第10話:可愛い女の子には物を買い与えよ①
将也は決闘を終え、金を手に入れてルンルンで冒険者ギルドを後にする。
ギルドから宿屋への道の途中で露店を見ているリヴェータを見かける。中々幸先も良いようだ。
リヴェータは今日は街の外へは出るつもりがないためだろうか、ワンピースの様な服を着ていて素晴らしい。
「リヴ!こんなところにいたのか。何か良さそうな物でもあったのかい?」
「あら将也、決闘はもう終わったのかしら?中々早かったわね。色々見て回ってたのよ特にこれと言って良い物はないわ」
「だったらリヴの武具とかを買いに行こうか。決闘に勝ったからけっこうな額の金が手に入ったんだよ」
リヴェータには決闘に金を賭けていることは言っていなかったために、リヴェータは少し驚いた顔をしている。
「へぇ、決闘にお金も賭けてたのね。いくらぐらい手に入れたの?剣ぐらいなら買えるかしら?」
「そ、それは、ちょっと、あの…」
「うん?いくらなの?相手は3人だったから30万ルベルってとこかしら?」
「うん、あのね…ちょっとだけ言いにくいんだけど、800万ルベル…」
「800万!?それは…ちょっと……引くわね…」
「う、だよね。と、とりあえずお金はあるんだしリヴに何か買ってあげるよ」
「ありがと。当たり前のことだけどね。じゃ、行きましょうか」
近頃は、女王様感をあまり隠そうとしないリヴェータさんであったが、M男の将也からすればそれは加点ポイントにしかなっていなかった。
リヴェータの先導で武具の店が多い通りへと向かう。
冒険者の多い通りだけあって、冒険者ギルドからも近く、5分もあるかないうちについてしまった。
まずは剣を買うようだ。リヴェータは微塵の迷いもなく一番高級そうな武器屋に入っていく。
武器にもその性能により、冒険者ランクなどと同様にランクがあり、ランクもG~SSとほぼ冒険者に対応している。
SSランクの武器は、お伽噺よりは信憑性の高い伝承や記録の中でいくつか存在を確認されるのみで、今現在その所在が明らかになっているものは1つもないが、そのどれもが山を潰し、海を割り、天を崩す程の力を秘めているとかいないとか。
あとは概ね、冒険者などは自分の冒険者ランクに近い武具を所有しているものとのこと。
Sランクの武器などは、店に出回ることなどはほとんどなく、今将也たちが入った武器屋には、だいたいC~Aランクの武器が売られているのだとか。
店内に入ると立派な武器が混雑せず程よい配置で丁寧に並べられていた。客もちらほらとしかいない。
身なりの良い中年の男の店員が、入って来た二人も見てほんの一瞬だけ嫌そうな顔をしたもののすぐに飛びきりの笑顔で対応してくる。
中世風の武器屋で一見さんお断りということなどはないのだろうが、将也とリヴェータの格好はどう見てもこの店に合った格の冒険者には見えない。リヴェータは事実Dランクに上がったばかりの実力であるし、将也も装備は全てナンドユ兄さんからのお下がりを着ているからだ。
店側からすれば、場違いなガキ共が冷やかしに入って来やがったと思えるのだろうが、そこは向こうも業界トップレベルのプロの実力で、最初の一瞬以外はそんな心中を微塵も感じさせない見事な対応を見せてくれる。
「いらっしゃいませ。本日はどのような武器をお探しでしょうか?」
「私が買う剣を探しに来たの。予算はそれなりにあるから色々オススメを教えて頂けるかしら?」
「かしこまりました。ではまずこちらの剣なのですが、こちらは………」と色々と剣の説明をリヴェータにしていく店員。どれも店内に並んでいるB、Aランクの武器だ。武器の傍にランクと値段が表示されており、一番高いもので80万ルベル程度だ。
(うっわたっけーな。物価ちょい安めの世界で剣一振り800万て。まあそれだけ身を守る道具は重要ということか。この後の買い物のことを考えると少し不安になるが、買えない値段でもないしリヴが喜ぶならどれでもいいか)
将也君が中々に男前なことを考えていると、リヴェータさんがそれを上回る漢気発言で魅せる。
「ふーん。どれもなんだか今一つなのよね。この店にはSランクの武器はないの?お金もあることだし、どうせなら一番良い武器を買いたいわ」
額に浮かんだ青筋が少しだけ見えるようになってきた店員であったが、
「さ、左様でございますか。実は少し前に、引退したSランク冒険者の武器というのを入荷いたしまして、少々お値段が張りますがそちらをご覧になられますか?」
「あら、よさそうなのがあるじゃない。それを見せていたたごうかしら」
「かしこまりました。少々お待ちください」
店員は少しだけ荒れた歩調で店の奥に入っていき、しばらくすると綺麗な箱を抱えて戻ってきた。
「こちらになります」
と言って店員が箱を開けると、中には青を基調とした、派手ではないがシンプルで豪華さをも感じさせる装飾が施された鞘に納まった剣が入っていた。将也は鞘の装飾からなんとなくではあるが湖を連想した。
柄の部分には青く輝きを放つ宝玉のようなものが埋め込まれている。
店員はいつの間にか真っ白な手袋をつけていた手で、剣を鞘から丁寧に抜く。
剣身は青く透明感のある特殊な鉱石か何かで出来ているのか、剣の向こう側まで見えるような透明感と人を容易く魅了するような青く蒼い輝きを放っていた。
店員は剣を丁重にリヴェータに渡して説明し始める。
「こちらの剣は、銘をウンディーネの剣と申しまして、水精霊の力が宿ると言われている剣です。使用時には剣に水を纏わせることができ、攻撃範囲の拡大や切れ味の増大が可能となります。剣に水を纏わせているため、刃こぼれや、血糊などが付着する心配も一切ございません。また、剣を使いこなせるようになると、剣の部分を全て魔力のこもった水へと変えて、手元から離して離れたところをも自在に攻撃できることになるようです。いかかでしょうか?」
将也が少し離れたところからこっそりとスマホで[鑑定]してみたところ、性能的には店員の説明とほぼ相違はなかった。ちなみに相場などは[鑑定]ではわからなかった。
剣の説明を聞きながらリヴェータはスゴイ!などと言いながら興奮を隠せない様子であった。
先ほどまで気取っていたリヴェータ女王様ではあるが、Aランクまでは我慢できたようだが、自分自身が実際にDランクであることもあってか、初めて見る本物のSランク武器には勝てなかったようだ。
その様子も中々かわいいと思う将也氏がいる。
「すごい良いじゃないこれ!これをいただくわ!いくらかしら?」
「こちらは本来なら300万ルベルの商品なのですが、お客様はお美しいだけではなくお目も高い様なので、今回は特別に250万ルベルでお売りさせていただきます」
値段を聞き少しだけ目ん玉が飛び出した将也は、慌てて目玉を納める。今回は『完然神通力』には頼ることなく納めた。
「まぁ!美しくて聡明で完璧な美女だなんて!将也!武器はこれにするわ!」
やべぇ額であったため、将也は少しだけ抵抗することにする。
この状況で購入を避ける方法はエジソンにしか思いつかないだろうが、残念なことに将也はエジソンではないため購入が不可避なことを理解していた。
しかし、それならちょっとぐらい粘ってみたら購入は避けられないまでも、リヴェータの可愛いおねだりぐらいは引き出せるのではないだろうかキリッと考える。
「いや、ちょっと落ち着こうよリヴ。これはちょっと今のリヴが使いこなすのは難しいんじゃないかな。使いこなせない剣よりは向こうの他の剣の方がリヴには合うと思うよ」
「嫌なの!私はこの剣がいいの!これじゃないと嫌なの!」
頬を膨らませてプンプンと怒り出すリヴェータが可愛いすぎて買いますキリッと言い出しそうになる将也だが、強靭すぎる精神力で堪える。
「い、いや、でもさ、武器の性能が良すぎたらかえってリヴが危ないかもしれないじゃん。俺が買ってあげた剣でリヴが傷ついてしまったら堪えられないよ」
中々に粘る将也を見て先ほどまで可愛くプンプンしていたリヴェータが
小声で「チッ、さっさと堕ちろよ」と悪態を付きながら舌打ちをしと思うやいなや、
今度は一瞬でうるうると目を可愛く涙ぐませる。
中々の転身ぶりであるが、すでに黒目がピンクになっている将也には転身の真ん中の部分が見えることはなかった。
目をうるませたリヴェータが将也の腕に抱き着き、腕をおっぱお様に挟み込みながら上涙目遣いで、
「こんな凄い剣買ってくれたら将也からの愛感じちゃうな。将也、ダメ?」
「もちろん買うに決まってるじゃないか。この剣リヴに凄く似合うと思ってたんだ!」
「うれしぃ!ありがと、将也」
今度は満面の笑みになるリヴェータ。
将也の目が黒目からピンク目を経てとうとうハート目になってしまっている。
「すいません、これ買います」
「お、お客様‥は、鼻の方は大丈夫でしょうか?そ、その血が大量に…」
「ん?なんのことですか?それよりも会計をお願いします」
将也が鼻からボタボタと深紅の血を垂れ流していることを気にかけた店員であったが、店員も男であるためか、将也を見てすぐに何かを察する。
「っ!!か、かしこまりました。では、250万ルベル頂戴いたします」
「はい」と言いながらじゃらじゃらと金貨を250枚渡していく。
「はい、たしかに250枚いただきました。では、こちらが商品になります。お買い上げありがとうございました」
店員はそういって深々と頭を下げながら、
「いやー実に良い買い物をしたなぁ」と言いながら、剣の入った箱を大事そうに抱えたリヴェータに避けられるように、鼻血を垂れ流して深紅の道を作りながら歩いてく将也の背中を見えなくなるまで見送った。
まだ武器買っただけなのに思いの外文字数かかってしまった。反省
次もお貢ぎ回になるかと思います。




