俺に聞きたいこととかある?気軽になんでも聞いていいよ」
少し俯いて躊躇していたリヴェータだったが、将也の気楽な雰囲気に叙々に自分の気も楽になってきていたので、意を決して質問をする。
「えっと、じゃあ…、ま、将也君は何者なの?ほんとに森の奥の研究者なの?」
将也と名前で呼ぶリヴェータの可愛さの軽く心打たれながら返答する。
「森の奥の研究者ではないよ。あれは真っ赤な嘘。俺は異世界から召喚されてきたんだけど、そういう人って他にもいる?」
「え、異世界から!?な、なるほど、だから色々知らなかったりしたのか。異世界から召喚される人は、珍しいし私も会ったことはなかったけど、今までにも何度かいたみたい。召喚の魔法陣のある隣のガレス王国にだいたいはいたみたいね。」将也が異世界から来たということで今までの将也の行動のいくつかに合点がいくリヴェータだった。
ちなみに、将也とリヴェータが今いる国はガレス王国の隣の人間の国のロマリー帝国である。クラスメイトたちが召喚されたガレス王国の首都からは400キロほどの距離がある。
「じゃあ俺が召喚されたってことはとりあえずは隠してた方が良さそうだな」
「そうね、言いふらす必要もないしね。あ、あと…」
何かを言おうとして口ごもるリヴェータ。
「ん、なに?遠慮しなくていいから言って?」
「えっと、あ、な、なんで私には何もしなかったの?」
「なんだそんなことか。なんでって言われても森の中で出会っただけの女の子に何もしないのは普通のことじゃない?少なくともおかしいことではないと思うんだけど。べつにおれは人のこと傷付けて楽しむ趣味もないしね。だからまあ普通に何もしなかっただけだよ。それとも、何かされたかった?」
将也が当然のことのように答えるのを聞き、とうとう色々わけがわからなくなってきたリヴェータだったが、気合いでさらに質問することができた。
「そ、そういうことじゃないわよ、、じゃ、じゃあ私に何かする気とかはないってこと?街に着いたらもう私には用はない?」
「何いってんの?もう今となっては俺とリヴは立派な知り合いじゃん。色んなことも全然分かんないし、この世界に知ってる人他に誰もいないんだよ?1人じゃ寂しいからとりあえずはリヴと一緒にいるよ?」
ニッコリとした表情でリヴに向きながら将也が言い終えると同時に将也の真横―リヴがいる方とは反対側―に轟音とともに雷が落ち、地面が焼け弾ける。
もちろんだが、これは将也のZPによるものだが将也は何事もなかったかのように落雷に反応もせず、リヴェータの顔を見ている。
「ヒイッ、……そっか、そうだよね。よ、よかったぁ…。私もそう思ってたところなのよ。街に着いても案内とかも色々必要だしね…」突然の落雷に小さく悲鳴をあげたのち、精一杯のひきつった笑顔を作り、心の中では号泣しながらリヴェータも同意する。
「ああよかった。リヴもやっぱりそう思ってくれてたんだね。嫌がられたらどうしようかと思ってたよ。ほんとにリヴが快く引き受けてくれてよかった。俺も女の子にあんなことするのはさすがに嫌だしね」
「ま、まさか私が将也のこと嫌がるわけないじゃん。将也って結構心配性なんだね。」
「そうなんだよ、俺って結構心配性なんだよな。あ、新しい剣欲しいって言ってたよね。お礼と言っちゃなんだけど街に着いたらそれ俺が買ってあげるよ。」と腰に下げた状態にしている硬貨の入った小袋をポンポンと叩く。
「う、うれしい!ありがと。あ、街が見えてきたね。あの列に並んでから入るのよ。」
心の中ですら文句を言う気力もなくなったリヴェータと将也の前方に街が見えてくる。
街は四方を防壁に囲まれており、地球でそんな街など見たことのなかった将也にとってはかなり大きく感じられた。
既に時間日暮れの少し前になっており、空には綺麗な赤みがかかっている。
二人は入門者たちの列に並び、自分たちの番を待つのであった。