第22話:手紙 ~君から僕へのメッセージ~
マオとミオを助けたことで、将也は異世界に来てから最大の苦しい状況になっていた。
将也からすれば完全に想定外のことだった。
マオとミオには二人で一室を与え、将也たちとともに屋敷で暮らしていた。
当初は何とも思っていなかった将也であったが、日が経っていくことにつれて、事の重大性に気づいていく。
男女比だ。
女性陣が四人になったことで、なんというか、将也の肩身が狭くなっているような感じであった。
数の暴力には将也でも敵わない。
以前から昼間のショッピングに中々辛いものを感じていた将也であったが、
最近では、リヴェータの先導で将也1人屋敷に置いていかれることまで増えていた。
今日もご多分に漏れずそんな日である。
四人が出かけていく前に、マオが、
「将也さんも連れていってあげましょうよ」
とリヴェータに言っていたことだけが、将也の心を癒していた。
まあ結局、「将也がいると入りにくい店もあるからダメよ」
とリヴェータに言われ置いてきぼりなのだが。
将也は1人屋敷で悲しく過ごしている。
将也もどこかに出掛けようなどとは考えたが、一人であるうえに行く宛もないのでやめた。
そんな将也の元に手紙が届いた。
王都へ戻ったキースからだ。
手紙の前半の部分は、自分たちが無事王都に着いたことや、伯爵が爵位を失う罰を受けたことや、サザールの街を任せている将也への感謝と労いの言葉などが、堅っ苦しく記されていた。
代わりの領主はまだ決まっていないとも書かれていた。
将也の興味を引いたのは手紙の後半部分だった。
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君の働きを報告したところ陛下がたいそう感心なさったいたよ。
出来れば君に直接会って、褒賞を与えたいともおっしゃっていた。
君が離れても街に問題がないようなら1度王都に来られないかな?
もうすぐロマリー王国でギルド会議もある時期だし、
冒険者ギルドの支部長とともに王都に遊びに来たらどうだろうか。
陛下とともに僕も歓迎させてもらうよ
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王国に遊びに行くというのは、将也にとっても吝かではない話だった。
むしろ、ありありのありである。
早速、モーガンにギルド会議などの話を聞くために冒険者ギルドへと向かう。
久しぶりにギルドへやって来た将也を見つけると、セシリーさんが慌ててカウンターから飛び出してきた。
「い、イワシロ様、本日はどのようなご用件でしょうか?」
将也がこの街の代官になったことが耳に入っているためか以前よりもさらに丁寧な対応になった様子だ。
「モーガンさんに会いに来ました。少し話を聞きたくて」
「かしこまりました。ご案内致します」
セシリーさんが2階のモーガンの執務室のドアをノックする。
「支部長、イワシロ様がお見えになりました」
部屋の中からガタッと大きな音がして、
「お入りください」と中から声がした。
将也が中に入るとモーガンが既に深々と頭を下げていた。
「い、イワシロ様、ようこそいらっしゃいました。この度はサザールの街の代官の就任、誠におめでとうございます」
「堅い挨拶は止しましょうよ。僕とモーガンさんの中じゃありませんか」
「わ、わかりました。では、本日はいかがいたしましたか?」
「今日はモーガンさんにギルド会議について聞きに来ました」
モーガンが途端に苦しい表情になる。
「そ、その、護衛のことでしたら、申し訳ないのですが既に依頼を出してしまいまして…」
「ちょっと待ってください、急に護衛のこととか言われてもわけがわかりません。ギルド会議について何も知らないのでどんなものか教えて欲しいんですけど」
モーガンが慌てて説明を始める。
「し、失礼しました!ギルド会議とは、1年に1度色々な国の色々なギルド組織から多くの人が集まり行われるお祭りのようなものです。元々は支部長などによるただのの連絡会議だったのですが、だんだんと多くの人が集まるようになり、現在では2週間に渡って期間取るお祭りのようなモノとなっています。1年ごとに開催地が持ち回りで変更され、今年はロマリー王国王都テクシフォンでちょうど30日後より開催されることになっています。その、先ほどの護衛といのは、冒険者ギルドでは、各支部長が各支部に縁の深い高位の冒険者に道中などの護衛を依頼をして、同行し、結果的にギルド会議の場に高ランク冒険者を集めるという形で、祭りの盛り上げに貢献しているような次第でございます。それで、その、色々な準備などもありますので、既にこの支部から同行する冒険者は決まっておりまして……」
最初は中々に饒舌に説明していたモーガンだが、最後の方が途端に歯切れ悪くなる。
将也は中々に楽しそうだと思った。
ずっとこの街にいるのもつまらないので皆で行ってみようと考えた。
モーガンが道中の護衛の部分でふためいていたのは、将也が「おれが護衛な」的なことを言うのを怖れていたためだ。
将也も何となくだが、そんなモーガンの胸のうちを察していた。
しかし、将也もおっさんと連れ立って行きたくもないので今回は黙っている。
知りたかったことは聞けたのでこのまま帰ろうかと思った将也の目に、ふとモーガンの片腕の欠損が映る。
1年に1度の晴れ舞台のようなものが近いことを考え、少し不憫に思った将也はアメを与えてやることにする。
ついでに少しのムチも与えておくのを忘れない。
「ギルド会議に向けての僕からのプレゼントです」
将也は、『存在超修復』でモーガンの欠けた腕だけを治す。
一瞬で回復した自分の腕を呆然と見つめるモーガン。
「あ、ありがとうございます」
「モーガンさんは腕を一瞬で生やすのと人を一瞬で消し飛ばすのとどちらが難しいと思いますか?」
「え、いや、わ、私には分かりかねます」
「ですよね。僕にもわかりません」
モーガンの額から冷や汗が流れる。
モーガンは将也の「どちらが難しいと思うか?」という問いに対して、自分には到底両方行えないためにわからないと答えたが、片方を今目の前で容易く行って見せた将也がわからないと言うことは、両方簡単にできるからどちらか判断できない、ということなのだろうと判断した。
つまり、暗に「人を一瞬で消し飛ばすのも容易いですよ」と将也が言っているとモーガンは感じたのだ。
「残念ながら私用のため今回のギルド会議に僕がご一緒することはできませんが、その腕を見て僕のことも忘れないでいてくださいね」
「き、胆に銘じておきます」
冷や汗を垂れ流しながら、将也に一声確認を取っておくべきだっと後悔するモーガン。
「では、僕はこれで失礼します」
「わ、わざわざお越し頂きありがとうございました」
将也はギルドを出て、屋敷へと戻っていった。
屋敷へと街道を歩いていると何やら揉める声が聞こえてくる。
「だから!そいつらはわしのものなのだ!」
「そんなこと言われましても、確認も取れませんし」
声のする方を見ると、服装だけが小綺麗な禿げたおっさんが、街の兵士二人に言い寄っている所だった。
兵士たちはどちらも困惑した顔をしている。
兵士の向こうに不安そうにリヴェータとエリザベスに抱きつくマオとミオの姿が見えたのでそちらに行く将也。
「どうかしたのかな?」
「こ、これはイワシロ様!ちょうど良かった。実はこの男がそちらの少女二人が自分の者だと喚いておるのですが。奴隷紋などもありませんしそれに奥方様と一緒にいるようでしたので止めているところなのですが」
「ん、なんだお前は?」
「ばか!この方はこの街の領主代行様だ!」
「そ、そうなのですか。大変失礼しました。お代官様、実はそこの娘二人は私の元から逃げ出した奴隷なのです。どうやったかはわかりませんが奴隷紋も消えていてそこの兵士どもでは話にならないのです。ですので、お代官様の深謀なる判断でどうか…」
奴隷商の男は手を擦り合わせながら将也にすり寄ってくる。
この男がマオとミオを囮に放り出して逃げた奴隷商人らしい。
どうやら無事にサザールの街に着いていて何よりである。
ちなみに、将也が代官になったことで、街の税を激ユルにしていたのだが、それがこの街にやってきた理由らしく、将也のことを褒めちぎっている。
奴隷紋に関しては、奴隷商人が何の命令なども残さずに、マオとミオが死ぬ、もしくはそれに準ずる事態に陥るような状況で放置していったことで、奴隷契約の呪文により所有の意思の放棄と見なされ消滅している。
囮になってから戻ってこいなどの命令を残さなかったのは、盗賊から逃げるのに急いでいたのと、マオとミオが無事に逃げおおせるとは思わなかったからだろう。
「そうなんですか、それは災難でしたね。では、兵士の諸君に命じます。この男を投獄し死ぬまで拷問を続けておきなさい。この男の所有していた奴隷たちは自由にしてやり、この男の財産を使い今後の生き方に力を貸してやりなさい。以上だ」
将也が災難でしたねと言った瞬間に顔を明るくした禿げ奴隷商だったが、すぐに何を言ってるのかわからないという顔になる。
「はっ!かしこまりました!では失礼します!」
兵士二人が将也に素早く敬礼すると、すぐに茫然とする禿げを連行していった。
将也は奴隷商に何の恨みもなかったが、マオとミオを自分の物だと主張されるのは、いささか腹が立った。
騒ぎを迅速に解決させた自分の手腕に心の中で自画自賛しまくる将也は、
マオとミオに普段以上に優しく接しながら、5人で美味しい夕食を食べてから屋敷に帰った。
夕食の最後に出てきたデザートのプリンのようなものがようやく二人から笑顔を取り戻したので、ホッとする将也とリヴェータとエリザベスだった。




