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第35話:正装

ギルド会議3日目の朝、将也は単身冒険者ギルドへと足を運ぶ。

武芸大会の予選が終わったので、組み合わせやその他の諸説明をされるために呼ばれていた。


ギルドへと向かう道中で聞こえてくる街の喧騒の中から予選の様子の話が聞こえてくる。



「おい、昨日の武芸大会予選見たかよ?」


「昨日は書き入れ時だったから見てないんだ」


「予選なのにすげー奴等がいたぞ」


「どんな奴等だったんだ?」


「それがよ、予選の乱戦が一瞬で片付いちまったのよ。それもそんなブロックが2回もあったんだ」


「本当か?、一瞬てどんなふうにだ?」


「最初の方はよく分からねーんだ。女の戦士が構えたと思ったら他の参加者全員ぶっ飛んじまった。2回目の方は魔術師風の男から雷が出たと思ったらこれまた他の参加者が全員気絶したんだ」


「信じられねーような話だな」


「ああ俺もだぜ。長年武芸大会は生で見てきたが今回ほど我が目を疑ったのは初めてだ」



(よくわからんが凄そうな奴もいるんだな。ま、無問題)


まぁ負けないだろうと高を括っている上に予選のシステムなどをあまり知らないので気にも留めず歩いていく。


他には、亜人の子供連れで米を買い漁る奇妙な男の話などが耳に入ってきた。



冒険者ギルドに到着し、本選出場者ということを説明して2階に案内される。

大きな円卓を置いた広い会議室のような部屋に案内された。


入り口真正面最奥の席には老人が腰かけており、その後ろには数人の者が控えていて、その中にモーガンがいた。

王都のギルド支部長とその他のギルド支部長であろうかと思う将也。


指定された時間の数分前に着いた将也であったが他の者は全員揃っていたようだ。

促された将也が着席すると老人が話始める。



「さて、全員揃ったようじゃし始めようかの。初めましての者もそうでない者もおるかと思うがわしはテクシフォンのギルド支部長のサルコジじゃ。今日は武芸大会本選について説明をさせてもらうからの。では、」


老人の後ろに控えていた中から女性が前に出てくる。

眼鏡をかけていて目付きが少しきつく、冷たい感じの印象を受ける美人さんだ。


「私の方から説明をさせていただきます。本選はここにいる16人の皆さんでのトーナメント方式となります。組み合わせは予めこちらの方で決定させていただいておりますので後程手元に配布している紙をご覧になっておいてください。1回戦2回戦で1日、準決勝決勝で1日という風に2日に分けて行います。また、1回戦の前日、つまりは明後日に開会式と選手紹介などを兼ねた技を披露する演目がありますので各自何か準備をお願いします。演目には出たくないという方は辞退が可能ですので個別にお申し付けください。説明は以上になりますが何かご質問などはございますでしょうか?」


「演目ってのは具体的にどんなことをすれば良いいんだ?」


質問が上がる。姫川からだ。

予選スタートのようだったがどうやら無事に予選は突破できたらしい。


「そう難しく考えていただく必要はありません。要は各自が自由に観客にアピールできるパフォーマンスの時間だと思っていただくのが良いです。観客の中にはどこかの有力者がいる、ということもあるでしょうから何の得もないというようなコトでは恐らくありません。もちろん、先程申しましたように辞退も可能です。内容も、観客席に被害出ないような範囲なら特に制限もありません」


「なるほど、わかった」と姫川。

他にも納得したように頷いている者が幾人かいた。

もちろん初参加の将也はその一人だ。



「では、他に質問がないようなのでこれで終了とさせて頂きますね。皆さんご足労ありがとうございました」


一斉に席を立ち上がって部屋を出ていく。

アヤトに絡まれるのが怖すぎて将也は一目散に冒険者ギルドから出ていった。

姫川が何が用がありそうな雰囲気を出していたような気がしないでもないが、アヤトが怖いので気づかないフリをして帰った。





武芸大会本選が開会する日の朝。


「おっす、オラ将也」


「なに、そのカッコ?」


「観客もいっぱいいるみたいだから一応正装しとくことにしたんだ」


「それが正装なの?」


「うん、俺の国では武芸大会の正装といえばこれだった」


「そうなの千尋?」


「道着っぽいから正装といえば正装なのかもしれないけど、私はこういうのは見たことない、かな」


「あんたそんなのに昨日1日かけてたの?」


「そんなのとは失敬な。由緒正しい正装なんだぜこれ」


着替えを終えた将也にリヴェータから不審がるような声があがる。

他の皆も一様に顔をひきつらせている。

ミオだけは「将也お兄ちゃんかっこいー!」と言ってくれた。


朱色の道着の上下に青いインナー。胸の所には漢字で「将」と書かれたワッペンが付けられている。

将也の言う武芸大会の由緒正しい正装スタイルである。

これを昨日丸一日かけて用意した。


道着に近いような厚手の服を買い、染料で色を染める。

本当はオレンジ色がよかったが、なかったので一番ちかい朱色に染めた。

胸のワッペンはお手製の自信作である。


「私会場で応援するのが恥ずかしくなってきた」


「さすがにこれは同感ですわ」


「私は宿から応援してようかな……ひ、姫川君もいるみたいだし…」


「私は頑張ってなんとか応援しますからね将也さん!」


「将也お兄ちゃんかっくいー!」


五人五様の反応を受け取りながらも皆で会場へと向かう。

街中でも将也は注目の的だった。


「今度そんなふざけたカッコしたら絶対に許さないから!」


途中で視線に耐えられなくなったリヴェータに怒られてしまってシュンとした将也。




到着した会場は、巨大な円形闘技場のような所だった。

形としてはコロッセオのようなもので、日本の有名なドームスタジアム等よりも少し広いぐらいの大きさだった。


入り口でリヴェータたちと別れて選手の待機場所に案内される。

それぞれ個室の待機室らしく、恐れていたアヤトとの接触もなかった。



待機室に歓声が聞こえてくる。

選手の入場が始まったようだ。

間もなくして呼ばれて舞台に出る。


舞台に出ていくと超満員の観客の歓声に出迎えられる。

将也が新参者だからか、将也の格好が余り見られないものだからか、少し歓声の中にザワザワした声が混じっている。

軽く手を振りながら、既に並んでいる選手の横に並ぶ。

8番目だったので、その後8人の選手が入場してきて開会式が始まった。


開会式は各ギルドのお偉いさんや、ロマリー国王のありがたいお言葉などがあったが、退屈なだけでそれほど特筆するようなこともなかった。

幸い、日本の運動会のようにお偉いさんの話が長すぎるということもなかった。


開会式が終わると、1番目にパフォーマンスする選手を除いて一旦待機室に戻された。

前の選手のうち二人が辞退したらしく将也の出番は六番目だ。


待機室にいると先ほどの入場のときよりも一際大きな歓声が何度か聞こえてくる。

思っていたよりも演目が盛り上がっているようだ。



小一時間経たないぐらいで出番を告げられた。


舞台に出ると先ほどよりも大きな歓声で迎え入れられる。

会場のボルテージは既にそこそこ高いようだ。


舞台の真ん中に一人たち、その場で軽く誰にともなく一礼する。

考えていたパフォーマンスを始める。



まずは帝挺如意棒ポケットから取り出して掌サイズから通常サイズに拡大する。


観客から見れば急に棒が出てきたように見えていて、出てきた如意棒に小さな歓声が起こった。


そして如意棒を体の回りでクルクルと回す。

これも昨日1日かけて練習したものだ。

テレビなどでよく見かけたものだが、自分もやってみたいとは思っていたので練習するにはちょうどよいといえばちょうどよい機会だった。


次第に腕を伸ばしながら回転範囲を体の外側へ広げていく。


「オオー!」


将也の手から如意棒が離れて、将也の回りをクルクルと飛び回り始める。

歓声が1段階大きくなった。


回っていた如意棒を自分の正面、地面と並行に空中で停止する。

そしてピョンと如意棒の上に飛び乗る。

と、同時に如意棒の上に立った状態で飛行を始める。


まずは舞台上を縦横無尽に飛び回る。

歓声がさらに大きくなり始める。


何度か舞台上でグルグルとアクロバットな飛行を披露した後は客席の内側の所を飛び回る。

飛び回りながら、客席にむかって銀貨をばらまく。

銀貨も昨日のうちに金貨から両替をしておいたのだ。


客席は先ほどまでよりも熱気を帯びてきている。

一通り、飛び回り、ばらまき終えたら舞台中央に飛んでいき、そのまま上空へと上がっていく。


15メートルほどの高さのところで、停止させた如意棒の上でアクロバットなポーズを披露する。

片足で立つところから始めて、ジャンプしたり、逆立ちしたりする。

会場からは歓声の他に、将也がポーズを取る旅にちらほらと悲鳴のような声が聞こえている。


最後に如意棒の上でフィギュアスケートよろしく回転して見せる。

回転している途中で足を絡ませて体勢を崩す。

如意棒の上でフラフラとする。

観客からは悲鳴の方が大きくなる。


フラフラとしてからそのまま足を踏み外して落下する。

もちろん、落ちる直前や落ちた瞬間は慌てるような動作をしている。

この日一番の悲鳴が沸き上がった。


落下しながら体を捻りまくる。

体操の経験などはないが、今の身体能力なら簡単に捻りまくれた。

クルクルと体を捻り回しながら、落下して、最後は見事に着地を決める。

着地は体操で見かけるそれと全く同じ形だ。

着地して上に上げた手の上に落ちてきた如意棒をしっかりとキャッチする。


その瞬間に間違いなくこの日一番の歓声が沸き上がった。

手を振って歓声に応えながら退場していく。


舞台袖で自分の手を見ると微かに湿っていた。

こういう発表会的なものとなるとどうしても緊張してしまうのは日本人の性なのだろうかと思った将也だった。





「どうだった?俺のパフォーマンス」


「私は落ちたのがわざとだって分かってるから悪趣味に思えちゃったわ」

リヴェータには不評。


「私は面白いと思いましたわ。将也さんのパフォーマンスが一番盛り上っていましたし」

エリザベスには好評。


「私はちょっとびっくりしちゃった。落ちるんじゃないかって。でもけっこう他のとこはカッコよかったと思うよ」

千尋にはけっこう好評。


「わざとあんなことするのはやめてください!ほんとに心配したんですから」

「将也お兄ちゃんが死んじゃうかと思ったよ~」

マオとミオは本気で心配してくれたようだ。

マオに、少し涙を滲ませながら叱られてしまった。

ミオは将也を離すまいとガッチリ抱きついている。


「ごめんごめん、そうだね、もうああいうのはやらないようにするよ」

将也も素直にごめんなさいしておいた。




最終的にマオに怒られてしまったが、あんなに大勢の前で一人で何かを披露するのは初めてだったので、何だかんだで今日はそれなりに良い経験になったなと思った。

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