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第31話:関西弁最強

王都についた翌日、宿で朝食を食べながらいつものように今日はどうするのかを話す。


「今日はどうする?ギルド会議は3日後からみたいだし、まだ準備って感じで特にお祭りとかもやってないね」


「そうねー、いつもみたいにテキトーにブラブラ街を見て回って過ごせば良いんじゃない?元々ギルド会議に参加するような予定もないんだし」


「たしかに、そうだね。じゃあまあそうしようか」

と言いながらも内心では


(はぁ、またか)と思う将也であった。

女子の言う街をブラブラとはショッピングのことである。

これは全次元全世界共通で例外はおそらくない。



ということで皆で街へ繰り出す。


街はギルド会議を目前に準備でごった返している。かなりの活気だ。


既に増えてきている観光客をターゲットとした色々な屋台が立ち並んでいた。


元の世界でも見たことのある物やそうでない物もたくさんある。

が、別段将也の興味をひくものはあまりなかった。


広場を通ると、そこは食べ物の屋台が多くなっていた。

ミオが興味津々で目を輝かせていた。


「どれもおいしそう~。あ、あれ食べてみたい!」


次々と屋台に目をつけていくミオに付いていきながら色々買い食いをしていく。

あまり味に期待はしていなかったが、さすが王都の一等地に屋台を出すだけあり、どれもそこそこ以上には美味しかった。

ミオを筆頭に皆幸せそうに食べていたので良かったと思えた。



お腹がいっぱいになってきたところで、今度はリヴェータのターンが来た。

洋服を扱う店が多い通りに行き、片っ端からきゃいきゃいと物色していく。

そのとき男の将也はほとんど蚊帳の外ではあるが、慣れているのであまり気にしない。


途中からは将也一人が店の外のベンチに腰かけて待ち、ホクホク顔の女性陣が店から隣の店へと次々入っていくのを眺めていた。


夕方近くにショッピングがやっと終わり、宿へと戻る。



広場を通ると、屋台が入れ替わる時間のようでバタバタとしていた。


噴水の周りには座り込み、絵を描きますといった風の人たちが何人か見受けられた。


マオがチラチラと絵描きゾーンを見ていたので、1枚書いてもらうことにした。


マオとミオが緊張しないようにと少女の絵描きに頼むことにする。


「1枚お願いしてもいいかな?」


「あ、はい、皆さんをお描きすれば良いでしょうか?」


「うん、頼むよ」


チヒロ、エリザベス、将也、リヴェータの順で並び、エリザベスと将也の前にマオとミオという配置でじっとする。


30分程で絵は出来上がった絵は、将也を含め、全員が笑っているような絵になった。

自覚はなかったが、もしかしたら将也も笑っていたのかもしれない。


(悪くない)


素直に喜ばしい気持ちになった。



「ありがとう、お代はこれで足りるかな?」


金貨を5枚渡す。代金として多いのはわかっていたが、良い出来のものを素直に評価した形だ。


「お、多すぎす!こんなにはいただけません!」


少女は少し焦っていたが、少女の手を取り、金貨を握らせる。


「いや、素直にとても良い絵だと思ったんだ。ほんのお礼の気持ちだから受け取っておいてくれ」


「あ、ありがとうございます!」


自分の絵が褒められて嬉しかったのか、あまり断るのも失礼だと思ったのか、少女は素直に金貨を受け取ってくれた。

絵は大事そうにマオが持っている。


深々と頭を下げている少女に見送られながら宿に着いた。





翌日、「今日俺は予定があるから皆は自由に過ごしてて」とリヴェータたちに言い残して

将也は単身王城に向かっていた。キースに会うためだ。


街のどこからでも見えるほどの大きな城の門の前で警備の兵士、というか騎士みたいな男に声をかけられる。


「王城に何かご用でしょうか?」


「キースさんに会う約束があって来ました。こちらを見ていただければ」

と言いながら懐からキースからの手紙を出す。


「確認いたしました。たしかにキース様からの手紙のようです。では、キース様を呼んで来ますので少しお待ちいただいてもかまいませんか?」


「ええ、大丈夫ですよ」


騎士の男が城の中へ向かう。

と同時に隣にいた城門警備のもう一人の女の騎士から声をかけられる。


「なぁなぁ、あんたキース様の知り合いなん?さっきのロバートの反応的に貴族様ではないんやろ?」


妙に馴れ馴れしい上に何故か関西弁にしか聞こえない。

短い赤髪で見るからに健康というか元気そうな女性だ。

なんというかお喋りな関西の女の子という感じで少したじろいでしまう。


「え、ええ。キースさんとは前に少しお話する機会がありまして。王都に来ることがあれば顔を出してほしいと言われていたので」


「ふーん、そうなんや。あ、うちはチエッタ言うねん。見てわかるやろけどここの騎士でキース様の部下や。これでもけっこう強いほうやねんで?」


「そ、それはすごいですね」


「せやろ?でも、キース様に呼び出されるとはあんたも災難やな?なんか怒られるようなことでもしたん?あの人生真面目いうかちょっと怖いやろ?うちもよぉ怒られてんねん。ほんまはうちの方が強いからしばいたってもええねんけどな?キースさんは侯爵家の人間やからそんなわけにもいかんのわかるやろ?」


「ほぉ、それは初耳だな、チエッタ君。私より強い君には今度是非とも個人的に訓練をつけてもらいたいね」


アングリと口を開いたチエッタが振り向くとそこには先程の男騎士とキースが立っていた。


(この子はいつもこんな感じで怒られているんだろうな)

となんとなく想像がついた。


「待たせてしまって申し訳ないね。中で話そうか」


キースについて王城内に入っていく。

後方には、「キース様~、個人訓練は堪忍!堪忍したってください~」と泣いているチエッタとその横で腹を抱えて笑っている男騎士の姿がある。

中々に楽しそうな職場だと思った。



初めて入る王城は、これでもかというほど豪華で絢爛であった。

広い王城内の通路を、時に鼻くそをほじりながら、時にその鼻くそをその辺になすりつけながらキースの後ろをついていく。


たどり着いたキースの部屋は、サザールの屋敷の執務室と似た感じであった。

1騎士の仕事部屋にしては少し手広な気もしたが、さすが王城といったところだろう。


来客用と思われるソファーに向かい合って座る。


「よく来てくれたね。今回はギルド支部長の護衛で来たのかな?」


「ちゃいます。お祭りや聞いたから普通に遊びに来ましてん。あれ?」

何故かチエッタの関西弁がうつっていたようだ。

関西弁恐るべしってことですぐに修正する。


「そ、そうか。実はこのあと第二王子殿下が君に会いたいとおっしゃっられているんだがかまわないかい?」


「ええ、大丈夫ですよ」


「よかった。では手紙に書いていた報償などの件はその時になると思う。で、私から君に聞きたいことがいくつかあるのだが聞いてもかまわないかい?」


「僕が答えられる範囲なら、どうぞ」


「少しだけ君のことを調べさせてもらってね、Sランク冒険者とのことだけどこの国の出身なのかい?」


「いえ、違います」


「やはりそうか、では単刀直入に聞くが君はガレスで召喚された勇者なのかな?」


「あー、それも違いますね」

嘘はついていない。ガレスで召喚されてもいなければ、条件的に勇者召喚にも弾かれているので勇者でもない。


「嘘はつかないでほしいのだけど。私としてもあまり得体の知れない者を殿下に合わせるわけにはいかないからなね」


「嘘ではないですよ。そうですね、ガレス王国の方に確認していただればわかると思いますよ」


「そうか、あてが外れたが信じることにするよ」


「どーもです」


「恥ずかしい話なのだが、Sランクほどの実力の君のことを君と出会うまで全く知らなくてね、できれば君がこなした依頼で代表的なモノなどを教えてくれないか」


将也がこなした代表的な依頼、といえばおそらくあれであろう。

というか代表的でなくてもあれしかない。


「それでしたらハジャコングの討伐ですね」


「は、ハジャコング!?というとあのおとぎ話で出てくるあれかい?」


「そのおとぎ話は知りませんけど、ハジャコングの討伐という依頼は僕が達成しました」


「もしかして、一人でかい?」

本来ならソロでの討伐などありえないレベルだというのは理解していたが、将也の口ぶりからそのような気がしたキースが恐る恐るたずねた。


「ええ、中々強いゴリラでしたよ」


「ふぅ、そうか。ありがとう」

と言うと、何かを考えこむようにぶつぶつと一人で呟いているキース。


(なんだこいつ気持ちわりい)

と思う将也。


少しの間の沈黙が流れたが、すぐにノックの音で破られた。


「失礼します。第二王子殿下の準備が出来たようです」


「む、そうか。ではいこうか」


先程と同じように広い通路をついていく。

鼻くそはさっき出しきったので今回は何もしない。


案内され入った部屋は、キースの部屋の4倍程の広さの豪華な執務室だった。


「リオット様、彼が件のサザールのSランク冒険者です」


「はじめまして、岩代将也です」


「ロマリー王国第二王子のリオットです。よろしく」


気さくに握手を求めてくる第二王子に応える。


リオット王子は、少し癖のかかった茶髪の優男といった感じであった。

(アホそうではないな)と思える程度の表情をしていた。


「それで、キース、彼は…」


「はっ」と言いながらキースがリオットに耳打ちする。

先程の会話を報告しているのだろう。


報告を聞きながら驚いた顔をしていたリオット王子。

報告を終えると席につくように促される。



「さて、キースから話を聞かせてもらったが、君は相当に腕が立つ上に為政者としてもかなり優秀なようだね」


腕が立つの部分は先程の話だろう。為政者の部分はサザールの様子を調査した結果だろうと予想する。

基本的にサザールの運営に将也はノータッチだったが、以前に比べて税をげきゆるにしたうえでその税金で公共事業の様なことを行うようなことはちょろっと暇な時に指示したりしていた。

旧アンリ伯爵を領主のステレオタイプとするなら、私腹を肥やさずに日本の真似事のようなことをちょっとしただけで優秀な為政者と呼ばれるのは納得のいく話だ。


「そんなことはないですが、そう評価していただけるなら幸いです」


「それで、サザールでの褒美のことなんだけど、何か希望はあるかな?正直今回のような件は前例がなくてね、国王陛下から僕がこの件を預かっているから僕の権限の範囲でなら何でもかまわないけど」


「うーん、あ、そうだ。その前にお土産があるんですけど先に良いですか?」


「ん、かまわないけど、褒美を受け取ってもらいたいのにお土産を貰うのはなぁ」


将也が異空間から氷付けの魔族を取り出す。

瞬間、キースが剣を構えようと緊張を張り巡らせる。


「こ、これは、魔族、かい?」


「ええそうですよ」


「これがお土産かい?」


「半分正解ですね。ただ、魔族を持ってこられても嬉しくないし、有用でもないでしょう?それではお土産になり得ない」


「では、君のお土産とは?」


「この魔族はガレス王城内に潜入していた魔族で、氷の中で生きてます」


「な!?、…たしかに、お土産だね…」

一瞬驚いたリオットがすぐにお土産だと認める。


隣の国の、それも王城内に潜入していた魔族で、生きているとなれば何かしらの情報なども聞き出せる可能性が高い。

その上、将也の話から、この国にも同様に魔族が潜入している可能性があるということも推察することが出来る。


「キース、すぐに王城内を洗い出せ。まだ騒ぎを起こすなよ。魔族がいるなら監視して泳がしておけ」


「かりこまりました」


キースが魔族を抱えて急いで部屋を出ていく。



リオット王子の今までの一連の所作や対応に将也は好感を得ていた。

どうやら最初の印象通り、それなりに頭は良いらしい。


「君のお土産はかなり有用なものだったよ。ありがとう」


「いえいえ、褒美の件ですが」


「ああ、お土産も踏まえて、だね。何がいいかな?」


「サザールの街をこのまま僕にください。あそこの屋敷が今の本住まいなのでそれで、かまいません」


少し驚いたような顔をした後に王子は笑いだした。


「はは、そう来るか。本音を言うとこのまま君に任せたいと思っていたんだ。1つだけ約束してくれるならかまわないよ」


「約束とは?」


「僕はね、この国をもっと良くしたいんだ。だから君がバカな貴族を消してくれたのは願ったり叶ったりだった。王族とはいえ貴族を消すのは簡単ではなくてね。まあだから、君が僕に協力してくれるならサザールの街はこのまま君にお願いするよ。協力といっても難しいことじゃない。必要な時に君の可能な範囲で力を貸してくれるだけでいい。君がサザールを良く治めてくれるだけでも充分協力になっているしね」


少しだけ興味が湧いた将也はリオットを試したくなった。


「では、協力の方法として、貴方が指定する人物を二人まで消すことを約束しましょう。誰が宜しいですか?」


「兄上と父上でお願いするよ」


真顔で即答するリオット。


「はは、いいね。王子さん、あんたかなり良いよ」

今度は将也が笑いだした。


「そうかな。君も中々に良いと思うよ。で、今の話は本当かな?」


「ああ、必要な時に言ってくれれば消してやるよ。もちろんターゲットは変えても良いし。俺の力が信用できないならそのうち何かしらで力を示してやってもいい」


「それはありがたいね、君とは上手くやっていけそうだ。何か困ったことがあれば言ってくれ。出来る限り君の後ろ楯になると約束しよう」


「そりゃどうも、じゃあ帰るわ。王都を出るまでにはもう一回来るから」




中々に楽しかった将也は満足気に王城を後にした。

リオット王子は中々に良さそうだ。バカではないから見てていらつかないし、やろうとしていることも楽しそうなので協力を約束した将也であった。

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