第11話:可愛い女の子には物を買い与えよ②
武器屋を出た将也とリヴェータは、魔法具屋に向かう。
武器の次は防具だろうと漠然と思っていた将也だったが、リヴェータ曰く先に買って置きたい魔法具があるらしい。
魔法具とは何らかの魔法の力が込められた道具のことであり、使用者が任意で発動できる便利なものが多いそうだ。
魔法具の店が多い区画についた。
魔法具屋は、武器屋よりも怪しい雰囲気の店が多く、店舗の外観だけから見ればかなりピンからキリまでといった印象だ。
迷いもなく一番高級感溢れる店に入っていくリヴェータさんの後に続いていく。
店内に入ると、綺麗に商品が陳列されていた先ほどの武器屋とは違って、小物程度の大きさの道具がどちらかといえば所狭しといった感じで陳列されていた。
将也たちの入店に気づき、奥から身なりの良い妙齢の女性の店員が出てくる。気品はあるが、派手すぎずといった印象の格好だ。
武器屋のときと同じように一瞬の嫌そうな顔が見られるかと思っていた将也であったが、先に入ったリヴェータが大事そうに抱えているウンディーネの剣の入った高級そうな箱を目に入れたのだろうか、魔法具屋ではそのような素振りを見ることはなかった。
「いらっしゃいませ。本日はどういった魔法具をお探しでしょうか?」
「収納の指環が欲しいのだけれど置いてあるかしら?出来るだけ容量の大きなものがいいのだけれど」
収納の指環というのは、空間魔法により創られた、無生物を出し入れできる異空間の能力を扱える指環とのこと。
「かしこまりました。収納の指環でしたらこちらになります。収納できる容量の大きさによって値段が違い、一番容量の大きい物でしたら200万ルベルとなっております。こちらの容量は……」
指環は、少し大きな赤い宝石がついており、金属製の円の部分には何か紋様のようなものが施されていた。
店員が説明してくれた一番大きな容量はこの店舗の売り場程の大きさだとか。
将也は、だいたい少し大きめの学校の教室といったところかと感じた。
「それをいただくわ。将也、お願いね」
「わかったよ。じゃあこれでお願いします」と言って素直に金貨200枚を店員に支払う。
今回は抵抗する気はない将也だった。
これ以上のリヴェータのおねだりによる出血は、自分がちょっとやばそうだと思ったからだ。
店員から指環を受け取ったリヴェータが指にはめると、指環の仕組みだろうか、リヴェータの右手の人差し指にピッタリとフィットした。出来ればであるが、将也は左手の薬指に着けて欲しいところだった。
リヴェータが抱えていた、剣の箱が収納される。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
深々と頭を下げながら店員が見送ってくれる。
既に、決闘で得た金800万ルベルの半分以上の額の450万ルベルが消し飛んでいる将也であったが、リヴェータさんにはそんなことは全く関係はない様子で、防具屋へとまっすぐに向かっていく。頼もしい限りである。
防具屋の多い区画へ行き、もちのろんで一番高級感のある店に入る。
「いらっしゃいませ。本日はどのような防具をお探しでしょうか?」
「私の防具を買いにきたの。全身を覆う鎧みたいなのじゃなくて、上半身だけを覆えて私でも問題なく、動けるような軽いものが良いわ。とりあえずそんなので一番良いのを見せてくれる?」
「かしこまりました。こちらにお越し下さい。こちらにあるのはAランクの防具で、バナールの盾と言われるものです。バナールというのは有名なドワーフの職人のことでございまして、バナール氏の作った防具はその形状に係わらず全てバナールの盾と呼ばれます。こちらのバナールの盾は、メイル型と籠手型のものがあり、表面は魔法耐性のあるボルグパイソンの硬皮で、そのなかに、衝撃耐性のあるゼータゲルスライムの素材が含まれており、さらにその内側には、防刃性に優れるクルーエルクロウの大羽を編み込んだ物が入っています。そのため、あらゆる攻撃に対して優秀な防御性能を持ち、重さもとても軽く、ゼータゲルスライム素材の特性のため伸縮性にも富むため、使用者の体の大きさに自動で馴染む様にもなっております。」
将也が、店員が紹介した防具をこっそりスマホで[鑑定]してみたところ、さすが一流店といったところか、ほぼ店員の説明通りのことが表示された。
今の格好の上から簡単に試着してみたリヴェータはどうやら気に入ったようである。
「あら、それは凄い良さそうじゃない。値段はいくらするの?」
「はい、こちら、メイル型の方が120万ルベルで、籠手型の方が50万ルベルとなっておりますが、セットでお買い上げいただけるなら合わせて150万ルベルで販売させていただきます」
「じゃあ両方一緒にいただくわ」
リヴェータが言い終わるよりも速く将也は店員に金貨を支払い始めていた。
金貨150枚を支払い終え、メイルと籠手を受け取ったリヴェータが指環に収納する。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
この店でもぴっしりとした礼で見送ってくれる店員を背に店を出る。
店を出て通りを歩きながらリヴェータと話す。
「次はどうするの?これで欲しいものは全部買った?」
「まだよ。次は服とかを買うわ」
「お、服か。それは良いね」
リヴェータの色々な服装が見られるのはウェルカムな将也。
「でしょ?じゃあ、はい」
はいと言いながらリヴェータが手を広げて将也の前に差し出してくる。何かを渡せといった形の手だ。
正直そのうち言われるだろうと思っていたので、将也はだいたい予想はついていたが、もしかしたら違うかもしれないという希望にかけ、とぼけてみることにする。
「ん、なに?」
「お金」
「お金がなに?」
「だから、収納の指環も買ったことだしお金は私が預かっておくわ。一々商品を買うときに将也が支払うのも手間だし」
「い、いや、いくらなんでも、それはちょっと…一応俺が得た金だし…」
「預かっておくだけよ。将也は色々買ってくれたからお金の管理ぐらいは私がしてあげたいの。あ、それならナンドユの分は将也が持っておいていいわ。これでいいでしょ」
「いや、で、でも……」
「二人部屋がもうすぐ空きそうだって女将さんが言ってたんだけどな…」
「はい、これ。リヴが持ってて。欲しいものがあったら何でも買っていいから」
リヴェータに残りの金貨200枚を手渡す。すぐにリヴェータの指環の収納に消えていく。
「うん、ありがと。じゃあ服買いに行こっか。将也も一緒に選んでね」
飛びきりの笑顔でリヴェータが将也の腕に掴まり、幸せな感触を感じながら、服屋へと向かう。
(超幸せじゃん。金貨200枚程度の価値は全然あるな。あれ、これが日本円にして2000万程度の価値あるのか?さすがにそこまではなくね?あれ?わけわかんなくなってきたぞ)
色々と自分が、リヴェータにおかしくされて来たことに2000万円程度の金を手渡したことで気付きかけた将也であったが、合計で8000万貢いでいることのヤバさには気付くことは流石に出来なかった。
いや、なんなら薄々というか、心の奥底では全てに気付いていた将也であったが、将也は中々のMOであったためにリヴェータのこういう感じやこういう状況もわりと有りだと思っていた。むしろ好物だ。
服を買って回る間は普通に楽しい時間だった。
色々試着したり、悩んだりするリヴェータを見られたし、武器や防具よりも気軽な感じで色々な店を回ることができた。
リヴェータは値段は問わず自分が気に入った服を買っては指環に収納し、所々の店では仕立てをたのんだりしていた。
3時間近くかかった服の買い物が終わる頃には預けた200万ルベルの半分以上の額がなくなっていたが、
リヴェータが将也にも(広く着られているような安い)服を何着か買ってくれたのと、買い物終わりに高級なレストランで(将也の預けた金で)ご馳走してくれたりした優しさに将也は益々入れ込んでいくのだった。
ちなみにであるが、将也はこの日の高級なレストランで生まれて初めて飲酒した。
リヴェータがおもむろにワインを注文しだしたので、将也も同じものを注文してみたのだ。
くそ真面目に法令を遵守していたわけではないが、ぐれていたわけでもないし、別段飲む機会などもなかったために、日本ではお酒を飲んだことはなかった。
正直に言って生まれて初めて飲むお酒はおいしいとは感じなかったが、飲めないほどではなかった。
酔っ払ったのかはわからないが、少しだけその日はテンションが高くなった。




