第25話:旅立ちの唄
蛇を焼き飛ばし、ベルクたちを救出した翌朝、将也たちはサザールの街を出る。
移動手段は元伯爵が持っていた馬車だ。
街の門の所まで、モーガンとセシリー、ベルクたちのパーティ、屋敷の使用人たちが見送りに来てくれた。
簡単な挨拶を交わしていよいよ出発する。王都へののんびり旅行だ。
まずは、隣の町を目指す。その町もまだ元伯爵領内だ。
初め、馬車の操縦はエリザベスが行っている。
エリザベスは元騎士ということで、馬車の操縦程度はお手の物といったところだ。
エリザベスに道すがら教えてもらって、いずれは全員がある程度操縦できるようになればと考えている将也。
出発してから2時間余りがたったが、ミオはまだはしゃいでいる。
初めて乗る豪華な馬車と初めての旅行がミオのテンションを上げているようだ。
はしゃぐミオを注意しながらも、マオもどこかウキウキしているように見える。
マオの耳と尻尾がフリフリと楽しそうに動いている。
リヴェータはそんな二人とじゃれあっている。
リヴェータも心なしか楽し気なようだ。
将也はとりあえず自分からということで、御者席でエリザベスから操車を教わっている。
『操馬』のスキルを持っているためか、自分でも中々飲み込みが良いと感じる。
そんなのどか過ぎる時間を過ごしながらのんびりと移動し、夕方を過ぎて夜になろうとする所で隣の町へと着いた。
ノームという名の町で、それほど大きくはない外壁に囲まれている。
町の規模もサザールの2割程度だ。
町の門の所で領主代行証を兵士に見せ、滞りなく入町する。
将也たちの使っている馬車が元伯爵が持っていた物なので、兵士たちは端から最敬礼に近い対応をしていた。
兵士たちから宿屋の場所を聞き、一番おすすめされた高級宿に向かう。
町の中を場所でゆっくりと進みながら、辺りを色々と見ていたが、街道の整備などもきちんと行われており、思っていたよりも人々の生活は良さそうである。
将也は、この旅で通る元伯爵領の他の町などの為政者がダメそうならすげ替えておこうと思っていた。
サザール以外の町などは、元伯爵が任命した町長などが治めている。
領主代行の仕事への意欲に燃えていたなどというわけではないが、元伯爵の息のかかった者たちをのさぼらせておく必要もない。
今の将也の立場なら、町長をクビにして投獄して新たな者を任命することが、旅のついでに兵士に命令しておくだけで可能なのだ。
そんな思惑を抱きながら町を観察していた将也だったが、割と大丈夫そうだと判断する。
人々に聞き込みをするのも、町長を視察するのなども面倒くさいため、自分の目で見てパッと判断して大丈夫そうならOKというのが将也の落としどころであった。あくまでついでのことなのだ。
宿に着き、場所を任せて、夕食の席に着く。孔雀亭という宿だ。
宿の従業員総出で「お待ちしておりました」と丁寧に出迎えられた。
色々な所から話が伝わっていたのか、かなり豪華な夕食が出たきた。
牛肉のステーキから高価な果物まで色々ござれだ。
話が伝わるといっても、まずサザールの町の誰かからノームの町の誰かに将也が訪れることが伝わり、そこからこの町の中ならこの宿に泊まる可能性が高いという感じであろう。
正直来るか来ないかわからない状態で、ここまでの歓待を用意していたことに将也は驚いた。
「領主様からお代を頂くわけには行きません」
と言っていた宿屋のオーナーだったが、素直に質の高い歓待だと思えたし、何よりマオとミオが喜びまくっている。
今もなお、従業員のお姉さんたちに遊んでもらいながら嬉しそうにしている。
亜人であるマオとミオは、人間尊色の強いこの国ではあまり良い思いをしてこなかった。
サザールの街でも、将也の手前明らかに嫌そうな態度をするものはいなかったが、知り合い以外の人間はマオとミオが感じ取れる程度には敬遠している空気であった。
そのため、今現在、マオとミオの心の底からの笑顔を引き出している対応まで含めて、将也は素晴らしいと評していた。
「いや、素直に素晴らしいよ。店主、これで、良ければサザールの街の方にも店舗を持ってくれ」
1000万ルベルを店主に渡す。
少しやり過ぎかとも思ったが、金を差し出された店主が最初は遠慮していたものの、程よいタイミングでお礼とともに受け取ったのを見て、やはり素晴らしいと感じた。
能ある人間がそれに見あった対価を得ることは将也の中では概ね是だ。
部屋に案内する所まで素晴らしいとしか言えない孔雀亭の対応であったが、一点だけ、将也には不満があった。
それが部屋だ。全員一緒で一番広い部屋に案内された。
5人でも充分に余裕を持ちながら一緒に寝られるであろうとても大きなベッドでミオが嬉しそうに跳び跳ねている。
マオは顔を少し赤らめながら何か申し訳なさそうな顔を将也に向けている。
「残念だったわね、将也」とニヤニヤとリヴェータが言ってくる。
「将也さん、私は逆にこのような場面は燃えますので大丈夫ですわよ」と言うエリザベスに刹那に希望を取り戻しかけた将也だったが、将也自身がこういうシチュエーションはちょっと無理なので希望などなかった。
結局その日は何もせず、五人一緒に仲良く寝ることになった。
初めて将也と一緒に寝るミオが将也の右腕に嬉しそうに抱き着いて尻尾をブンブンと振っている。
恥ずかしそうな顔をしながらも、将也の左腕を摘まむように優しく掴んでいるマオの尻尾はゆっくりと左右している。
リヴェータとエリザベスは両端からそんなマオとミオを抱きしめながら眠っている。
たまにはこういう夜も悪くないかと優しい気持ちになりながら眠れた将也であった。
翌朝、朝食の時も孔雀亭はさすがの対応を見せていた。
朝ということで、重たい料理を避けながらも、新鮮な野菜中心で随所に気品さえも感じられる朝食だった。
朝食の時に店主や従業員たちに、町長の評判を聞いたがやはりそれほど悪いものではなかったのでOKということにしておく。
最後の最後まで、素晴らしい対応の孔雀亭の従業員たちに見送られながら、自然と笑みを溢すほど大満足で将也たちはノームの町を出発した。
(中々幸先の良い旅じゃないか)
エリザベスに代わり今日の操車を行いながら、これは旅行に出て大正解だったなと思う将也であった。
キリが良いので今回は少し短めです。




