第12話:卒業式
買い物を済ませた翌日、将也とリヴェータは宿で朝食を済ませてから冒険者ギルドへと向かう。
リヴェータは昨日買った装備一式を着用しており、ルンルンな様子だ。
ギルドへ着くと、受付のセシリーさんのみが怯えた表情になっていたが、それ以外は特に何もなかった。
リヴェータが依頼の案内板を確認する。
「ちょうど良さそうな依頼はないわね。仕方ないわ、依頼を受けずに森に行きましょうか」
リヴェータさんの本日の目的は、新装備のお試しであったが、お試しにちょうど良さそうな依頼がなかったため、森に行き普通に試すことにする。
ギルドを後にして、街から出て、将也とリヴェータが出会った森へと向かう。
森へと向かう道中でホワイトラビットというTHEウサギな魔物と3度遭遇し、その度にリヴェータが一刀の元に臥していた。
「このレベルじゃ、全然わかんないわね。水の操作で切れ味が良くなった気もするけど、ホワイトラビットなんて元から一切りで仕留めてたし」
ホワイトラビット以外は何にも遭遇することなく、森についた。
この森は特に名前などはなく、サザールの街の南側にあるので南の森と呼ばれているらしい。
意気揚々と森の中を進んでいくリヴェータ。
「今日は将也は何もしなくていいから。私が怪我しないようにだけ注意しておいて」
と予め、結局どうすればいいのかわからないような指令を受けていた将也はリヴェータの半歩ほど後ろを付いていく。
15分ほど森を進むと、茶色の熊の様な魔物がこちらに背を向けて座り込んで食事しているのを発見した。
熊は体長三メートルほとで、頭に黄色い傘の立派なキノコが生えている。
ぐっちゃぐっちゃと肉を食べる音が聞こえてくるが、食べているところは見えない。
きっとそれなりにグロい感じに仕上がっているのだろう。
スマホを取りだし[鑑定]しようとする将也だったが、それよりも先にリヴェータが話し出す。
「ベアマッシュね。Cランク相当の魔物でキノコの部分が熊の部分を操っているのよね。倒したことはないけど今ならいけそうな気がするわ。将也は私が怪我しないように気をつけておいてね」
鑑定するよりも先にリヴェータにだいたい説明されてしまう。
「わかった」
リヴェータは剣を抜いて息を潜めながら、食事に夢中なベアマッシュに後ろからゆっくりと近付き、水を纏わせた剣でベアマッシュの背中から斜めに切りかかった。
ベアマッシュは見事に両断され、崩れ落ちそうになるが、頭についているキノコがブルブルと震えだし、分断された上半身がくるっと振り返り、崩れ落ちながらもリヴェータに鋭い爪で切りかかる。
リヴェータは剣を力の限り振り抜いた姿勢だったため、かわすことができない。
「ちょ、まさ」
リヴェータに向かったベアマッシュの手が、突如リヴェータの前に現れた純白の大盾に防がれる。
最後の力を振り絞っての反撃だったのか、ベアマッシュの上半身は地面に落ちるとそのまま動かなくなった。
リヴェータを守った大盾はもちろん将也の『女神の愛護』である。
他人にも使用できる能力だったので、昨日のうちからリヴェータに発動している。
「ふぅ、あせったぁ。今の盾は将也がやってくれたのよね。ありがとう」
「うん、そうだよ。どういたしまして。リヴェータが危なくなったら今みたいに盾が守るからほぼ絶対大丈夫だと思うけど一応気をつけなよ」
「あら、そうなの。ありがと。それにしてもやっぱりこの剣切れ味かなり良いみたい。ほとんど抵抗なく切り裂けたもの。あんなに力込める必要もなかったわね。」
ベアマッシュの死体を指環に収納してから先に進むリヴェータと付いていく将也。
そんなこんなで2時間ほどゆるりと試し切りして森を歩いてから、街へと戻り出す。
結局、ベアマッシュより強力な魔物に遭遇することはなく、オークやゴブリンや狼系のよく出会うらしい魔物がほとんどだったので、リヴェータはつまらなそうにしながらも、ウンディーネの剣には大満足なようである。
まだ、水刃を自在に操って飛ばせるほどではないが、けっこう扱い方がわかってきたと嬉しそうに語っていた。
将也はというと、日本においても王道に有名であったオークやゴブリンを見るのはそれなりに楽しかったし、日本では絶滅してしまった狼を生で見れたのは少し嬉しかったりもした。
お互いそれなりに楽しかった成果を果たして、街に着く。
既に日が暮れ始めていた。
討伐した魔物の素材を売りにギルドへと向かう。
ギルドへ着いて、売却カウンターでリヴェータが素材を売る手続きをしているのを後ろで待っている将也は後ろから声をかけられる。
「あの、い、イワシロ様にお、お話、というか、お伺いしたいことがあると支部長が言っていたのですが、お時間の都合の良いときはありますでしょうか…」
完全に怯えきったセシリーさんがオドオドと用件を告げる。
MOなはずの将也でさえ、嗜虐心を少しそそられるほどの怯えっぷりである。
「そうですね。気が向いたら行きますよ、とお伝えしておいてください」
「え、は、はい。かしこまりました…」
将也の来るかすらわからないような曖昧な返事に一瞬戸惑ったセシリーさんであったが、恐くて追及することなどはできないので、そそくさと戻っていった。
「何の用だったの?」
「たいしたことはないよ。支部長が話があるとか。売却は終わったの?」
「ええ、終わったわ。全部で32400ルベルだったわ。ベアマッシュ一頭で30000ルベルもしたの。私の今までの中でも最高金額よ。売却カウンターの人が顔見知りなんだけどその人も色々ビックリしてたわ」
それもそうだろう。つい数日前と比べるとリヴェータは装備によって格好と戦闘力とそれによる成果が急激に上昇したのだ。
ちなみに先ほどリヴェータを鑑定してみたところ、レベルも14から20に上がっていた。
ギルドを出て、街で店を探して夕飯を食べてから宿に戻る。
宿に入ると女将から声をかけられる。
とうとう待望の瞬間が来たようだ。
リヴェータは少し微妙そうな顔をしたあと、「まぁ、しょうがないか」と言って承認してくれた。
二人はそれぞれ1度部屋に戻り、また一階に戻ってきて二人部屋の鍵を受け取る。
部屋の扉の前でリヴェータが顔を赤らめながら、言葉を発する。
「言っとくけど、わ、私、そういうことしたことないから。あ、あんまり期待しないでよね」
正直、将也は緊張と興奮の余り正常な状態ではなかったが、リヴェータの発する初めてという部分をかろうじて聞き取りさらに興奮し、鼻から出血を始める。
女性の処女性というのは中々に重要な事柄である。
それは男性の気持ち的な問題だけではない。
性行為を行うということは、それだけで危険を伴う。妊娠や病気にかかる危険もあれば、単純に膣などが傷付く危険などもある。妊娠などの身体機能を考えると男性よりも女性の方が遥かに危険度は高い。
どれだけ対策しようとも、それらの危険は完全に100%拭いきれはしない。
つまり、女性が処女ではないということは、これらの危険性を経てきたということである。
非処女が悪いというわけでは決してないが、処女ということにはそういった意味では価値がある。
もちろん、その状況で性行為を行うメリットが(主には自分が得る快楽など)、それらの危険性などのデメリットよりも勝ると思われるならそれは何の問題もないのだろう。だってメリットの方が多いならトータルプラスなのだから。
しかし、どんな哺乳類でも交配や出産には必ずしも何かしらの危険が伴うので、それを経験していないということは、単純に身体的条件として、相対的に経験した者よりは価値があると言えるというただそれだけのことだ。
リヴェータは将也と出会うまでも、色々男を利用してきたが、肉体関係を持ったことはなかった。
ある程度の色気を駆使することはあったが、最後まではさせずに色々な男を最大限頑張らせることが有効だったし、体を許すということは女として自分が与えられる対価的なものとしてほぼそれ以上はなく、そうなるとそれに見合った最上位のものを自分に与えられる者にしか易々とは肉体関係は持てなかった。
単純に今までの条件面で将也はその点では、リヴェータのお眼鏡にはかなっているようである。
なんといっても、出会って2日後に800万ルベルの大金を貢いだのだから。
リヴェータの気持ち的な面でも将也のことはそれなりによく思っていた。
最初の出合いは恐怖しかなかったが、自分が何かされたわけでもないし、この数日で将也自身が会話などもしやすく気遣いも出きることはわかっていた。
自分に対する将也の反応などは少しかわいいとさえ思えてくるほどだった。
覚悟を決めたリヴェータは将也の鼻血を拭いてやり、意識が何処かに飛んでいた将也を軽くビンタして正気に戻してから二人で、昨日までの部屋のものよりは少し大きめなベッドに入り一夜を共にする。
(とても哲学的な経験をした)
と故ボナパルト氏の言葉を借りて、リヴェータとの夜を表現した将也だった。
知っている方も多いかもしれませんが、ボナパルトというのはナポレオンのことです。一応。
たしか、ナポレオンの自伝的なやつに、初経験のときのことをそう記していたとか。