第32話:再会と再会と再会&再会そして再会と再会。あれ?再会一個多い?
王城からの帰り道を上機嫌で行く将也。
王城の周りには貴族街と呼ばれる貴族の邸宅などの多い区画が広がっている。
「お、そういや武芸大会ってのがあるとか言ってたな。Sランク冒険者なら本選エントリー出来るみたいだしこれもありかな」
街道に置かれていた武芸大会の宣伝の看板を覗きこみながら呟く。
先程、第二王子に「何らかの形で力を示してやる」的なことを言ったので、どのようにするか考えていたのだ。
最初は武芸大会など出るつもりもなかったが、こうなってくるとおあつらえ向きな気もしてくる。
「冒険者ギルドで受付ね、帰りに寄ってこ」
出よっかな、程度に意思を決めて、また歩き出す。
貴族街の半ばを過ぎた辺りで話が聞こえてくる。
馬車と執事らしき者を後ろに控えさせたデブなマダムたちが、自前であろう豪華な椅子に座りながらペチャクチャとお喋りをしていた。
異世界貴族版井戸端会議といったところか。
「まぁ!、その指輪はどうなさったんですか?とても綺麗ですわね」
「おほほほほ、そうでしょう?、宝石商の方が持ってきてくださいましたの。なんでも異国で採れる珍しい鉱石から作っているらしくて国内には余りないそうですわー」
「まぁ素敵!。とても綺麗な黒色ですわね」
「おほほほほ、そうでしょう?、一目見たときに吸い込まれそうになって、すぐに買い上げましたの」
控えめに言ってデブのババア、たちなどには一ミリの興味もない将也だが、聞こえてきた会話と自慢話の的になっている指輪を見てすぐに予感がする。
直感のような予感といったものだ。
デブのマダムが自慢気に見せびらかしていたそれは、マオミオ姉妹を助けた日に盗賊が使用した指輪と同じものだった。
いつもなら、(お、指輪に生気吸いとられたら痩せるだろうしちょうどよかったね!)
などとテキトーな感想しか持たないところだが、
今までの一連の流れから今回は予感を持つ。
指輪を見てすぐにある種の予想を立てるも、情報が少ないのでもう少し何かないかと考える。
そこで久しぶりにマップを活用することにした。
遠目から拡大してババアの指輪を写真で撮り、マップ内で検索をかける。
検索範囲はこの王都全域である。
「…はは、え、これマジか?いや、マジっぽいな。マジならマジで面白いな」
表示された検索結果を見て、一瞬考え、すぐに楽しそうな表情になる。
王都は、中心に王城、その周りに貴族街、最外側に一番広い平民街といった構図の街なのだが、貴族街の範囲にだけ10個程の光点が光っていた。
つまりは、この王都内で10人ほどの貴族があの指輪を所持していることになる。
将也は、指輪がどのような効果を発揮するかを1度直に見ている。
そのことと今ある情報とを照らし合わせて予測する。
まずは、今ある10個の指輪が発動するとどうなるか。
これは簡単に予想がつく。10人の貴族とその周りに数人が生気を吸われ、魔獸が精製されるのだろう。
その後は恐らくその場で魔獸が暴れだす。
そして、対処されるといった形になるだろう。
精製魔獸が前回の兎と同程度のモノなら将也でなくても対処出来るものはいるだろう。例えばSランク冒険者などなら容易く対処できると思われる。
つまりは、10人以上程度の貴族が死に、王都内に10体程度の精製魔獸が出現するも、特に被害を出す程の規模でもなく比較的速やかに駆除されるといったところだろうと結果を予測する。
次は、裏で糸を引く者の推測だ。
これもそれほど難しいとは思わなかった。
黒幕などいない、というようなパターンが最初に否定された。
指輪を売った商人が言ったことに嘘や商売以上の思惑などがなく、たまたま、他国で採れる珍しい鉱石に魔獸を精製する効果があっただけというパターンだ。
商人が自分の商品とするとものをある程度以上に詳しく調べないということも奇妙な話であるし、何より販売に回っている商人が貴族街だけ、にしか行かないのも奇妙である。貴族街にしかなくて王城にないのは明らかに作為的である。これは、単に王族が持っていないということだけでなく、この時間に王城内に出入りする貴族さえも持っていないだろうということである。販売する人間をある程度選ばなければこうはならない。
あとは、盗賊の頭がなんかほざいていたのも判断理由の1つだ。
黒幕がいる、となれば、それが誰かだ。
まずは、黒幕の思惑から考える。黒幕が何をしたいのか、だ。
これは事が起こった後の利害を考えれば見えてくる。
もちろん、利益、損益などと言っても何も金銭的な事ばかりではない。
①、指輪が発動。着用している貴族とその周囲の数人が死ぬ。
②、魔獸が精製される。精製された魔獸が貴族街のみに多少の被害を出す。
③、対処され、魔獸が駆除される。
起こるだろう流れはこの三段階に分けられる。そしてどの段階が黒幕の利益・害益となるのか、だ。
③は恐らくない。駆除されるために魔獸を精製するというのは目的足り得るとは考えにくい。
②で、誰かの利益となるだろう部分は街への被害だが、これも恐らくない。
街への被害が目的だとすれば、精製される魔獸の数や質が中途半端だと評価せざるを得ない。
これから王都内の指輪の数を増やす可能性もないことはないが、売るために指輪を多数保有しているだろう商人を示すような光点もなかったことだしその可能性も低いだろう。
では、①はどうだろうか。貴族の死亡、これは利益足り得ると思う。
貴族に限ったことではないが、ある程度以上特定された個人の死亡を望まれることは充分に多い。
しかも今回の場合は指輪を持たせる人間を選んでいる節まである。
となればこれが有力だと思われる。
以上のことから、貴族が死ぬことが利益となることを必要条件として該当する人物を考える。
将也が知っている人物の中では今のところ1人しか思いあたらない。
その1人に関して、更に詳しく利害の予測を立てて十分条件を考えていく。
貴族の死亡を望む発言は実際にしていたので利益となるのだろう。
精製された魔獸がさらに周囲の貴族を殺してくれれば利益、そうでなくても貴族街にしか現れないことから自分の安全に関しては損益なし、王都全体でみても大きな被害なしなのでほぼ損益なし。
魔獸が駆除されないまま放っておかれるとそりゃ害益を被るだろうから魔獸が駆除されることは害益の排除、つまりは相対利益。
今現在将也が把握している事情などからだけでも黒幕だろうと思う者には十分のトータル利益が出るだろうと思われる。
(極めつけはあれだな。エリーが精製魔獸見たときに言ってた、)
初めて精製魔獸を見たときに、エリザベスがかつて任務中に自分たちを襲った魔物にどこか似ていたと言っていた。
エリザベスの任務とは例の第三王子の護衛だ。
第三王子が魔獸に作為的に襲われたのだとしたら、これを画策した者は、王族の移動経路を把握していて、さらにはそこに指輪を持った何者かを近づけることが出来る者ということになる。
このことは黒幕の予想と矛盾はしない。
「すごいわ、やっぱりかなり面白いな。中々に愉快なことをしてくれる王子様だ。やっぱSランク冒険者のいるギルド会議中にやるつもりかな。もっと詳しい話とか聞きたいな。色々と俺の知らん事情とか共犯とかももしかしたらあるだろうし。これは武芸大会は確実に出とかないとな」
もちろん魔獸の発生を阻止しようなどという心意気などは、微塵もない。
心底ニンマリとした顔で1人言を呟きながら歩いている将也。
目的地は冒険者ギルドで、武芸大会には絶対出るぞコノヤロー程度に意志が硬化している。
楽しい思考に耽っている将也は前方からいそいそと近付いてくる人影に気づかない。
ちょうどギルド冒険者ギルドの入り口前に付いたところで声をかけられる。
モーガンだ。
「い、イワシロ様、ご無沙汰しております。イワシロ様も王都においでになっていたんですね」
モーガンが至極丁寧な挨拶をしてくる。
「ん、あれ、モーガンさんじゃないですか。お久し振りです。そちらの方々は?」
モーガンは青みがかかった鎧を着た女性四人組と連れ立っていた。
おそらく王都まで同行してきたSランク冒険者パーティだろう。
「こちらはサザールの街のSラ…
「あれ、イワシロさんじゃないですか!ちょうど良かった!」
途端にすごい顔になる将也。この世界で今までに唯一将也を苦しめたことのある存在、アヤト青年がギルドから出てくるなり将也を発見した。
「お、お久し振りアヤト君」
「いやぁ、ギルドへ言伝てがないか確認してにきてみたんですけ…
「お、お、岩代!?」
「姫川!?」
将也の元クラスメイトで、現勇者の姫川という男が後ろから声をかけてきた。
「おまえ何してんだよこんなとこ…
「え、岩代君いるの!?」
「彩瀬!?」
将也の元クラスメイトで、現勇者の彩瀬という女が姫川の後ろから声をかけてきた。
「よかった、やっぱり岩代君もこの世界に来て…
「いわっち!?」
「さのっち!?」
将也の元クラスメイトで、元救聖の英勇者で、現勇者の佐野という男が姫川一行の一番後ろから声をかけてきた。
「うわぁ、マジでいわっちじゃん!超ひさしぶり!とりあえずあくしゅあくしゅ」
結局、最後に声をかけたために遮る者のいなかった佐野の発言が遂行され、流されるままにガッチリと握手を交わした。