第14話:バサラ
山の麓で馬を木に繋いでから山を登り始める。
森などはなく、ごつごつとした岩山と言った感じの山だ。
ハジャコングの縄張りだからだろうか、他の魔物は見当たらない。
かなり険しい山道だが、将也には余り関係ない。
スイスイと飛ぶように山を登っていく。
山の5合目ぐらいの場所にさしかかったところで、ゴリラが現れはじめる。
赤みを帯びた茶色の毛並みで大きな牙を生やした体長4㍍ほどのゴリラが一匹。
とりあえずスマホで[鑑定]してみる。
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グドウコング オス
32歳 魔物 レベル78
力:456
防御:387
魔力:110
俊敏:395
スキル:『身体強化LV8』、『毒牙』
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今まで鑑定したなかで将也を除いて一番高いステータスである。
しかも、こいつはどうやらハジャコングではなく、下っ端のようだ。
(中々にレベルが高いな。他のSランク冒険者たちを知らないが、この段階でこの強さのゴリラが出てくるならかなり危険なのも納得だな)
ゴリラに向かい、構わず進みはじめる将也。
ゴリラはこちらに飛びかかってきたが、手も触れずに『完然神通力』で首を引きちぎり絶命させる。
一応死体は異空間に収納しておく。
少し進み、狭い1本道を通っている時に前方から大岩が転がってくる。
どうやらゴリラにもある程度の知恵は在るようだ。
どうしようか迷ったが、いつか使えるかもと思い、転がってきた大岩をそのまま異空間に収納する。
狭い道を抜けると広げた山道になっており、山頂が見えてきた。
同時に辺り1面に先ほどのグドウコングが大量に見える。
大きさは様々で、先ほどの個体よりも明らかに大きく、体中に傷のある個体などもいる。
景色のゴリラゴリらしさに一瞬立ち止まる将也であったが、すぐにそのまま進みはじめる。
ゴリラたちは、一斉に将也に飛びかかってくるが、将也にたどり着く前に、例外なく『完然神通力』で首を引きちぎられたのち、異空間に収納されていく。
ゴリラを意に介さずペースを落とさずに進み、やがて襲ってくるゴリラがいなくなった頃に頂上手前の巨大な岩門の前につく。
かなり巨大で、何トンあるかも想像がつかないようなデカさであったが、『金剛琿戟神体』があるため、なんなく開けられる。
門をくぐり、岩のかいだんを上がると山頂付近の開けた場所に着く。
真っ赤な毛並みの体長2㍍ほどのゴリラがいた。傍らに金と赤の細い棒のような武器が刺さっている。
大きさは、今までのゴリラの中で一番小さいがこいつが一番ヤバそうだと直感できるような何かを感じる。
「よくぞ来たな。武の頂きを求めるものよ。人間がここに辿り着いたのは実に300年ぶりだぞ」
突如ゴリラが流暢な日本語で喋りだした。
ゴリラに答えもせず、将也は鑑定をはじめる。
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ゴグウ オス
654歳 魔物・皇帝種:ハジャコング レベル555
力:14560
防御:10836
魔力:845
俊敏:12695
スキル:『身体強化LV23』、『金剛体』、『武の極み』
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鑑定結果とゴリラの言葉で、道中から薄々感じていた考えが確信に変わる。
(こいつ明らかに伝説とかそんな類いの魔物だよな。まず喋ってるし、固有名持ちだし、皇帝種ってのがよくわからんけど多分ヤバいやつだし、ステータスは見るからにヤバそうだし。300年振りだとか言ってるしギルドで言ってたSランクパーティー二組は多分道中でやられたんだろうな。多分昔からのこのゴリラの伝説というか伝承によって危険な魔物がいるらしいとかなんとかとして討伐依頼が出てたんだろうな)
「えーと、ゴリラさん、一応聞いとくけど俺のなんかペット的なものになる気はない?強そうだし、珍しいやつみたいだから殺さずに有効活用してあげるよ?」
「笑止!我が求めるのは武の頂きと武の中での死のみよ。他人に飼い慣らされる生などはお断りだ」
「ですよね。まあしゃあないかぁ。じゃあ残念だけど死んでね」
「中々におもしろいやつが来たな。ふん、果たして死ぬのはどちらかな」
ゴリラは傍らの棒を手に取ると、その場でブンブンと華麗に回しだした。
「では、参る!!」
『完然神通力』でさっさと終わらせようと思った将也であったが、ゴリラが視界から消えたかと思うと、自分の横から檄音がする。ゴリラの棒での攻撃が『女神の愛護』に防がれた音の様だ。
全然見えなかったゴリラの速さに少し驚きながらも、ゴリラの動きを目で追おうと意識してみると、『金剛琿戟神体』が目にも作用したのか、容易く、自分の周りを高速で移動しながら攻撃を仕掛けては全てアイギスに阻まれるゴリラの姿を認識することができた。
ゴリラが一旦距離を取る。
「なんなのだその盾は?なぜ我の攻撃で傷1つ付けられるのだ」
そんな問いに答えることもなく、将也は『完然神通力』を発動する。
今度こそ、ゼウスパワーの魔力でハジャコングを捕らえた将也は、早速他のゴリラと同じように軽く首を捻りちぎろうとする。
驚いたことに、ハジャコングは捻られ出した自分の顔を手で押さえてほんの一瞬の抵抗を見せた。
しかし、すぐにそのまま頭部が体から離れ絶命した。
「すごいな、皇帝種ってのは。神の力にほんの一瞬でも抵抗できるのか」
素直に驚きを軽く呟きながら、ハジャコングの死体を異空間に収納しておく。
その場に残ったゴリラの武器の棒を鑑定してみる。
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帝挺如意棒 SSランク
変幻自在に形を変えることのできる伝説の武器。山を潰す程の大きさにすることもできれば、鋭い刃を作るなど、棒以外の形状のを取ったり、分裂・結合させることなどもできる。
また、使用者の手から離れていても自在に操ることなども可能。
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製作者や素材などは、記されなかった。鑑定も万能ではないということか。
「おおふ、すげーなこれ。世界初の確認のとれたSSランク武器じゃないか」
棒を拾い上げクルクルと回したりしてみる。
もちろんだが、今回の戦利品にする。
帝挺如意棒で色々試して遊びながら、山を降りていく将也。
下山中は、ゴリラが襲ってくることはなかった。
ちらほらとゴリラの姿は見えるので全滅したわけではなさそうだ。
帝挺如意棒で遊ぶのに飽きたら、大きさを片手の平サイズにしてポッケにしまっておく。
何事もなく麓にたどり着き、何事もなく馬で街まで戻った。
日が落ちると同時に街に帰り着いた。
夜になると同時に大きな常用門は閉まるため、将也がその日最後の入門者だったようだ。
ギルドに報告に行こうかどうしようか迷ったが、
もう夜だし、早くリヴェータに会いたいし、ギルドへの報告は明日にすることにした。
宿の裏にある馬小屋に、誰もいなかったので勝手に馬を入れておく。
宿へ帰ると1階でリヴェータが1人で夕食を食べていた。
将也もリヴェータと同じテーブルに着く。
「ただいま、リヴ」
「おかえり、将也。遅かったから先にご飯食べてるわよ。依頼受けてたの?」
「そうなんだよ。ちょっと遠目のところで、馬に乗って行こうとしたら乗り方がわからなかったりして思いの外時間がかかっちゃったんだ。あ、すいませーん、僕にも夕食持ってきてください。」
「ふーん、そうなんだ。依頼の方はどうだったの?達成したの?」
「ああ、そっちは問題なく達成したよ。ギルドへは明日報告へ行くよ。今日はリヴに会いたくて早く帰ってきたんだ」
中々にくっさいセリフを吐く将也だったが、初夜を経てまだ1日目のためか、リヴェータは顔を赤らめている。
夕食を食べ終えると、宿の店員に馬小屋に馬を入れたことを伝え銀貨を数枚渡して世話を頼んでおいてから、二人で部屋に戻り、リヴェータとのものすごく幸せな夜を将也は過ごした。
タイトルのバサラはバーサスゴリラの略です。




