第24話:蛇焼
将也は朝に屋敷を訪ねてきたモーガンから詳しい話を聞く。
酔いから復活したリヴェータも同席している。
「事の発端は、兵士たちが一昨日街で投獄された男が兵士たちに街にくる道中に盗賊に襲われたという話をしたことのようです。兵士たちが盗賊のアジトを探すために、その男が盗賊に襲われたと言っていた付近を捜索していたところ急に現れた大きな蛇の魔物に襲われたのだとかろうじて逃げ帰ってきた一人の兵士が言っていました。見たこともないほどの大きさの蛇で、実際にやられているため自分たちでは対応出来ないと判断した兵士たちがギルドに報告してきました。ギルドはこれを暫定的にBランク程度の依頼と判断し、ギルドに居合わせたベルクたちがその魔物の討伐依頼を受けて昨日街を出ていきました。ですが、ここからそう遠くない場所にも関わらず一夜明けた今も誰一人戻ってきておりません。よって、ギルドはベルクたちが返り討ちに遭いやられてしまったと判断し、Aランク5人のパーティが達成できなかったことから、最高のSランク難度の依頼としました。この街からそう遠くない場所な上に、得体の知れない魔物のためどう動くかの判断もできないので、火急の要件としてイワシロ様に報告させていただきました」
投獄された男というのはマオとミオを連れていた禿げ奴隷商のことだ。
ギルド会議中にモーガンの護衛をしていくSランク冒険者もいるが、現在は他の依頼で出払っており、サザールの街には今は将也しかSランク冒険者がいないとのこと。
ご丁寧に長々と話していたモーガンだったが要するに、
近くにでけー蛇が出てやべーから何とかしてくんない?まさえもん
的な話だ。
もちろん、蛇退治を受ける受けないは将也の自由だが、将也は受けるつもりであった。
ベルクたちのことは嫌いでもないし、生きてるなら助けてやっても良いだろうと考えていたし、なにより、
どうせ、
「もちろん受けるわよね将也。ベルクたちのことはほっとけないわよ!」
などとラーミアやカナリと仲の良いリヴェータが言うだろうと思っていたからだ。
「もちろん受けるわよね将也。ベルクたちを絶対に助けなきゃ!」
(惜しい!)と思いながらも、
「わかりました。その蛇の討伐は僕が済ませておきます」
とモーガンに伝えた将也。
モーガンはホッとした顔をし、
「よろしくお願いいたします」
と丁寧に告げてから帰っていった。
「じゃあ、ベルクたちも心配だしさっさと終わらせてくるよ。リヴは屋敷で待ってて」
「わかった。気をつけてね」
将也は1人馬に跨がり依頼の場所へと向かう。
馬は、ゴリラ山に向かう時に購入した馬だ。
一人で暇なときに屋敷の庭で何度か乗馬して遊んでいたので馬に乗るのも慣れていた将也。
馬をゆっくりと走らせながら、スマホで[マップ]を確認する。
マップでベルクたちの行方を探すと、森の奥の方にある洞窟らしき場所に5人揃っていることが確認できた。
洞窟内のベルクたちの周囲にいる光点の数から洞窟は盗賊のアジトかと思われる。
生きてはいるようだが、気を失っているのか誰一人微動駄にしない。
方向のわかった将也はスマホをしまい、全速力で馬を走らせる。
30分もかからないうちに洞窟の少し手前についた。
馬を木に繋いでおき、洞窟に近づいて行く将也。
蛇がいた。洞窟の入り口を守るようにかなり大きな蛇が居座っている。
胴体の太さが2㍍以上はあり、全長は30㍍以上あるんではないかという大蛇の魔物が塒を巻いた状態で眠っている。
紫色の鱗が体の大部分を占めており、所々黒色の鱗があるようだ。
将也は遠目からズームして蛇を鑑定してみる。
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精製魔獸:贄型 (21人分) 状態:被操作
0歳 レベル168
力:845
防御:896
魔力:650
俊敏:731
スキル:『自然回復強化』、『毒液放出』
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(型とやらは違うが精製魔獸ってのは前の黒ウサギと同じだな。盗賊の間で流行ってんのか?まあどちらにせよ弱いから問題ないけど)
将也は無防備に蛇に近付いていく。
将也の接近に蛇が気付くと、蛇は起き上がり声をあげた。
洞窟の中からドタドタと盗賊たちが出てきた。
盗賊の中で一番ガタイの良い、角付きの帽子のような物を頭に被り、無精髭が汚いおっさんが声をあげた。
「おい兄ちゃん、俺たちに何の用だ?まあ用がなくてもかまわんがなヘッヘ」
「そこの蛇はあんたが操ってんの?」
「おお、そうだぜ!こいつは見ての通り相当強力だぜぇ。なんせAランク冒険者までぶっ飛ばしちまうからな」
「その魔物どうやって手に入れたの?」
「てめえには関係ないことだ。が、冥土の土産に教えてやるぜ。俺様は強いだけでなく優しいからな」
「さすがっす!お頭!」、「よっ!優しくて強い良い男!」
盗賊の子分たちが自分たちのお頭を囃し立てる。
「止せやいお前ら、照れちまうだろうが。こいつはな兄ちゃん、この前通りすがりの商人から奪ったこの指環で召喚して操ってるんだ」
盗賊のお頭が指にはめた紫の宝石のようなものがついた指環を自慢気に見せてくる。
「その商人が逃げ足の速いやつでよ、使い方を喋った後に逃げられちまったんだが、まぁそんな細けーことはどうでも良い。使い方ももう忘れちまったしな」
「さすがっす!お頭!、「よっ!物忘れの早い良い男!」
「ばっかおめーら。そんなに褒めても何も出ねーよぉ」
嬉しそうに子分たちに軽くゲンコツしているお頭。
(逃げ足が早くて盗賊から逃げきれる奴が1度捕まった上にわざわざ使い方の説明してから逃げるのもおかしな話だな。元から実は盗賊たちよりも強い奴なら盗賊たちが今無事なのも奇妙だ。一番ベターなのは盗賊たちに指環を使わせるためにわざと捕まったってところかな?いずれにせよその商人ってのは怪しい奴だな。ま、どうでも良いけど)
盗賊の話に出てきた商人の奇妙とも思える行動に怪しさを感じた将也だったが、
指環の精製魔獸が弱いため自分にとってはどうでも良いという結論に行き着いた。
将也は『獄炎』を発動し、右手に黒い炎を纏わせる。
将也の黒炎に盗賊たちが驚き、剣を抜き始める。
(ちょうど良い実験台だ。さてどんな感じかな)
右手の黒炎を蛇の尾の方に素早く飛ばす。
でかい図体の蛇の尾に黒炎が軽々と命中した。
蛇に当たった黒炎はゆっくりと尾から頭にかけて、蛇の体を燃やしていく。
燃え尽きた部分から灰になっている。
「な、なんだ、これは!?き、消えねーよ!」
盗賊二人が黒炎を消そうと水魔法を当て続けているが、炎が弱まる気配すらない。
熱さに暴れだした蛇の尾が水魔法をかけたいた盗賊二人にぶち当たり、盗賊が黒炎に燃えながら吹き飛ばされる。
「ぐあー!あつい!あつい!あづい!あああはああああ!」
盗賊二人は体の中心部近くから黒炎が移ったために、悲鳴をあげるとすぐに絶命したようだ。
動かなくなった二人の盗賊の体が真ん中からゆっくりと灰になっていく。
なおも暴れる蛇に盗賊のお頭が指環をかざして命令する。
「あ、暴れるな!じっとしてろ!」
蛇は暴れるのをやめて、その場で身悶え声をあげている。
まだ体の2割程度しか燃えていないために元気なものだ。
将也は帝挺如意棒を取り出して、如意剣にして飛ばす。
盗賊たちの手の指全てと踝から下の足を切り落としていく。
如意剣の速度を避けられる盗賊はおらず、瞬く間に全ての盗賊たちが地面に倒れ込む。
手をかざしているお頭の指も両断されて指環とともに地面に落ちたが、
まだ命令が有効なのだろうか、蛇は大人しく黒炎に焼かれ続けている。
将也は、動けない状態で叫び声をあげている盗賊と蛇の横を通りすぎて洞窟内に入っていく。
ベルクたちは、洞窟内で裸で手足を縛られて捕まっていた。
ベルクたちの他にも数人の人が囚われていた。
怪我は大したことはないようだが、ラーミアとカナリは凌辱されたような形跡がある。
まあこの程度は仕方のないと思う将也。
気を失っているベルクたちを起こし、ベルクたちの拘束を解いた将也。
「助けにきたよ」
「ま、将也か。すまない。助かった」
「かまわないよ。蛇の魔物は討伐して盗賊たちは動けない状態にしてるからベルクたちは、自分の装備を探したらここの他の人たちを街まで連れてきてやってくれ。俺は先に街に戻って盗賊捕縛のために兵士たちを呼んでおく」
「わかった。本当にありがとうな」
「いや、いいんだ。じゃあ俺は行くよ」
将也は洞窟内の盗賊の集めていた財宝などを異空間にさっさと放り込んでから洞窟を出る。
洞窟を出ると蛇がちょうど燃え尽きるところだった。
尾の先から頭の先まで全て灰になって消えた蛇の横を将也は悠々と通りすぎていく。
盗賊たちは地面で呻いている。
馬に乗り街へと戻る将也。
門の所で、兵士に盗賊を捕縛するために人を送るように指示してから街に入り、ギルドへ向かう。
モーガンに依頼の完了とベルクたちの無事を伝える。
今回は街の兵士からの依頼で、成功報酬は街の運営金つまりは、将也の懐から出ることになっているので、依頼金の受け渡しは省略した。
モーガンに盗賊たちから取ってきた中から金貨110枚を渡しておく。
ベルクたちを含めた盗賊の洞窟にいた人たちに将也からの見舞金として1人10枚ずつ渡すようにたのんでおく。
金には困っていないし、情けは人のためならずの精神だ。
屋敷に戻りリヴェータにベルクたちの無事を伝える。
もちろん、ラーミアとカナリの凌辱については伏せてある。
「よかった。私もあとで様子を見に行くわ」
「じゃあ、俺も一緒に行くからついでに王都への出発の挨拶も済ませておこうか。準備も終わったことだし明日にでも出発しよう」
「わかったわ」
その後、少し時間を置いてベルクたちの宿を訪ねた。
全員戻ってきていた様で、皆一様に疲れはてた顔をしていたが、将也とリヴェータの訪問に精一杯の笑顔を作ってくれた。
将也たちが、王都へ向かいしばらく留守にすることを伝えると残念そうな顔をしていたが、
戻ってくる予定ではあると伝えるとそれほど湿っぽくはならなかった。
リヴェータは何かを察したようで、終始ラーミアとカナリを慰めていた。
ベルクたちの全員から「本当にありがとう。本当に本当にありがとう」と何度も何度も礼を言われながら、将也はリヴェータと共に屋敷に帰った。