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第34話:コメダ

「話ってなに?」


「うん、さっき冒険者ギルドで彩瀬たちと会ったんだけど」


「え!?彩瀬さんたちも王都に来てるの?」


「彩瀬と姫川と佐野が来てた。高宮のこと探してるって言ってたよ」


宿で千尋に彩瀬たちの話をする。


「とりあえず俺と一緒にいて無事なことだけ伝えといた。高宮と会って話したいって言ってたけどどうする?」


「そっか、探しに来てくれたんだ。心配かけちゃって申し訳ないなぁ。やっぱり会った方が良いかな?」


「俺はどっちでもいいから高宮が決めたら良いと思うよ。会いたくないなら無理に会う必要はないし。ただ、ガレスに戻ってきて欲しいとは言われると思うけど」


「会いたいか会いたくないかで言ったら会いたくはない、かな。もうガレスで勇者とかは嫌だし、彩瀬さんけっこう強引だし会っちゃったら断りにくいだろうし」


「んじゃ、会わなくて良いんじゃない」


「そうよね。あ、でもガレスにいた魔族のこととかは伝えてあげた方が良いかも」


「それはどっちでもいいと思うよ。王城にまで潜り込まれてるなら伝えたところでもう割りと末期だと思うし。少なくとも伝えなかったからと言って高宮に非はないよ」


「じゃあ、もう昔みたいに縛られたくないし会わないでおくことにする」


「わかった、じゃあとりあえず彩瀬たちは放置しとこう」


「それと、私、これからも岩代君の所にいていいんだよね?」


「もちろん、俺は高宮を縛る気はないよ。ずっといてくれたらかまわないし高宮の好きなようにすれば良いと思う」


「そっか、ありがと、岩代君」


穏やかな笑顔で素直に礼を言う千尋。

将也も優しく微笑み返すのみだ。





(あれ?なんかこれ良い雰囲気じゃね?こういうときどうしたら良いんだ?)


見つめ合っている二人。わりと真剣な話題から最後は良い感じの流れの話になったので図らずも良い雰囲気になっているような気がした。

なんというか、こんな空気のときにどうすれば良いのか将也は咄嗟に出てこなかった。


(いやまて落ち着け。異世界に来て恋愛マスターになった俺なら容易くクリア出来るはずだ。こんなときどうすれば良いか思い出すんだ)


異世界に来てからの記憶を振り返る。元の世界では恋愛経験などないため異世界での記憶のみだ。


(あれあれ?こんな場面ないぞ?てゆうか俺まともな恋愛経験なくね?え、じゃあ俺は恋愛マスターじゃ、ない?)


自分が恋愛マスターなどではないことに気付いて愕然とする将也。

思えば、リヴェータに関してもエリザベスに関してもまともな恋愛のようなものを経た記憶はなかった。


(いやそもそも恋愛マスターってなんだ?くそ気持ち悪い単語だな。恋愛とか言っちゃうだけでヘドが出そうなのにマスターまで付けちゃってるよ。危ないな、雰囲気と高宮の可愛さに流されて俺らしくない考えになってた。恋愛とかくっさいこと言うのやめ。雰囲気とか気にしたら負けだわ)


やっとの思いで将也が思考を落ち着ける。自分らしくいけば良いと気付いた。


こてん、と将也の肩に千尋の頭が傾けられる。

女子の千尋は将也などより雰囲気を敏感に感じ取っていたようだ。

しかも悪い気はしてないらしい。


(恋愛マスターーー!どなたか恋愛マスターの方はいらっしゃいませんか!?こんなときどうすれば良いんですかーー!?)


もちろん、その場に将也に救いの手を差し伸べてくれる恋愛マスターなどいない。

宿の一室で千尋と二人で話していたからだ。


(あわあわあわあわあわあわあばばばばばばば)


将也の頭が処理落ちを始めたところで救世主が表れる。


「将也お兄ちゃーんー、お腹すいたよー」


「こ、こらミオ!将也さんたちは大事なお話してるんだからダメでしょ!」


空腹に耐えられなくなったミオが部屋のドアを勢いよく開けて入ってくる。

その後ろからマオがミオを止めに追いかけている。


「そ、そうか!、お腹が空いたか。お、もうこんな時間じゃないかぁ!美味しいもの食べに行こうか、ミオは何が食べたい?」


「んーとね、んーとね、お肉!」


「そーか肉か!じゃあ肉食いにいこうな!」


「わーい!」


ミオの登場にすかさず立ち上がり、ミオと一緒に部屋を出ていこうとする将也。

に後ろから千尋の声が聞こえる。


「意気地無し…」


グサッ。何かが将也のどこかに突き刺さる。『女神の愛護(アテナノアイギス)』でも防げなかったようだ。


「すいません。千尋さん…」


空気の読めるマオが千尋に謝罪する。


「いいのよ。ミオちゃんは何も悪くないわ。悪いのは岩代君だから」


千尋が今どんな顔をしているのか怖すぎて後ろを振り返れない将也。

グサッグサグサッ。その間も容赦なくダメージが降り注ぐ。


(あれ?おかしいな。スキルが僕を守ってくれないぞ?ちゃんと発動してるのか後で確認しとかなきゃ)




その後の夕食の席では何故か女性陣からの視線や態度がいつもより冷たい気がした。

いつもと変わらない笑顔で肉を頬張りながら自分に接してくれるミオだけが将也の救いだった。





「と、いうことで俺も武芸大会ってのに出るから」


「ということってどういうことよ」


夕食を終えて部屋で団欒をしているときに唐突に話し出した将也にリヴェータのツッコミが入る。


「まあ色々あってね。頑張るから皆応援してね」


「応援なんかしなくてもどーせ大丈夫じゃない。まぁやり過ぎないでよね。大勢の前でグロいのなんか披露したら怒るわよ」


リヴェータから心外な釘の刺され方をする。

将也自信もグロいシーンなど見たくはないためそんなことやるつもりはない。

今まではその必要があったから行っていただけなのにそんな風に思われていたなんて酷いと感じる将也。


「将也さん頑張ってくださいね!」


「将也お兄ちゃんガンバレー!」


マオとミオは素直に応援してくれるようで喜ばしい限りだ。


「武芸大会って?」


「武芸大会っていうのはですね、毎年ギルド会議中に冒険者ギルド主宰で行われる武芸、つまりは強さを競う大会のことですわ。優勝者には3000万ルベルの賞金が与えられ、その他にも冒険者ギルドなどから色々優遇される副賞があります。腕自慢の方たちにとっては憧れの大会ですわね」 


武芸大会のことをよく知らない千尋にはエリザベスが説明をしていた。

流れとノリで出場を決めたような将也も横耳で聞いていた。



「姫川も出るとか言ってたよ。あいつが俺より良い成績だったらガレスに連れて行かれちゃうみたい」


「え、大丈夫なのそれ?姫川君けっこう強いよ?」


将也の力をまだあまり知らない千尋が心配してくれる。


「将也お兄ちゃん連れてかれたらやだー」


将也が連れて行かれるというワードに反応したミオが将也に抱きついてくるのが愛らしい。

ミオを安心させるようにポンポンと頭をなでる。


「絶対大丈夫だよ。姫川に負けるレベルなら多分元からガレスに召喚されてたはずだからね。俺が最初にガレスにいなかった時点でガレスに連れてかれることは絶対ないよ」


「よくわからないけど無理はしないでね岩代君」


「わかってる。マサヤ0.0000001%でサクッと優勝してくる」


テキトーに0を並べてから優勝を宣言する。

何回0を並べて結局何分の1かなどは全く把握していないが恐らく大丈夫だろうと楽観しておく。








ギルド会議が始まった。

武芸大会は3日目からとのことだ。

Sランク冒険者のため予選を免除されている将也の出番は5日目の本選開会式からだ。


1日目、2日目は商人ギルド主宰の大バザールが主な目玉だ。

将也たちもバザールに買い物に来ている。


「将也さん、あっちにありました!」


「将也お兄ちゃん、こっちにもあったよ!」


「マオ、ミオでかした!早速爆買いだ!」


現在将也はマオとミオを連れてあるものを買い占めている。リヴェータ、エリザベス、千尋の大人組は3人でショッピング中だ。

将也が買い占めているあるものとはコメのことダ。

バザールで東方からの商人たちが米を販売することを聞いたのでこの機会にできるだけ確保しておくことにしたのだ。


「おっちゃん、米買いたいんだけど」


「あいよ、1袋150ルベルだよ」


「タルで売ってもらない?」


「あ、これは貴族様でしたか。失礼しました。1タル30万ルベルになりますが宜しいですか?」


タルで買いたいということを聞き将也を貴族だと考える米商人。

今までなら否定するところだが、サザールの街を正式にゲットすることになったため将也自身自分が貴族なのかそうでないのかがいまいち分からない。

そのためとりあえずそのまま流しておく。


「在庫にある分も全部いただけますか?」


「そ、そんなに!?少々お待ちを」


慌てて後ろの荷馬車を確認しに行く商人。


「ぜ、全部で6タルと少々程でございます。全て買い取って頂けるなら170万ルベルでかまいません」


「タルの分だけ全て頂きます」

といいながら金貨を支払っていく。

買い取ったタルはそのまま異空間に放り込んでいく。


「た、たしかに。ありがとうございました。そ、その良ければお名前を伺っても宜しいですか?」


「ええ、サザールのイワシロと言います」


「イワシロ様ですか。ありがとうございました!」



次の店舗を買い占めに行こうとした将也に声がかかる。


「お貴族様、私どもの方でも米を扱っておるのですがいかがでしょうか?」

将也が米を爆買いしてる様子を見た他の米商人が売り込みにきたのだ。


「良いですね。頂きましょう」


「ありがとうございます!、ではこちらへ」



その後は米を探す必要はなく、買い終わる毎に次の米商人が売り込みに来たのを購入した。

5店分の米を買い占めたところで満足した将也。

これだけあれば当分は保つ計算だ。異空間に保存しているので腐る心配などもない。


残りの時間はマオとミオと食べ歩きを楽しんだ。




2日目は全員で遊びに出かけたが、1日目の将也の買いっぷりが商人の間で広まっていたためか、外に出かけると売り込みの商人たちにすぐに囲まれてしまったので宿でのんびりと過ごすことになった。

将也には珍しく昨日のテンションを素直に反省した。




そんなこんなで将也の初ギルド会議の1、2日目は終了した。

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