第19話:生ぎたいっ!!!!
※途中で若干の視点変更があります。
「なんだい君は?」
「人に名を尋ねるならまず自分から名乗るべきじゃないですかね?」
「私はこの度の逆賊捕縛に当たった騎士隊の隊長のキースだ。君は?」
「僕は岩代将也です」
伯爵の執務室で会話が繰り広げられる。
キースは目に見えるほど警戒をしている様子だが、将也は飄々としている。
将也が机の上に座るというふざけた態度をとっているため、キースは将也がこの場にいるべき者ではないと判断したようだ。
「イワシロ君か。すまないが、我々はアンリ伯爵に用があるのだ。君は速やかに退出願えるかな?」
「ここは伯爵様の館で伯爵様の執務室です。なので残念ながらあなたが僕をここから追い出す権利はありません」
「すまないが、今君にかまっている暇はないんだ。我々としてもこの異常な事態について早々に伯爵様と話をしたくてね。我々も疲れているため手荒なことはしたくないんだ。さっさと出ていってくれるかな?」
「だから、僕の退出を求めるのは越権行為ですよ。そもそも僕がこの場にいて、伯爵様がそれについて何も言及しない時点で僕が伯爵様に認められてここにいるという判断はできないのですか?伯爵様の判断でここにいる者を伯爵様に一言の断りもなしに追い出せるほどの権利をあなたは持っていません。それとも、あなたは伯爵様がお付きの者を一人も付けずに話すことを要求しているということでしょうか?そちらは二人で来ているというのに?」
明らかにおかしな状況で、将也が明らかにおかしな奴であるということは理解しているキースであったが、将也の言うことには間違いがないため反論ができなくなる。
伯爵が何も言わないことをみると、害はないだろうと判断した。
「そうだな。たしかにその通りだ。伯爵様の判断だというなら私には何も言う権利はない。では、早速ですがアンリ伯爵様に、いくつかお伺いしたいことがあるのですが……」
「まてまて、その前に俺への謝罪が先だろう」
「何を言っているのか良くわからないが邪魔をしないでもらえるかな?」
「お前が、明らかな越権である上に間違った判断で、伯爵様の許可も得ずに俺への退出を求めたんだ。これは誰が見てもお前の過失だろう。お前が、国王陛下に使える由緒正しき騎士だというなら自分のミスには謝罪してしかるべきじゃないのか?まあ、お前が国王陛下の名を貶めたい賤しい騎士もどきだと言うならそのまま続けてくれ。伯爵様も騎士もどきへのそれ相応の対応をするだろう」
キースは将也をぶん殴ってやりたいところだが、伯爵の手前そのようなこともできない。
顔を紅潮させ、拳を握りしめ、屈辱の極みと言った表情で将也に謝罪を言葉のみで述べる。
「くっ、…すまなかった…」
「おいおーい、それが由緒正しい騎士様の謝罪の仕方なのか?お前の仕える国王陛下はお前に、謝罪をするときはミスを犯した低能な頭は下げなくても良いと指示しているのかー?だとしたら仕方はねーよなー」
キースはこれ以上にないほど顔をぐちゃぐちゃに歪め、怒りに震えながら腰を折り、頭を下げて謝罪し直す。
「すまなかった」
「うん、じゃあ話を始めようか。あ、先に言っておくけど、俺は伯爵様からお前たちに対応する際の全てを任せられているから。俺の言葉はそのまま伯爵様のご意向と考えてな」
「わかった。では、最初にいくつか聞かせてもらいたい」
「なんなりとどうぞ」
「ではまず始めにアンリ伯爵のお怪我のについて詳しく教えてもらえますか?」
「ああ、それなら階段から転んだだけですね」
「なっ、階段から落ちた程度でこのような酷い怪我を負われたといのか!?」
「ええ、そですけど。他に質問は?」
アンリ伯爵の怪我は明らかに階段から落ちて負う範囲を越えているが、言い切る将也と何も言わない伯爵によってそれ以上は何も聞けないキース。
「では、伯爵の屋敷から物がなくなっているのはなぜですか?」
「ああ、それなら伯爵が僕にくれました。ご厚意でね」
端から怪しさ満点の将也であったが、キースはますますもってよほど怪しく感じる。
将也が何かしたのは事実なのであろうが、今現在それを判明することはできない上に、
自分には罪人を王都に連れ帰る任務があり、それに支障を来すようなら無理に介入することはできない。
キースは、結局のところ今の状態で自分ができることもすべきこともあまりないと判断し、自分の任務についての話をする。
「わかりました。そういうことにしておきましょう。遅くなりましたが、アンリ伯爵様、この度は我ら騎士隊へのご協力ありがとうございます。別館は騎士の疲れを癒すのに役立たせていただきます」
伯爵は何も応えない。
「今回の事件の顛末について聞かせてもらえますか?我々は詳しい話を知らないので」
「わかりました。此度の事件は、政務のため王都から他の街へ向かう途中の第3王子殿下が道中で魔物に襲われ命を落とすというものでした。現場にかけつけた我々が殿下の死体と護衛の騎士たちの死体を発見するも、護衛の騎士の死体の数が1つ足りないことが判明しました。逃亡者がいると判断し、足跡から後を追いかけ、任務放棄の罪と王族殺しの幇助として捕らえ、王都に連行している所です。」
要約すると、王子が魔物に襲われた時に逃亡した騎士がいると。騎士としても対応できない魔物はいるため、逃げ出しただけなら多少の懲罰程度で済むことだろうが、護衛対象が王族であることがまずかった。
強大な魔物に襲われ、自分たちが太刀打ちできないとしても、まずは王族の盾にならねばならない。最終的に王子も殺されるとしても、護衛の騎士たちは、必ず王子よりも先に命を落としていなければならないのだ。
そのため、護衛についた騎士の数と死体の数が合わないということはそれだけで大問題なのである。
キースの話を聞いた将也は、罪人に興味が湧いてくる。
(この王族至上主義の時代の世界で生まれ育ってきた人間がそんなこと出来るなんて面白いな)
「その罪人に会わせてもらえますか?」
興味のままにキースに依頼する。
「なぜでしょうか?」
「ろくでもない罪人の様なので僕も顔を一目見ておきたいんですよ。国王陛下の威光を理解できない罪人がどんな顔をしているよか把握しておきたいんですよ」
「まぁ、そういうことでしたら良いでしょう。後で案内します」
(この手の輩は国王がどうとか言ってればチョロいから楽だな)
その後は、騎士団が用意してほしい物資や、罪人捕縛の際に傷を負った者たちへの対応、出発日などの簡単な打ち合わせのみを済ませた。
キースに案内され、伯爵と将也は罪人に面会するために別館へと移動する。
罪人を拘束しているという別館の一室の前につく。
部屋の前には二人の騎士が見張りに立っている。
見張りの騎士たちに面会の旨を告げて、将也と伯爵とキースが入室する。
部屋の中にいたのは、手足を鎖に繋がれた女騎士であった。
長く真っ直ぐな金髪に凛々しい顔付きで本来なら美しい容姿なのだろうことは容易に想像できるが、体中に傷を負い、泥にまみれた跡があり、髪は乱れたままで、ボロボロの状態である。
(美しいな。これが、終わりを拒否して自分の生命を守るために全力で力を尽くした者の姿か)
護衛対象を放って逃げ出したあげく、追手の騎士たちにも最後まで抵抗したあげくのボロボロの姿を、将也は理屈抜きに美しいと感じた。
どこか神秘的ですらあるとも感じていた。
罪人の姿を美しいと感じた瞬間に、将也の心が決まる。
(少々予定外だが、まあ良いだろう)
瞬間、伯爵が狂ったように大声をあげる。
「この、罪人めがぁ!貴様も王子殿下の苦しみを思いしれぇ!」
伯爵は懐から取り出した短刀で縛られている罪人の胸を突き刺す。
突然の事態にキースは伯爵の狂行を止めることができなかった。
罪人の女騎士の胸に深々と短刀が突き刺さり、女騎士は絶命する。
将也は、その場で伯爵を取り押さえた。
伯爵は王都へと連行されることが決まった。
いくら高位の貴族様といえど、王族殺しに関与した上に王の元へと連行される途中の罪人を勝手に殺すことは許されない。
死亡した罪人の代わりに伯爵が拘束されることになり、将也は誰もいなくなった伯爵の執務室へと戻った。
「やぁ、気分はどうかな?」
◇◆◇
エリザベス・スウェードは茫然としていた。
どこかもわからない部屋の椅子の上で固まっていた。
自分が今どういう状況なのかも全くわからない。気づいたらこの場所にいたのだ。
記憶を思い返して考える。
自分は騎士たちに捕らわれていた。拘束さるている部屋に若い男とボコボコになっている男と騎士が入ってきた。そして、ボコボコのデブ男の方が急に叫びだしたかと思うとその瞬間にはここにいたのだ。
あの瞬間に起こったことの真相は、まず将也が『完然神通力』で伯爵を操り、叫ばせて伯爵にキースの目が行った瞬間にエリザベスをこの部屋に転移させたのだ。そして、その瞬間のうちに続けて、『真祖』の能力でドッペルという魔物を召喚し、エリザベスの姿に化けさせて入れ替えて伯爵に刺させたのだ。
しかし、エリザベスはそのような事情は全く知らないため事態を把握できない。
先ほどの拘束されていた場所でないことは確かなのだが、未だに鎖は健在のため、逃げ出すことも出来ずただ時が過ぎていく。
しばらく時間経つと、部屋のドアが開き、先ほど自分の元を訪れた若い方の男が部屋に入ってきた。
「やぁ、気分はどうかな?」
この姿で気分が良いわけはないが、警戒のため、エリザベスが迂闊に何も言うことはない。
◇◆◇
「ああ、そんなに警戒しなくても良いよ。俺は君に危害を加えるつもりはない。俺は将也っていうんだ。君の名前を聞かせてもらえるかな?」
「…エリザベス」
将也の問いにエリザベスは小声で簡潔に答えた。
「エリザベスか良い名前だね。じゃあエリーだね」
リヴェータの時同様、将也の初対面なのに愛称で呼び出すシリーズが発動した。
「あなたは、…何者、ですか?」
「うーんと自分が何者かなんて説明は難しいから僕ができることを簡単に説明するね。僕は、君をあの状況から一瞬でここに連れ出しこうやって君と二人で会話する場を容易く作ることができて、君が望むなら、君を処刑されずに生かすことも容易くできる者だよ」
将也の言葉を聞き、エリザベスの目に力が宿る。生きたいという意志だ。
「そ、それなら、私を生かしてください!お願いします!」
「かまわないけど、君は僕に何を差し出せるんだい?」
「なんでも、私に可能なことなら何でも差し出します!だから、どうか!」
生物の最大の本質の1つは生きていることである。
どのような生物も生まれ落ちた瞬間から、死を避け、生命を持続させる本能を持っている。
人間のみが、高い理性により時に本能を抑え込み、死を避けないという行動を取ることができるが、それも生物としての本能がないわけではない。
例えば、エリザベス以外の死んだ護衛騎士たちにも、もちろん遺伝子の底から死にたくないという本能が湧き出ていたはずだが、それを身分や任務などの難癖をつけて抑え込んで死んだのだ。
もちろん、自身の生命も含めた大切なモノの価値観は人それぞれであるので、死んだ騎士たちとエリザベスのどちらが良い悪いというわけではない。
ただ将也が、エリザベスのひたむきに不可逆な死を拒否し続ける力強さを美しいと感じただけだ。
「なんでも、か。じゃあとりあえずその言葉を誓うキスを俺にしてもらおうか」
将也が言った瞬間にエリザベスが椅子から落ちる。
手足を縛られ、立ち上がれない程ボロボロで傷だらけの体を地面に這わせて将也の元へと寄ってくる。
地面で摺れる度に傷が痛み、苦痛を表情に浮かべるが、その目には、何の迷いも恥じらいもない。
(本当に美しい姿だ)
エリザベスの様子を見下げながら、あらためて感じる将也。
少し時間がかかったのち、エリザベスが将也の足下にたどり着くと、縛られた手や時には口すらも懸命に使用して、将也の体を掴みながら自身の体を立たせる。
自分からは動かない将也の唇に、背伸びをしながらエリザベスは自身の唇を重ねる。
将也は不思議な感覚を感じていた。
それほど長くはないし、触れただけというほど短くもないキス。性的な興奮もないが、ボロボロの相手への嫌悪感も全くない。自分への愛情を感じるわけでもないし、自分からの愛情を求められているわけでもない。
何というか、ただ、ただ、生きたいのだという願いを唇に乗せて伝えられた様な気がした。
将也から唇を離した瞬間にエリザベスの姿が綺麗になる。
傷や汚れは全てなくなり、ボロボロの着衣も新品同様になり、手足を縛っていた鎖までも無くなっている。
将也が『真祖』の『存在超修復』で回復したのだ。
『存在超修復』はバンパイアの持つ回復能力の最高形態で、指定した対象の存在状態を任意の状態まで修復できる能力だ。
リヴェータは自身の完全回復を認識すると、その場で座り込んで声をあげて泣き出してしまった。
金髪で凛々しい美人の大人の女性が声をあげて泣いている。
(かわいい…)
これはこれでありだなと、先ほどまでとは明らかに違う、正義的な観点からエリザベスのグッドポイントを発見した将也だった。
やっとのことで二人目の女の子が登場です
タイトルはおもっきしパロりましたが、話の流れは全然違うしあんなモンスター面白い話でもないんでゆるしてくだぱい。




